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» 2004年05月29日 12時00分 公開

第1回 読者調査結果:“職業としてのITアーキテクト”、その実態と理想とは?

[小柴豊(マーケティングサービス担当),@IT]

 ソフトウェア開発にスピードと変化への対応が強く求められる今日、プロジェクト成功のキーマンとして、ITアーキテクトの育成が急務といわれている。経済産業省のITスキル標準(ITSS)で公的に定義されたこともあり、“職業としてのITアーキテクト”は、社会的に認められる存在となった。しかし実際ITアーキテクトと呼ばれる人が世の中にどのくらい存在し、どのような仕事をしているのか、その実情はかなり曖昧(あいまい)だ。本稿では、IT Architectフォーラム開設と同時に実施した読者調査の結果から、ITアーキテクト職の実態とその理想像を探ってみたい。

ITアーキテクト職の設置状況は?

 まず読者の勤務先において、ITアーキテクトという職種がどの程度確立されているのか聞いた結果が、図1だ。現時点で同職が設置されているのは、「以前から社内に存在している」「最近(1年以内)になって新設された」を合わせて、全体の12%であった。ITアーキテクトを擁する企業はいまだ少数派だが、今後同職を「設置する予定がある」との回答も10%に上っていることから、現在は国内における“ITアーキテクト黎明(れいめい)期”とも考えられるだろう。

ALT 図1 ITアーキテクト職の設置状況(N=1112)

ITアーキテクト職への興味度は?

 続いてエンジニア自身がITアーキテクト職にどの程度興味を持っているのか尋ねたところ、「現在ITアーキテクト職に就いている」読者は全体の4%にとどまったものの、残りの大半をITアーキテクト志望者(将来目指してスキルを積んでいる)、および興味者(具体的な業務内容や必要スキルを知りたい)が占める結果となった(図2)。参考までに回答パターンごとの平均年齢を計算してみると、

ITアーキテクト興味者:32歳

ITアーキテクト志望者:34歳

現職ITアーキテクト :38歳

となった。もちろん年齢を重ねると自然にITアーキテクトになるわけではないが、中堅エンジニアが次のキャリア目標として同職を想定し実現するまでの鍛練期間として、1つの目安となるかもしれない。

ALT 図2 ITアーキテクト職への興味度(N=1112)

ITアーキテクトのスキル内容とは?

 ところでITアーキテクトになるためには、どのようなスキルセットが必要なのだろうか? 先述したITSSでは、「ITアーキテクトのスキル領域」として、以下の10項目を挙げている。

  • アーキテクチャ構築:ソリューションアーキテクチャ構築/要件定義:ソリューションアーキテクチャ構築/要件定義
  • デザイン:モデリング/ソフトウェア部品の再利用モデリング/ソフトウェア部品の再利用
  • テクニカル:プラットフォームや要素技術の比較と最適解の決定:プラットフォームや要素技術の比較と最適解の決定
  • メソドロジ:最適な開発方法論/開発プロセスの選択と適用:最適な開発方法論/開発プロセスの選択と適用
  • コンサルティング:データ分析/仮説の設定と検証:データ分析/仮説の設定と検証
  • プロジェクトマネジメント:プロジェクト計画策定/実施/変更管理:プロジェクト計画策定/実施/変更管理
  • インダストリ:業種・業界動向/競合動向などの把握と提言:業種・業界動向/競合動向などの把握と提言
  • リーダーシップ:目標や指針の設定、チームの指揮/動機付け:目標や指針の設定、チームの指揮/動機付け
  • コミュニケーション:文書作成・会話力、良好な顧客関係の維持:文書作成・会話力、良好な顧客関係の維持
  • ネゴシエーション:論理的思考/問題解決手法の活用:論理的思考/問題解決手法の活用

 これらを見ると、「ソリューションアーキテクチャ構築」のような独自性もあるものの、ほかの職種と重なる項目が大半を占めていることが分かる。すなわち、“ビジネス課題を解決するアーキテクチャを設計するためには、SEやPM、コンサルタントの視点を総合したスキルが必要”と想定されているようだ。

 そこで上記スキル領域について、読者に現在身に付けているもの/今後 習得したいものを尋ねたところ、現在は「テクニカル」および「コミュニケーション」領域を中心にスキルを積んでいる読者が多いことが分かる(図3 青棒)。一方、今後の希望では提示項目のほぼ全域にわたって習得意向が高まっている(図3 黄棒)。これらの中で現状(as-is)と習得意向(to-be)のギャップが大きい「アーキテクチャ構築」「メソドロジ」「コンサルティング」「プロジェクトマネジメント」といったスキル群が、今後ITアーキテクトを目指すエンジニアにとっての重点学習領域となるだろう。

ALT 図3 ITアーキテクトスキルの習得状況(N=1112 複数回答)

理想のITアーキテクト像とは?

