IT投資を成功させるためには、悪者になることも必要ITガバナンスの正体(7)(1/3 ページ)

筆者より:本稿は、ITガバナンスを各企業で確立していくために、ITマネージャが「考える・分かる・応える・使える・変わる・変える」ことを目指した連載です。前回「もう1度、ITガバナンスの基本をおさらいしてみよう」では、これまで紹介してきた「IT戦略」「IT組織力」「活用・展開力」「IT運営力」を基軸に「ITガバナンスの何たるか?」をおさらいしました。今回は、「ITガバナンス」の5つの領域の4番目「IT運営力」のうち、戦略投資の考え方/策定方法とモニタリング方法を解説します。

» 2006年03月16日 12時00分 公開
[三原渉(フューチャーシステムコンサルティング),@IT]

ショートストーリー 山の手精工株式会社物語

<前回までのあらすじ>社員2000人の製造業「山の手精工株式会社」では、上野社長の指揮の下、CIOの神田取締役と情報システム部門長・池袋マネージャがITガバナンスの確立に取り組んでいる。神田取締役とシステム部のランチオンが実施され、SFA導入を失敗した要因や現在のシステム部の問題点を認識した部員たち。しかし、認識の仕方は人それぞれであり、中には間違った認識の仕方をした者も現れ……。

巣鴨リーダー(課長職): 営業の仕組みの見積もり、いつもの会社にお願いして、持ってきてもらいましたよ。しかし、作り替えるとなると、結構いい値段しますねぇ……。


池袋マネージャ: (えっ? 絶句)
それでは順番が違うぞ! 忘れたのか? この前の会議で、「これまでお付き合いしてきているベンダに振り回されてきたからこそ、距離を取りつつ、より合理的な判断をしていこう」と決めたばかりじゃないか。そのためのIT投資でもあるのに……。これじゃ、本末転倒だ(久々に怒り心頭の様子)。


大崎さん(企画・業務部門サポート担当): そうですよ。まだ方針も営業部門ときちんと議論できていないのに、どんなことをお話ししたら見積もりができるのかしら。「何でもやります」みたいな見積もりとか、一式いくらみたいな見積もりでは、結局後で痛い思いをするだけなのに。忘れちゃったの?


秋葉原さん(運用担当):ひどいなぁ。開発プロジェクトは一過性だけど、運用は稼働してからずっとでしょ。だからこそ、当初から一緒に運用しやすい仕組み作りをしよう、と方針決めたじゃないですか。巣鴨リーダーもメンテナンス(改善/改修)しているから、分かってくれてると思ってたんだけどなぁ。頼みますよぉ。


巣鴨リーダー(課長職): い、いや、そ、それはこれからやろうかと……。


池袋マネージャ: 戦略IT投資の側面では、営業の仕組みの見直しに集中することにした。それを取りまとめるまで、まだまだやることはたくさんある。いいか、通常投資の範ちゅうでは、各部門から上がってきている改善要望内容の重複の見極めや、規模見積もり、優先度付け、いま動いているプロジェクトとの連携可否、……。



大崎さんや秋葉原さんの理解が深まってきたことに期待しつつ、さらに池袋マネージャの檄が飛んだ。



戦略投資の考え方

 今回は第5回で書き足りなかったことを加筆する。

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▼連載:ITガバナンスの正体(5)必要なIT投資を経営層に認めてもらうには(@IT情報マネジメント)


 まず、新規の戦略IT投資を考えていく場合、コアコンピタンス投資領域と、コモディティ投資領域に分けて考えたい。最近、多くの人たちの間で「ITはコモディティ(生活必需品)化した」といわれるようになった。この考え方は、部分的には正しい。確かに、「(大まかにいうと)メールや会計など、機能的に企業の日常に欠かせないもの」という範ちゅうの情報システムもある。これらの必需品的・日用品的な仕組みやシステムは、他社と同レベル程度のもので良い。法的に、かつ/あるいは、パフォーマンス的に許容できるものであれば、投資の効率性を求めてよい領域でもある。

 ただし、メールはナレッジマネジメント系の仕組みによって、コミュニケーションの高度化やビジネスインテリジェンス(BI)のレベルまで昇華していけば、「戦略的」な仕組みになるといえる。また、会計周りでもバランスト・スコアカード関連や、日本版SOX法への対応(コンプライアンス)など、株主に対しても「戦略的」なものとしての顔を作り出すことができるものもある。だからこそ、戦略投資の考え方が、複雑になってしまうものなのだが……。しかし、これらの領域に積極投資するのは、優先順位としては次項の「コアコンピタンス」領域の整理・高度化ができてから、と考えたい。

 その半面で、自社のコアコンピタンス領域は、他社に抜きんでていなくてはならないのだから、積極的に投資することを前提に議論を利活用部門と進めたい。

 つまり、自社のコアコンピタンスは何かを突き詰めて、コモディティでよいとする領域はどこか、戦略領域はどこか、を見極めて投資判断を下していく必要がある。積極的に投資すべき領域と、投資の効率性を追求すべき領域の選択が迫られている。一方で、担当者レベルでは、自分が担当しているシステムはかわいいし、大事だと考えている(それはそうでないと困るのだが……)。従って、担当者レベルに聞いていると、どのシステムも最重要ということになりかねない。

 これでは「優先順位など付けようもない」という事態に陥る。このように、IT投資戦略はボトムアップでは策定できるわけがない。だからこそ、ITマネージャの出番なのだ。ITマネージャは、全社の仕組みを把握し、そのときそのときの優先順位を明示し、戦略IT投資の「選択と集中」をつかさどる。それがITマネージャのミッション(の1つ)でもあり、この「選択と集中」の素案を、マネジメント層(意思決定する上層部)に対して、いつでも提示できるようにしておきたい。来期の予算を策定する時期だけでなく、期中においてもだ。

 なぜならば、経営戦略や外部環境変化により、いつ投資の優先順位が変わるとも限らないからだ。この準備をしているかしていないかで、経営のスピードも変わる。ITマネージャの心掛け次第で、会社の経営スピードが増進できることもあるのだ。

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