ユーザビリティの時代──ペルソナ/シナリオ法 理論編ユーザビリティ研究会より(1)(1/3 ページ)

2004年10月8日(金)、第1回 ユーザビリティ研究会が@ITセミナールームで行われた。募集枠20名に対して参加希望者は79名に上り、抽選となった。当日の東京は台風のため大雨となったが、会場は多くの参加者の熱気に包まれた。その第1回研究会の模様を簡単にまとめた

» 2004年10月27日 12時00分 公開
[生井俊,@IT]

ソフトウェアデザインにおける文体と文法

Speaker

株式会社アプレッソ代表取締役副社長 CTO 小野和俊氏

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)環境情報学部卒業後、サン・マイクロシステムズ株式会社にてJava、XML関連の技術を担当。2000年にはSun Microsystems,Inc(米国本社)にてサイジング自動化ツール「Tahoe」を開発。現在、株式会社アプレッソ代表取締役副社長CTOとしてデータ連携プラットフォーム「DataSpider」を開発。



 ユーザビリティを語るうえで、まず、「文法」と「文体」という言葉がキーになります。文法が合っている、間違えているというのは、文として正しいかどうかを表現したものです。「誰々の文体が好き」「誰々の文体が自分はしっくりくる」といういい方をしますが、「誰々の文法が好き」「誰々の文法が嫌い」ということはありません。

 このように文体は、個人によって違うところがあり、好き好きがあるもの。文法は好き好きではなくて、決まったルールだということです。この文体と文法の定義を念頭に置いて話を聞いていただきたいと思います。

文体=その作者にみられる特有な文章表現上の特色。作者の思想・個性が文章の語句・語法・修辞などに現れて、一つの特徴・傾向となっているもの。スタイル。(「大辞泉」より)


文法=文章を構成するきまりや規範。また、文章を書く上でのきまりや書き方。(「大辞泉」より)


文法と文体

 ソフトウェアデザインをするときにも、文法や文体があるのではないかと痛感してきました。

 例えば、経理担当者でWindowsのExcelを使っている人だけを対象としたソフトウェアを作る場合、その閉じた世界の中では文法がたくさん設定できるのです。というのは、Excelの操作方法が分かっているユーザーにとって「正となる動き」はすべてExcelですから、それに合わせた操作方法は「好き好き(=文体)」ではなく「ルール(=文法)」として知っているからです。

 一方で、想定ユーザーの幅が広い究極的なところには、プラットフォームやミドルウェアがあります。当然、想定ユーザーの幅が広い以上、「これとこれは前提としてもいい」という幅がどんどん狭くなります。結果的に「リターンキーを押したら決定」以外はすべて文体だということにもなりかねません。

 そこで、ソフトウェアデザインでは、対象ユーザーは誰か、どこまでが文体でどこまでが文法なのかという区切りを、意識的に開発チームや設計チームの中で持つことが大切になります。

「文法」提示の失敗例と成功例

 いま、文体と文法という話をしましたが、非常にラディカルなデザインというのは、新しい文法(=ルール)を提供するようなデザインをいいます。

 その失敗例からいくと、JavaのMetal Look&Feelが挙げられます。Javaはクロスプラットフォームでどの環境でも動作すると提唱しています。そこでSunは、ボタンなどの見た目からショートカットキーの定義まで、WindowsでもMacintoshでもUNIXでもない、Java独自のセットを提供したのです。これは自然言語でいうエスペラント語のようなものでした。世界共通語を作ったけれども、誰も使わなかったということと、ほとんど同じ現象になりました。これは文体として主張するのではなく、新しい文法を提示しようとして失敗した例でしょう。

 一方、Microsoft Officeが非常に成功したのは、OfficeシリーズのExcel、Word、PowerPoint、Accessというまったく使用目的などが異なるツールでありながら、操作性をすべて統一してしまったからです。もっと究極的な例がWindowsです。OSのレベルで「ボタンといったらこう見せるもの」というふうに、まったく新しい画面と操作を提供していったわけです。

Webブラウザは機能を絞り込み、成功

 Webブラウザも文法を提示して成功した最もいい例です。Webブラウザが提供した文法とは、HTMLでしか表現できないということです。Webブラウザはすでに、それ自体がプラットフォームなのではないかというレベルまで、その地位を高いところまで持ってきています。

 Webアプリケーションでは、ユーザーが自然に操作することのできるものが数多く提供されています。これはプラットフォーム的な要素もありますが、頻繁に使用される標準コントロールをものすごく少ないところに絞り込んだのが大きな成功要因です。

質疑応答

──アプリケーションで実現すべきことが決まっている場合に、文法と文体を分ける目的を教えてください。

 この機能を追加しなければいけないといわれたときに、そのソフトは誰のためのデザインですか、誰のためのソフトですかと一度ペルソナ(=仮想ユーザー。詳細は後述)に戻します。ペルソナにその機能を渡してみたときに、その機能は分からない、使いにくいとペルソナが判断することもあります。要するにペルソナにとっては文法ではなく文体でしかない、あるいは文体でさえないと判断されるかもしれません。そこで違うやり方を考えて、文法に入るような形にその機能を取り入れるための検討が始まります。ペルソナはいわば、クオリティの一定ラインをキープする守護神のようなものです。

 おっしゃるとおり、追加しなければならないものは絶対追加しなければなりません。ただ、その追加の仕方に対してチェックが入ります。このペルソナにとって文法といっていいのか文体というべきなのかを考え、文法なら即座に入れて結構です。ただ好き好きで変わるような文体なら、文法に何とか落とし込めないかと検討する間が入ります。これにより、ツールがブラッシュアップされ、最終的にお客さまに提案するものは、より分かりやすいものになります。

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