連載
» 2001年10月16日 12時00分 UPDATE

TOC──全体最適による業務改革戦略ガイド(1):サプライチェーンの原点TOCとは何か

[竹之内隆,@IT]

<今回の内容>

  • TOCとは何か──TOCの起源
  • TOCの目指すもの──企業の“ゴール”は業績/利益
  • 個別コスト削減のムダ


TOCとは何か──TOCの起源

 1970年代後半にイスラエルの物理学者エリー・ゴールドラット(Eli Goldratt)博士は生産スケジューリングのことを相談され、物理学の研究で得た発想や知識を使って当時としてはアーキテクチャ面で画期的な生産スケジューリングの方法を編み出し、ソフトウェアに仕立てることに成功した。

 そこで、ゴールドラット博士はその生産スケジューリングソフトウェアをOPT(Optimized Production Technology)と名付け、米国にこれを販売する企業を設立し、会長の座に就いた。OPTは高価なソフトウェアであるにもかかわらず、それを導入した工場では生産性が大幅に改善され、生産リードタイムが劇的に短縮するという効果が出て一躍注目されるようになった。しかしゴールドラット博士はOPTの詳しい仕組みは一切公表せず、ソフトウェア開発もイスラエルで行っていた。この状況は、MRP(Material Requirements Planning:資源所要量計画)のように最初に提唱されたころからその仕組みが完全に公表されているものとはまったく違っていたのである。このため生産管理の専門家の中には中身が分からないOPTを無視しようとする傾向が強くあった。

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ザ・ゴール企業の究極の目的とは何か

エリヤフ・ゴールドラット著

三本木亮訳

ダイヤモンド社

2001年5月

ISBN4-478-42040-8

1600円+税

※注文ページへ



 そこで彼はこのOPTの基本的な原理を分かりやすく説明する小説を書くことを思い立つ。このアイデアに周囲は皆が反対した。しかし周囲の反対を押し切って彼は『The Goal』(邦訳『ザ・ゴール』ダイヤモンド社刊、2001年)という企業小説を書いた。この小説は周囲の心配をよそに爆発的な売れ行きを示し、たちまちミリオンセラーになってしまった。

 この『The Goal』の出版直後に、多くの読者から『The Goal』は自分の工場とまったく同じ状況を描いているとか、自分の工場をモデルにしたのではないかという手紙が舞い込むようになる。中には小説にあるとおりに改善を実施してみたら、小説とまったく同じような劇的な成果が出たという手紙もあった。このことはゴールドラット博士のみならず、周辺のメンバーにとってもショッキングな出来事だった。

 OPTというツール抜きで見事に企業改革、サプライチェーン・マネジメントの基礎を確立している企業が散見されるようになったからである。このことはゴールドラット博士の転機となった。彼自身はOPTの販売から身を引き、OPTの背後にある考え方をTOC(Theory Of Constraints:制約条件の理論)と名付け、経営コンサルティングに従事するようになったのである。

 このTOCという名前は、OPTのスケジューリングが工場内のボトルネック工程、つまり生産の制約条件に着目しているところから名付けられた。博士はさらにTOCをスケジューリング手法から、制約条件に改善活動を集中させる経営改善の手法へと発展させた。これが改善の5ステップである。

■TOC 5ステップ

  • ステップ1:制約条件の特定
  • ステップ2:制約条件の活用
  • ステップ3:制約条件に従属させる
  • ステップ4:制約条件を強化する
  • ステップ5:再度、制約条件を特定する


TOCの目指すもの──企業の“ゴール”は業績/利益

 TOCでは「改善」ということを厳密にとらえている。すなわち、「改善とはボトムライン(利益)を改善する活動のみを指す」ということである。従って、問題点を羅列して、全社員を巻き込むことに重点を置いてきたTQC(Total Quality Control)とは一線を画すのである。

 TOCが改善ステップの「ステップ1:制約条件の特定」を位置付けているのは企業全体のサプライチェーンを見渡した際に、真の制約条件こそがサプライチェーン全体の利益を規定してしまうという理解から、総花的に改善するのではなく真の制約条件から重点的にかつ真っ先に取り組むことを指摘しているのである。

