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» 2004年04月14日 12時00分 UPDATE

システム部門Q&A(7):バランスト・スコアカードで業績が上がるか?

バランスト・スコアカードが注目されており、これに合致した分析ツールもさまざまなベンダから提供されている。しかし実際に企業に導入するには、どうすればいいのだろうか。

[木暮 仁,@IT]

質問

中堅の製造業です。バランスト・スコアカードが注目されており、当社も導入を検討しています。しかし実施には多大な作業が必要なようで、当社のような規模では導入できそうにありません。また、バランスト・スコアカードの導入により業績を上げた話も聞きますが、どうもしっくりしない気持ちです。



 バランスト・スコアカードについては、多くの書籍や講習会などにより、その概要や利点についてはすでにご存じのことと思います。当初は部門の実績評価のためのツールでしたが、現在では経営戦略策定および実現の技法へと発展してきました。またIT投資の評価やナレッジ・マネジメントの導入にも役立つなど、“魔法のランプ”のようにもいわれています。しかし実際の導入となると、難解な概念や多くのデータの収集など、ハードルが高いように感じるものです。

バランスト・スコアカードの敷居を低くする

 バランスト・スコアカード導入を検討したけれどあきらめたケースも多くあります。あきらめた最大の理由は「大きなパワーが必要だから」だといわれています。実際、教科書にあるようなことを忠実に、しかも全社的に行おうとしたら、その準備だけで疲れてしまうでしょう。

 そもそもバランスト・スコアカードは、中期計画や目標管理(あるいは方針管理)、日本のお家芸であるTQC(Total Quality Control)TQM(Total Quality Management)などを参考にしたものです。これらは私たちがよく知っているし、ある程度は実践してきた方法です。専門家には叱られるかもしれませんが、バランスト・スコアカードはこれらの方法を発展させたものだと考えれば、比較的取り組みやすいのではないでしょうか。

1. 中期計画との関係

 従来の日本では、経営者も社員も身分が保証されていましたから、企業成長を長い目で評価していました。それが経営責任をあいまいにしてきたともいえます。それに対して従来の米国では、四半期ごとに利益や株価が評価され、経営者が莫大なボーナスを受けたりクビになる環境でしたので、経営者は短期的対策に没頭し、長期的な体質改善には消極的でした。それでは安定した成長は望めません。

 バランスト・スコアカードでの4つの視点である「財務の視点」「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「学習と成長の視点」とは、短期の業績とそれを生み出す長期的な活動をバランスさせようとするものです。ですから、この4つの視点は必ずしも固定したものではなく、企業の特徴によりほかの視点を用いてもよいし、4つに限定する必要すらないのです。

 とはいえ、従来の日本と米国の考え方を折衷しただけだというのは早計です。従来の中期計画でも経営戦略との整合性は重視されてはいました。しかし、その経営戦略そのものが単に「何年後に売上を○○にする」とか「シェアを何%にする」というようなものだったのです。戦略を実現するための「戦略マップ」があいまいでした。バランスト・スコアカードでは、経営目的を達成するための戦略マップが重視されます。この戦略マップは、経営戦略を現実のものにするためには不可欠です。

 また、私たちはTQMなどでPDCAサイクルの実践者だったのですが、経営の面ではそれがどうも不十分でした。中期計画での1年ごとに見直すローリングプランが行われていましたが、最近では半年単位が多くなりましたが、それでもあまりにもスパンが長すぎます。また、結果を見てから対策を考えるのでは後手になってしまいます。PDCAのサイクルを短縮すると共に、結果の先行指標を設定しておき、その指標を常にチェックして先手を取ることが必要になります。

2. 目標管理との関係

 目標管理では、各人の1年間の計画を自主作成させ、その達成レベルで社員の評価をする技法として人事管理の分野で広く普及しています。この目標管理を次のように見直すことにより、バランスト・スコアカードの考え方に近くなります。

