日本版SOX法に「踊らされない」ために大切なことCIOの視点で考える内部統制(1)(2/2 ページ)

» 2006年09月26日 12時00分 公開
[稲見 吉彦, 丸本 正彦,@IT]
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自社にとっての日本版SOX法

 「自らの考えで踊る」ための具体策は、経営陣が自らの会社にとって、日本版SOX法はどういう意味合いを持っているのか、これをどうとらえて対処するのかを一度徹底的に討議することだ。

 ある企業にとっては、業界のリーディングカンパニーとしてのブランドを持ち続けるためにち密なレベルアップが必要かもしれないし、これまで業績のストレッチが主眼であった新興の上場会社とっては営業と管理部門のチェックアンドバランスが主命題となるかもしれない。

 現在、日本版SOX法に対する準備の程度は、各社まちまちであると報告されている。もしまだコンセンサスができていなかったり、時間とともに弱まっているようであれば、しっかり腰を据えて認識合わせをしておくことをお勧めしたい。

 テクニック論に毒されてしまうと、スケジュール・テンプレート・ツールなどに気がいってしまい、こうした議論をまどろっこしく感じるかもしれない。だが、実際には2009年3月の監査を迎えるまでに、まだ2年半の期間がある。この期間の中で、「何のためにやっているのか」「本当にそこまでやらなければいけないのか」「どこまでやるか」といった議論が必ず出てくる。そして判断が揺れる。

 そのときに、WHYの概念──なぜ、これをやるのかという認識が経営陣の間で共有できていれば、基本方針に立ち戻ることによって大きなブレをなくすことができる。ただ単に「法律ができたから、ばかばかしいけれども取りあえず対応しよう」「労力は最小限にとどめよう」という課題設定の仕方では、初めから失敗の種をまいているようなものだ。

CIOは議論のリーダーシップを

 大きなプロジェクト、手間の掛かるプロジェクトほど、使命感が不可欠となる。経営の視点に立った使命感の醸成を怠ると、結果的には“最小限”の労力・コストでは済まないことになる。こうした感覚は、大規模プロジェクトを経験することの多いCIOであれば、よく理解できるかもしれない。CIOは経営陣の1人として、ぜひ本質的な議論を巻き起こすリーダーシップを発揮していただきたい。

 WHYの概念をいかに鮮明に共有するかについては、まだ工夫の余地があるように思われる。

 米国でも、実際にプロセスのオーナーとして自分で署名をする段になって初めて、「事の重大さに気が付いた」と告白している報告例もある。人間は、確実に起こると分かっている将来の出来事に対しても、ともするとその意味合いをしっかりと考えようとはしないものらしい。

 仮想体験するイベントを設定して、理論だけではなく感情的にもその意味合いを理解するように仕向けるなどの手も考えられるだろう。

 今回は連載の初回に当たって、“目線を上げて、自分の会社にとっての日本版SOX法とは何かを自分たちの頭で徹底的に考えておくこと”が、忘れてはならない1ピースであることを提言した。

 次回以降、「EDS本社をはじめとする米国での事例の紹介」「日本企業への意味合い」「内部統制を意識したITマネジメント」「IT全般のアセスメントの重要性と三位一体の経営」などについて見ていくことにしたい。

筆者プロフィール

EDS Japan

トランスフォーメーションサービス部

稲見 吉彦(いなみ よしひこ)

システムインテグレータにて、金融系システムインテグレーション、Microsoft Universityのトレーナ、国内携帯関連ドットコム企業に対するマネジメントサポートや戦略コンサルティングサービスの提供後、ベンチャーキャピタルのテクノロジー・アドバイザーとして、投資先企業の新規事業推進などをサポートするとともに、新規投資案件のシステム評価を実施。現在、EDS Japanのコンサルティング部門である、トラスフォーメーションサービス部門の部長。

丸本 正彦(まるもと まさひこ)

外資系コンサルティング会社にて、事業戦略・組織設計・グローバル戦略などのコンサルティング業務を経験したのち、日系ソフト開発会社の経営企画部長として会社の再生をリード。現職においてはトランスフォーメーションサービスのコンサルタントとして、主に経営とITのコラボレーションについてアドバイスを行っている。


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