 つまり、多くの問題点、課題が散在しているのが実在する企業の活動だが、片っ端から問題を解決していくことが利益直結の活動につながるとはいい難いという理解である。

 従って、TOCでは全体最適を追求し、個々の改善を積み上げる部分最適化手法を否定している。このことはすべての改善活動が企業の利益に直結していなければならないというゴールドラット博士の考え方に起因する。海外部品に置換し部品原価を削減しても、リードタイムが延びて製品の在庫がかえって増加してしまったり、結果的に値引き販売に走り販売経費が増してしまうようでは企業利益は増加しない。

 そこで、改善を測定する指標が必要になる。すなわち、改善活動が本当に企業活動にとって意味のある活動か否かを判断できる指標が必要になってくるわけである。ゴールドラット博士は、以下の指標を提示している。

■TOCの評価指標

スループット(T)=売上−資材費≒企業システムが売上を通して貨幣を創出する比率

純利益=スループット(T)−経常費用(OE)

ROI={スループット(T)−経常費用(OE)}÷在庫(I)

在庫≒企業システムが販売を意図するものを購入する際に投資する金額

経常費用(OE)≒企業システムが在庫をスループットに変換するために支出する金額



 これらの評価指標は、ゴールドラット博士の著書『The Goal』(1984年)、『The Race』(1986年)、『The Haystack Syndrome』(1990年)の中で初めて紹介され、その内容は多くの人が容易に理解できるものであった。これらの指標の目的は在庫と経常費用を最小限にしながら、スループットを最大化することにある。

 スループットは最も重要な概念で、売上から変動費の代表格である資材費を取り除いた利益を指す。また、通常スループットは製品単位で測定するのだが、合計したスループットは製品群、工場、事業部のスループットの合計値となる。さらに、時間当たりのスループットを測定し、これを最大化するために何をすればよいかを検討するところにTOCの特徴がある。

 すなわち、通常の原価計算は1カ月で締めてみて、ある工場、製品群、指図書単位に結果的に生じた原価を把握し、問題を探ろうとする。すでに過ぎたことを問題視するわけだ。

 TOCの指標はこれから生じるスループットを最大化するためにいかなる生産計画を組み替えればよいか、製造すべきか、購入すべきか、はたまた修理して出荷すべきか廃棄にすべきかを企業全体の利益に直結するか否かで判断しようとするのである。

 コスト管理の世界の前提条件は各部門、工程個別に指標を改善すれば企業全体の収益性が改善するし、各製品の標準原価を下げると企業のトータルコストは減るという考え方である。そこでの代表的な指標は、

■コスト管理の世界の指標

設備稼働率=稼動時間÷操業時間

標準原価=資材費+作業時間×ローディング



などである。

 TOCではROIも重視しているが、現場で簡便に利用できる分かりやすい指標として、スループット、経常費用、在庫の3項目に絞っている。この3項目の組み合わせであるROIは、全社の利益を代表する指標として、グローバル指標と呼んでいる。

個別コスト削減のムダ

 実際に、コストを下げても在庫がその分増大すればROIは改善されない。売上を上げても、経常費用や在庫が増大すればROIは改善されない。

「What is your Goal? Make More Money!」

 ベストセラーの『The Goal』を読んだ方であればだれもが知っているTOCの常とう句だが、TOCは企業が「現在から将来にかけて」利益を生み続けることが目的であることを指摘している。これは簡単な一言だが、実は深い意味を持っている。

 在庫削減やコストダウンをそれ自身単体で実施し、企業全体のバランスや、最も重要なスループットとの兼ね合いを気にせずに個別改善を積み上げれば結果的に企業全体が良くなるという神話は成立しないということを指摘している。あたかも図1では個別コストをプロセスごとに集約しているように見えるが、本来のサプライチェーンではチェーンの強さや速度を評価しなければならない。

