開発標準を導入ために必要な6つの手順こうすればできる開発手順の標準化(4)

今回はより具体的な開発標準の導入の進め方について説明します。いくつかの手順を提示し、それを順番に解説していきます。

» 2007年01月10日 12時00分 公開
[瀬谷茂,豆蔵]

 今回はより具体的な開発標準の導入の進め方について説明します。

 一口に開発標準の導入といってもさまざまな形態があると思いますが、前回「開発標準を導入、トップダウンかボトムアップか」で説明したアプローチのうち、トップダウン的なアプローチの場合は、おおむね以下のような流れになると思います(下記の作業は必ずしもこの順序ではなく、また並行して行われることもあります)。

  1. 開発標準導入計画作成
  2. 開発標準策定
  3. 導入準備
  4. 試行と評価
  5. 展開と改善
  6. 次のステップへ

 以下、それぞれの作業の概要とポイントを説明します。

1. 開発標準導入計画作成

 ここでの主な作業は、以下のようなものになります。

  • 開発標準の導入によるゴールを明らかにする
  • 現状を知る(強み、弱み)?「AsIs」
  • どのような開発標準が「本当に」その組織で必要かを明確にする?「ToBe」
  • 「AsIs」と「ToBe」を踏まえ、実現可能な改善の具体的計画を明らかにする
  • 改善計画の内容(資金、リソース)についての責任者の承認を得る

 可能であれば、最初に開発標準導入の最終的なゴールを明確にして、関係者全員で共有するというのが理想です。ここでいう「開発標準導入の最終ゴール」とは、もちろん開発標準を導入することではありません。例えば「5年後に開発生産性を2倍に上げる」や「3年後に組織の成熟度レベルをCMMレベル5相当に上げる」「1年後に内部統制に対応した開発業務を遂行できている」というような、開発業務そのものをいつまでにどうしたいのか、というものですが、もう少し狭いレベルでのゴールでも構いません。

 本来、トップダウンの業務改革であるなら、「いつまでに何を達成したい」というより高いレベルのゴール設定がすでになされていて、その達成のための手段として開発標準導入(=開発業務改善)が選択されているべきと思います。この場合、組織のゴールから、開発標準導入のゴールを導き出すことができるでしょう。

 しかし実際には、まずは開発業務を行う組織自らによって開発標準導入という業務改善施策を選択することも少なくありません。このような場合は上位のゴール設定がある場合よりも、最初のゴール設定とその共有に十分に労力を費やし、この活動自体についての意識合わせを念入りに行う必要があります。それが不十分な状態で活動を始めてしまうと、さまざまなところにブレが生じやすくなり、思うような成果を得られないリスクが高まります。特に利害関係者が格段に増える「3. 導入準備」以降の「では実際に導入してみましょう」という段階で問題を生じることが少なくありません。

 ここでの活動量の目安としては、開発組織内の上級・中堅リーダー数名で、おおよそ半月から数カ月程度と考えられます。

2. 開発標準策定

 ここでの主な作業は、以下のようなものになります。

  • 開発標準策定体制立ち上げ
  • 開発標準策定とレビュー
  • 関係者への説明会

 ここでは、1で作成した導入計画(策定スコープや詳細度)に基づいて、開発標準を設計して具体化(文書化)していきます。それに先立って、このような活動を行うグループの立ち上げ(メンバー選定および招集)が必要になります。

 このメンバー選定と招集が最初の壁になることも少なくありません。

 開発標準を策定するには、その開発標準がカバーする作業すべてに対しての経験やソフトウェア工学的な知識が必要になります。1人でこの作業すべてを行うのはそのスキル要件や作業量からして、あるいは内容の検証という観点からしても現実的ではありませんので、いくつかの作業項目(例えば、要件定義、アーキテクチャ設計、実装、テスト、プロジェクト管理など)に関するエキスパートによる合同作業になるのが一般的です。

 ところが、多くの開発業務を行っている組織では、上記のようなエキスパートは常に多忙で、開発標準策定メンバーに選定したくてもなかなかそのチームやプロジェクトのリーダーから良い返事をもらえないということがよく起こります。このような事態を避けるためにも、1の段階でこの活動の重要性を開発組織内できちんと共有し、できるだけ早い段階から策定メンバー候補についてそのチームリーダーやプロジェクトリーダーに打診しておくことが重要です。策定メンバーの負荷を下げたり、エキスパートの選定が難しい開発作業がある場合には、社外を含め外部の支援を検討してもよいでしょう。

