ユーザー企業のIT部員育成はどうすればよいのか?システム部門Q&A(26)(2/2 ページ)

» 2005年10月13日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]
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従来のIT部員育成方法論が崩壊した

 SISやBPRなどの経営とITの関係の変化、ダウンサイジングやインターネットなどの技術革新、リストラやアウトソーシングなどの労働環境の変化などにより、1980年代中ごろからIT部員への期待が大きく変化してきました。それなのに、その変化に対応する育成計画の方法論が確立していません。

○従来のキャリアパスは単純だった

 1980年代ころまでは、IT部員育成計画を検討するのは比較的容易でした。当時でもITが高度化し、複雑になってきたといわれましたが、いまから思うと、IT化の対象業務もIT化の方法も比較的明確でした。与えられた業務をいかにIT化するかが重要でしたので、IT部員育成計画は、IT技術中心で十分でした。もっと端的にいえば、JCL(OSへの命令言語)とCOBOLおよびその周辺技術(データベースやネットワークなど)の習得をすれば、ほぼ任務を遂行することができたのです。

 ですから、プログラマ→初級SE→上級SE→管理職という1本のコースをベースにして、上級SEを細分化し、データベースやネットワークなどの専門分野を加えるだけで良かったのです。これらの技術を習得する方法論は確立していましたし、技術発展は急激だとはいえ、少なくとも方向性は安定していたので、先輩は後輩よりも技術知識が高く経験も豊富なので、指導することができました。しかも、そのころのIT部員は若年層が多く、IT部門は成長するし、部門内での昇進も余裕がありました。IT部員の将来を保証することができる育成計画だったのです。

○ところが環境の変化に対応できない

 しかし現在では、ダウンサイジングやインターネットの普及によって、求められるIT技術が従来のIT技術とすっかり変わっただけでなく、非常に多様化してきました。経営とITの結び付きが密接になり、IT部員に要求される知識やスキルも多様になりました。このような状況では従来のような1本のコースに集約することはできません。

 しかも、変化が激しいので、先輩が後輩に技術を伝えることができないどころか、新しい環境では若い人が中心になって行うようになり、むしろ中高年のベテランが変化の波に置いていかれるようになりました。アウトソーシングやIT部門の規模縮小化などにより、もはや管理職のポストはないし、他部門とのローテーションの対象にもならず、しかも、定年が延長されているので、IT部門の窓際族が増大している状況です。

 また現在では、IT技術もさることながら、それよりもIT化の提案能力、業務の改革、プロジェクトマネジメントなど広範囲な能力が重視されるようになりました。これらの知識や能力の習得は、JCLやCOBOLの習得とは異なり、どのように習得するかという方法論もあいまいですし、教育的に習得したり実践したりする機会も少ない。さらに、適切な指導者もいないという状況です。

 これに加えて、IT部門の縮小化でIT部員もリストラの対象になるし、アウトソーシングによってIT部門自体の存在すら保証できない状態です。このような環境では、企業側も明確なキャリアパスを示すことができないし、もし、キャリアパスを示されたとしても、IT部員はそれに安心して従える状況ではありません。

 すなわち、従来のIT部員育成の方法論は、その後の環境変化によって大きな矛盾を抱えるようになり、崩壊してしまいました。それでもITベンダ企業でのIT技術者育成に関しては、情報処理技術者試験やITSS(ITスキル標準)の策定など、それなりの方向性が見えていますが、ユーザー企業でのIT部員育成に関しては、いまだ暗中模索の段階だといえます。

新しい育成計画を考えよ

 では、どのような育成計画が求められるのでしょうか。本来ならば、将来どのようなスキルを持つ者がどれだけ必要になるかを検討して、適性や希望により、誰をどのように育成するのかを決めることができればよいのですが、予言者でもない限り、それを具体的に示すことは不可能に近いでしょう。

○安心して従える育成計画

 自社での環境はそれほど変化はないとしても、世間は常に変化します。例えば、自社では当分レガシーシステムを維持するので、レガシーシステムの技術習得が必要だとしても、その技術知識は世間での商品価値は低下するでしょうし、自社がレガシーシステムを放棄することも考えられます。プログラム言語などは最も分かりやすい例ですが、それすらCあるいはJavaが今後も長く利用され続けると断言できるでしょうか。ネットワークやWeb環境の技術は、数年後には大きく変わっているでしょう。目先のブームに過敏に反応するのは危険です。そのような育成計画に安心して従うことはできませんから、育成計画を策定しても実現しないでしょう。


 また、魅力のある技術やスキルを習得しようとしても、自社にその環境がなければ習得できません。規模の小さい企業にいる限り、ITSSにおける高レベルのプロジェクトマネージャにはなれないのです。このように、個人の将来を考慮したキャリアパスが必要になりますが、それには自由度が高いメニューが必要になり、それを策定するのはかなり困難です。すなわち、IT部門内部に限定した育成計画には限界があるのです。

○全社的視点での育成計画

 これを打破するには、IT部門内での育成計画ではなく、他部門とのローテーションを前提とした全社的な観点での育成計画を作るべきです。営業活動の改革を行うために、どの程度のITの素養を持つ者がどれだけ必要か、それにはIT部門や営業部門の双方をどのように体験させるかというような観点での育成計画です。EAのような方法論を理解して推進できる人材や、セキュリティなどの専門家というような機能による必要性もあります。このような人材育成計画ならば、IT部門だけの育成計画よりも安定していますし、全社的にも効果が大きいでしょう。

 また前述したように、IT部員だけを対象にするのではなく、業務部門の人(経営者)にも、IT化への取り組みについての教育をするべきなのです。しかも、ITの重要性の理解とかパソコン操作などだけではなく、IT部門との役割分担ができるような業務分析やシステム化プロセスなどの知識も必要になります。それを効果的に行うためにも、計画的なローテーションが必要になります。このような視点での全社的な育成計画が望まれます。

 このような考え方を発展させると、IT部門を人材育成部門にするべきだとの考えになります。これについては本連載の第3回、第10回をご参照ください。

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筆者プロフィール

木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査、ISMS審査員補など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」「情報システム部門再入門」(ともに日科技連出版社)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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