IT投資を成功させるためには、悪者になることも必要ITガバナンスの正体(7)(3/3 ページ)

» 2006年03月16日 12時00分 公開
[三原渉(フューチャーシステムコンサルティング),@IT]
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モニタリングの実際

 モニタリングの趣旨は、設定したマイルストーンごとに、指標のチェックを行い、計画されたものと乖離がある場合には、是正措置(アクション)を講ずる、というものだ。設定目標に対する実績の差(乖離)を、いかに適時に(速く)、的確に(信頼性)、安く(業務の効率)把握し、アクションを起こすかにかかっている。リアルタイムに意思決定できる体制を整える必要がある。

 日常実施される経常的モニタリングは、累積値モニタリングと一定値モニタリングの2つに大別される。累積値モニタリングの多くは、一過性のものをモニタリングするときに適している。戦略投資プロジェクトの進ちょくの確認や是正策を講じるときには、このような累積値モニタリングを適用すると良い。

例えば:

  • プロジェクト進ちょく:投入工数
  • プロジェクト進ちょく:完了時見積もり工数
  • 仕様書作成率

などなど……。


 一定値モニタリングは一定の品質を目標値に挙げ、到達度をモニタリングする事項に適している。

例えば:

  • 利活用部門から上がってくる改修要望対応のバックログ
  • 会議出席率(コミュニケーションの質のモニタリング)
  • 障害・不具合発生率
  • 業務日誌記述率

……などなど。


 どのような目標効果も、上記2種のモニタリング指標を挙げることができるはずだ。きちんとしたモニタリングを実施していくためには、

  1. 何をモニタリングしたいのか、なぜモニタリングしたいのか、を明確にする
  2. 目標とした効果に関する指標とその目標値を設定する
  3. 目標値と乖離した場合の、想定されるアクションを事前に決めておく(ディスカッション)
  4. マイルストーン時に、実績を把握し、目標値との乖離を明確にする
  5. 原因分析し、是正策(アクション)を講じる
  6. グラフや表といった目に見える形で、効果の現在をマネジメントに見せられるようにしておきたい。

 EVM(Earned Value Management system)といった、新手の進ちょく管理手法を取り入れることも必要かもしれないが、まずは上出の簡便なやり方辺りから始めて、慣れてからより高度な技法に移るのがよいだろう。すでにバランスト・スコアカード的な手法を導入して、モニタリングを開始しているITマネージャも少なくないかもしれない。基本的・簡便なものもできないのに、より高度なものに最初から取り組んだり・取り込んだりすると、続かないのが落ちだ。モニタリングは地道に継続することが大事なのだ。この「地道」がなかなかできない企業がどれだけ多いことか。逆説的にいうと、「地道」なことができる企業こそ、生き残れるといえる。ITマネージャも同じはずだ。

 コモディティ領域の投資意思決定時に効果をうたっているならば、システム部門が中心になってモニタリングを進める必要があるだろう。コアコンピタンス領域に関しては、利活用部門が中心になってモニタリングを実施し、会議体の中で是正策をディスカッションし、目標とする効果を出すための活動を推進していく母体が必要となることもあるだろう。

 あくまでも、システム部門が主体ではない点に留意したい。それでも、システム部門が主体とならざるを得ない場合、「本来の姿」をマネジメント層に理解してもらったうえで進めてほしい。いつもワリを食う(仕事の負荷がより高くなる)のがITマネージャではないはずだ(ならば、給料をもっとくれ、といえるようになりたい……)。



社長や取締役が週に1度必ず顔を合わせるブレックファスト・コーヒータイムで、戦略IT投資が話題になった……。


神田取締役:昨年の営業のシステム導入、つまりSFA導入の失敗の原因はいろいろあるでしょうが、誤解を恐れずにあえていえば、根っこは「営業部門で本来やらなくてはならないことをやらなかったために、見誤った仕組みを導入してしまった」ということでしょう。


上野社長: 私も含めて、マネジメント層の関心も低かった。現場のニーズを聞いてシステム部門と導入を進めてくれていたが、結局パッケージのパの字も分からないくらい機能が追加されたり、変更されてしまったと聞いている。今度、神田君が来てくれてそれがどんな意味かよく分かった。揚げ句の果てに現場への展開に失敗して、使いものにもなっとらん。


恵比寿取締役(営業担当):(メールでさえ秘書に打ってもらう自分が、ITが分からないからといって放っておいたことが最大の敗因、ってわけか……)では、どうしたらよいのですか? 導入したシステムを捨てろとでも? あのシステムの導入には結構なお金が掛かっているんですよ。しかも、営業部門のメンバーが導入に割いた時間だってバカにならない。こんなことなら、最初からシステム導入なんかせずに、営業活動をしていればよかったんだ!


神田取締役:開発部門や生産現場はこれまで以上にメキメキと力を付けているし、他社にも負けていないと思います。この分野では、うちの優位性は揺るぎないものなのです。従って、営業の仕組みを根本から考え直す、という目的は当初から間違っていないのです。やり方を間違えただけなんです。現場の細かい改善項目を積み上げたのでは改革はできません。トップ層が参画して、どんな営業をしていくのかを考え、必要ならばシステムを組み込んでいくようにしませんか。


上野社長: 君を責めているわけじゃないよ、恵比寿君。ここにいるみんなが個別最適ではなくて、全社最適に乗り出さなきゃいけないんだ。神田君が考えている営業改革のための戦略IT投資を、一緒に進めていこうじゃないか。業務もシステムも変わることでどんな効果を生み出さなきゃいけないのかを整理してくれないか。


恵比寿取締役:あ、はぁ……。まぁ、確かにシステムが稼働して、現場からは使い勝手が悪くて時間がかかり、営業に時間が割けなくなっている、結果みんなが使わなくなってきている、と聞いています。何とかしたいのはやまやまですよ(そうはいっても、実際には自分やエース級をプロジェクトメンバーに加えるなんて難しいんだが)。



コーヒーや軽食をよそ目に続く役員たちの議論のさなか、神田取締役の後ろにいた特別参加の池袋マネージャは、「さすが神田取締役。トップ層の意識はこれで何とかなりそうだ。これから協力体制やプロジェクト体制の構築が忙しくなるぞ。いや、その前に営業部門の主立った連中と『どんな効果を目標にするのか?』の整理が必要だな。彼らの時間をどうやって捻出してもらおう……」と思いをはせた。



筆者プロフィール

三原 渉(みはら わたる)

フューチャーシステムコンサルティング株式会社 ビジネスディベロップメント&インターナショナル事業本部 執行役員。大手外資系コンサルティングファームを経て、2003年より現職。これまで外資系を含む50社あまりの企業の戦略・改革プログラム・プロジェクトの立案と実行、および効果のモニタリングに携わる。特に経営戦略と連動した全社改革プログラム・IT戦略立案に詳しい。改革推進の障害の1つであるトップ層とミドル層の意識・IT知識の乖離(かいり)を埋めるべく、両者への働きかけを精力的に手がける。ご意見、ご感想、問い合わせのメールは、mihara.wataru@future.co.jpまで。


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