 また、ここで1つ注意しておかなければならないことがあります。それは、この段階で出来上がった開発標準はあくまで机上のプロトタイプ的なもので、ただの紙(情報)にすぎません。実際に適用して改善していくベースができたという段階ですので、ここで満足してしまい「作っておしまい」では、本当の意味で導入したことにはならないでしょう。

 ここでの活動量の目安としては、全体のリーダーや各開発作業のエキスパート数名で、おおよそ3カ月から1年程度といえます。

3. 導入準備

 ここでの主な作業は、以下のようなものになります。

  • 開発標準導入支援体制の確立
  • トレーニング資料準備
  • 組織内メンター候補へのトレーニング

 ここでは2で策定した開発標準を導入・展開していくための準備を行います。これ以降、その導入・展開(後には改良も行う)のための定常的なチームが必要になります。そのメンバーには、当面は2の活動のメンバーが含まれることが望ましいでしょう。

 最初はその導入活動に力点が置かれますので、活動内容は導入のためのトレーニング資料の準備やその提供が主体になります。

 開発標準に関するトレーニングには大きく2つの段階があると考えています。1つは、まずは組織内で今後その開発標準を広げていくコアとなる人材(メンターと呼んでいます)の候補へのトレーニングです。この次の段階が、そのメンター候補もトレーナー(メンター)になって開発組織の隅々まで展開していくようなトレーニングです。

 この段階でのトレーニングは、前者が中心になります。そして、このトレーニングはとても重要で、いかに最初にメンターを育成できるかが、その後の展開の成否の鍵にもなります。

4. 試行と評価

 ここでの主な作業は、以下のようなものになります。

  • パイロットプロジェクトへの適用
  • 評価と開発標準へのフィードバック

 ここでは、2で作成した標準をパイロットプロジェクトで適用します。パイロットプロジェクトのメンバーは、3においてトレーニングを受けているコアメンバーが中心になることが望ましいですが、もしそうでない場合は、プロジェクト開始に当たってその参加メンバーに別途トレーニングを行う必要があります。また、必要に応じて、3で確立した開発標準導入支援チームのメンバーやメンター候補が支援に入ります。

 パイロットプロジェクトの目標やここで適用する開発標準の範囲は、参加するメンバーや支援体制によって、慎重に選択すべきです。最初から全体を適用しようとするとまともにプロジェクトが進まなくなる可能性もありますので、ほぼ確実にできそうな部分を中心に適用し、そこがクリアできたら次の(パイロット)プロジェクトで適用範囲を広げていくという方法がよいでしょう。

 ここでの活動で一番重要なのは、パイロットプロジェクト適用後の開発標準についての評価です。開発標準のどこが良くて、どこが悪いか。何が足りていて(あるいはあり過ぎて)、何が不足しているか。そしてそのような評価結果から、開発標準をより組織に合った実践的なものに改良していきます。このようなフィードバック作業は、単なる紙(情報)の開発標準に「魂を込める」作業とでもいえるでしょう。

 またこの段階で、パイロットプロジェクトにおける生産性や品質についてのメトリクスデータを収集しておくことも、その後の改善に役立ちます。

5. 展開と改善

 ここでの主な作業は、以下のようなものになります。

  • トレーニング実施
  • 実プロジェクトへの適用
  • 評価と開発標準へのフィードバック

 ここでは、上述の展開のためのトレーニングと実プロジェクトへの適用により、開発組織全体に開発標準が展開されていきます。同時に、適用後に開発標準の評価を行い4 と同じようにフィードバックを行います。ここでは適用プロジェクトで生まれたノウハウや各種メトリクスデータも積極的に蓄積するようにします。このような活動を継続することにより、「生きのいい」開発標準を維持することができます。「生きのいい」開発標準とは、単なる開発作業の標準ではなく、ノウハウの共有のためのデータベース的位置付けのものといえるでしょう。

6. 次のステップへ

 トップダウン的に新たなビジネスに対応する必要が出てきたり、新たな開発手法や開発技術の普及などで開発標準の内容と実際の開発プロジェクトとの間の乖離が大きくなりつつある場合、もう一度1の活動から始め、新たにゴールを設定し次のステップへ進むことになります。


 以上、開発標準の導入の進め方について、ざっと説明しました。上記の方法はトップダウン的なアプローチをベースにしていますが、活動の重点の置き場所や内容を変えることにより、ボトムアップ的なアプローチにも適用できる部分もあると思います。

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