 次に読者が考える“理想のITアーキテクト像”について、自由コメントから代表的な意見を紹介しよう。まず技術スキルについては、

要求分析から最適なシステムアーキテクチャをモデル化する工程を担当する人間。アナリストとエンジニアの両面を持つ、アーキテクチャモデリストとでもいうべき存在

アーキテクチャや運用管理業務、開発プロセスまで俯瞰(ふかん)し、将来のITシステムのあるべき姿を考えながら、現在における最適な解決策を提示できる人

ビジネス、システム、ユーザー各ドメインにおいて最適なアーキテクチャを提供し、うまく 調和させることができる人

など、“体系的なIT知識に基づき、ビジネス要求に応じた最適なアーキテクチャを選択・提示できる能力”の必要性が、多くの読者から挙げられた。また技術面以外にも、

人とテクノロジの両面に通暁していて、ポリシーで人を説得し、引き付ける人物

システムに関する明確なビジョンを持ち、顧客と開発チームの双方に納得性の高いソリューションを示すことができる人

プロジェクト当初からゴールが見えていて、それに向かって客先および社内に対して指導・助言および実践ができるプロ

といったヒューマンスキルを求める声が、多数聞かれた。ITアーキテクトにはシステム構造の設計だけではなく、その構想力でプロジェクト関係者全体を1つの方向性に束ねる“ビジョナリー”としての役割も期待されているようだ。

 一方でITアーキテクト像について、

以前からプロジェクトに1人は存在したいわゆる「スーパーマン」のことかと

IT技術および周辺技術が多岐にわたり過ぎて、昔私の周りにいた“スーパーSE”になれないのではと思う

とするコメントも散見された。確かにITアーキテクトを目指したくても、“この スキル領域すべてに通じたスーパーマンになるのは、不可能ではないか?”と思えてくるのは無理もない。そんなあなたには、“ITアーキテクトになるための現実的なヒント”が述べられた豆蔵の萩本順三氏による「ITアーキテクトの道(@IT自分戦略研究所)を、ご一読いただきたい。

ITプロジェクトの管理課題とは

 さて今回の調査では、ITアーキテクトやアーキテクト志向者が現在のプロジェクトにどのような課題意識を持ち、その解決にどのようなツールを利用しているのかも聞いているので、後半ではその結果を見ていこう。

 まずアプリケーション開発?運用の諸段階において、読者がかかわるプロジェクトで改善/強化が求められている管理課題を聞いた結果が図4だ。トップに挙げられたのは「ユーザー要求や要求変更が及ぼす影響の管理」であり、現在のプロジェクトにおいて要求管理の重要性が高まっている様子がうかがえる。以下「スケジュール/コスト/要員配置などのプロジェクト管理」「チームメンバーのスキル向上/スキル格差の是正」といった課題が続いている。

ALT 図4 ITプロジェクトの管理課題(アーキテクト/志向者 n=265 複数回答)

ITツールの利用状況は?

 次に読者がかかわるプロジェクトで「現在使用しているツール」「今後使用してみたいツール」を聞いたところ、現在は「統合開発環境/IDEツール」の普及率が突出している(図5 緑棒)。一方、今後の使用意向を見ると、上述した要求管理課題に対応する「要件定義/要求管理ツール」がトップとなったほか、「パフォーマンス管理/障害管理ツール」や「プロセス管理ツール」 などへの興味度が高まっていることが分かる(図5 黄棒)。ITツールの導入目的は、“開発生産性一点集中型”から、“アプリケーション・ライフサイクル全体の効率化/管理性向上”へと転換しつつあるようだ。

ALT 図5 プロジェクトにおけるツール利用状況(アーキテクト/志向者 n=265 複数回答)

ITツール選択時の重視点は?

 では上記のようなITツールを検討/選択する際に、読者はどのようなポイントを重視するのだろうか? 複数回答で尋ねたところ、「生産性向上などの導入効果が明確なこと」および「簡単に使える/学習しやすいこと」が上位に挙げられた(図6)。プロジェクト自体が短期化し、その導入効果が厳しく問われる今日であるだけに、使用されるツールの効果や学習コストが重視されるのもうなずける結果となった。

ALT 図6 ITツール選択時の重視点(アーキテクト/志向者 n=265 複数回答)

調査概要

  • 調査方法:IT ArchitectフォーラムからリンクしたWebアンケート
  • 調査期間:2004年2月9日から2月28日
  • 回答総数:1112件

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