ALT 図1 従来の会計手法では、コストを「生産」「販売」など個別のプロセスごとに集約し、それぞれがバランスすると解釈する

 ちょうど図2のようにチェーン全体の強さを評価すると個別に改善するのではなくて企業全体の中で最も弱い、本質的な制約を解消しなければ企業利益は向上しないことが分かるはずである。ひいては、サプライチェーン全体の利益は制約条件を解消する以外には向上しないことが容易に理解できよう。

ALT 図2 サプライチェーンは強さや速度が問題。チェーン全体の強さ(能力)は、一番弱い輪(プロセス)に依存する

 つまり、個別改善を積み上げるのではなく全体の中でどこに制約条件が存在するかを特定し、そこから手を付けることこそ、企業業績向上策にほかならないのである。具体的には、工場改善が相変わらずコストダウンに向かい、営業活動とはまったく同期が取れていない状況では、一見コストは下がっているようでも企業全体では効果が出ない実態がよく見られる。

■プロセス間の不同期が制約条件になっている事例

 ある自動車部品メーカーでは自動車メーカーに納入するOEMビジネス以外にもアフターマーケット向けに市販品として製品/部品類をカー用品専門チェーンに卸していた。

 販売部門はA製品の販売計画を9月からインプットしているのだが、生産部門は生産計画に10月から乗せていたのである。販売部門はカー用品店の本部バイヤーとの商談で9月から店舗陳列(ショーケース)用に数千台の販売計画を策定していた。しかし、生産部門は営業部門の商談進ちょく情報を把握しておらず、10月の数万台生産ロットにまとめて生産しようと計画していた。

 結果的に初期の供給ショートが店舗の期待を裏切る結果となり、10月末に数万台の出荷をしようにも店舗からの総スカンに直面する羽目になったのである。残在庫の山が倉庫にできてしまった。



 次回は、TOCのポイントである制約にはどんなものがあるか、それを改善する方法としてどのような手法があるか概説する。


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Profile

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竹之内 隆(たけのうち たかし)

シーアイエス株式会社 取締役。日本の製造業、総合商社でサプライチェーンマネジメントおよびERP(統合業務情報システム)の構築を軸としたコンサルティングに実績がある。立石電機、産能大学経営コンサルティングセンター研究員、日本総研 上席主任研究員を経て、1999年から現職。

1997年4月から1999年3月まで経営情報学会「変わりつづける組織分科会」研究部会長を務める。APICS:American Production and Inventory Control Society(アメリカ生産管理・在庫管理学会)の正会員。オペレーションズリサーチ学会、スケジューリング学会会員。

著書に「TOC戦略マネジメント」(能率協会マネジメントセンター 1999年4月)、「TOCハンドブック」(日刊工業新聞社 2000年6月)などがある。

現在、シーアイエス(株)で「プロジェクト管理者養成コース」「サプライチェーンプランナー養成コース」「キャッシュフローマネジメントコース」の講師をも担当。当記事の内容は、「サプライチェーンプランナー養成コース」で学ぶことができる。

シーアイエス株式会社

エンドユーザーの経営改革を支援するためのIT戦略の立案から先端システムの開発・導入、さらに全社的なビジネスプロセスの改革まで、幅広いシステムコンサルティング事業を手がける。1988年の創業以来、IT戦略コンサルティングに加え、サプライチェーンやCRM(営業支援)を中心とする基幹ソリューションの提供、ならびにグループウェアを中心とするネットワーク製品群の自社開発を通じて、現在進行しつつある「IT革命」を顧客企業において先導してきた。また、IT教育分野においても、「Knowledge Transfer」の実現を理念に掲げ、専門のトレーニングセンター『Knowledge Academy』を持ち、IT技術者の育成やエンドユーザーの情報リテラシー教育など、多岐にわたる教育サービスを提供している。1999年、マイクロソフト社との包括的事業提携を行い、日本企業としては初めて米国マイクロソフトより20%相当の出資を受けた。

ホームページ:http://www.cis.co.jp/


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