 目標管理では「結果評価」に限られがちです。最近ではプロセスも重視する方針管理へと発展してきましたが、それを重視するとバランスト・スコアカードに近くなります。

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 目標管理の設定では、上司との話し合いが行われます。それにより部門目標との整合性が取られるはずですが、これも現実には不十分でした。

 これまで目標管理といえば、個人を対象にすることが多かったのですが、部門の目標管理も重要です。それには全社的な目標、すなわち経営戦略との整合性が求められます。日本では部門管理者間の意見交換が盛んですが、それを体制的に発展することが求められます。

 目標管理では、その項目が恣意的に設定されがちでした。バランスト・スコアカードの4つの視点という切り口を設定することにより、漏れのない項目設定ができます。

 従来の目標管理では、個人の目標達成が経営戦略の実現にどう寄与するのかを明確に示すことが不十分でした。戦略マップをブレイクダウンすることにより、これを明確にすることができます。

3. TQC/TQMとの関係

 TQC/TQMは「全員参加によるカイゼン運動」として、最近の米国発経営技法に大きな影響を与えています。バランスト・スコアカードも全社→部門→グループへと展開されますし、結局は各社員の自主的活動がその成果を左右するのですから、TQC/TQMが根付いている組織は、バランスト・スコアカードの導入に適した組織であるといえます。

 しかし、ビジネスプロセス・エンジニアリングのときにも指摘されたことですが、従来のTQC/TQMでは身の回りの改善を主としたボトムアップの方法でした。これはこれで重要なのですが、それとトップダウンによる業務改革との組合せを考えることが必要になります。TQMを経営面から体系的に再整理すると、バランスト・スコアカードに近いものになります。

 私たちは実務家ですので、結果がすべてです。「バランスト・スコアカードとは何か」を討議するよりも、その目的とすることを、これまで親しんできた方法にうまく取り入れていくことが適切です。そう考えれば、比較的容易に実現できるのではないでしょうか。

バランスト・スコアカードで“もうかる”のか

 これも現実には期待通りの成果を得ているのは少数のようです。バランスト・スコアカードが悪いのではなく、アプローチが不適切なのです。

1. 単なるバランスト・スコアカード導入の限界

 バランスト・スコアカードは、当初は部門の業績評価のためのツールでした。それを効果的にするために、数値的に測定できる目標の先行指標を設定して、それを把握することが重視されました。これが重要であることは間違いないし、その仕組みが確立すれば、それなりの効果はあるでしょう。

 また、バランスト・スコアカードでは、全社→部門→グループ→個人へとブレイクダウンすることにより、部分最適化ではなく全体の最適化を追求することができます。4つの視点により、短期的な財務的業績と長期的な非財務的業績のバランストを取ることにより、短期・長期にわたる成長が期待できます。しかし、これらによる効果はたかがしれており、これらの作業による費用や機会損失を大きく上回ることはできません。

2. 戦略マップこそが重要

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 バランスト・スコアカード導入の効果を引き出すには、バランスト・スコアカードの基本である経営戦略が「もうかる」仕組みになっている必要があります。それが「戦略マップ」です。戦略マップは、戦略的な観点から4つの視点をの因果関係を垂直的に結びつけたものですが、もうかるためのシナリオであり、ビジネスモデルでもあります。適切な戦略マップを策定することが、バランスト・スコアカード成功の鍵になります。

 戦略マップが適切なものであれば、バランスト・スコアカードは期経営戦略を実現するための活動の目標が明確にできますし、それのチェックを行い、アクションに結び付けることができます。

 「もうかる戦略マップをベースとしたバランスト・スコアカードを導入すれば、会社はもうかる」というのは当然ですし、論理的に矛盾があるようにも思いますが、「その戦略マップを実現するのにバランスト・スコアカードの導入が効果的である」と理解するべきです。このようなアプローチには、いろいろな手段がありますが、バランスト・スコアカードでは、多様な考察がなされ実施例も多いので、これを採用するのが適切でしょう。

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筆者プロフィール

木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査、ISMS審査員補など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」「情報システム部門再入門」(ともに日科技連出版社)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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