シスアドの品格とは? シスアド研修会レポートIT戦略トピックス(Topics: Report)(1/3 ページ)

ユーザー企業において経営者と業務の両方に精通し、両者の間に立って調整できる人材が上級シスアドだ。上級シスアドはいま、どのような問題に取り組んでいるのか。上級シスアド連絡会が主催した勉強会をレポートする。

» 2007年04月13日 12時00分 公開
[大津 心,@IT]

 近年の景気回復によって大企業を中心に設備投資が回復しつつある現状では、ITへの投資を促進するために、「どうすればITが経営に貢献できるのか?」を経営陣に説明する機会も増えている。この際に説得力を持つのが、ユーザー側(現場)の業務に精通しつつも、経営的な角度で見ることもできる人材の言葉だろう。

 まさにこのような背景を持つのが、上級システムアドミニストレータ(以下、上級シスアド)だ。上級シスアドとは、経済産業省(以下、経産省)が主催する情報処理技術者試験の上級システムアドミニストレータ試験(合格率7.8%)に合格した者たちを指す。では、実際のシスアドたちはどのような活躍をしているのだろうか。この点を知りたい読者の方は、ぜひ@IT情報マネジメントで連載中の「目指せ!シスアドの達人」や「こちらなにわ電機 総務課」を読んでみてほしい。

関連リンク
情報処理技術者試験(IPAサイト)
上級システムアドミニストレータ試験(IPAサイト)

第14回研修会であいさつをする上級シスアド連絡会会長 山中吉明氏

 例えば、「目指せ!シスアドの達人」の主人公は、業務改革プロジェクトを推進したり、縦のつながりが強い村組織を解体して企業風土を変えたりとさまざまな方面で活躍している。実際の上級シスアドも、建設会社やメーカー、ベンダ、サービス業など、さまざまな分野の企業に所属しており、さらに所属部署も情報システム部から総務部門などバラエティに富んでいる。

 そんな、一見共通項の少ないシスアド同士の交流を支援し、上級シスアド向けの研修や勉強会を主催しているのが上級シスアド連絡会(JSDG)だ。前出の既存連載も同連絡会のメンバーが、自分たちの豊富な経験を基に執筆している。その連絡会が3月10日、都内で第14回研修会「『シスアドの品格』〜企業の品格はシスアドが決める」を開催した。講演には、元IPA人材育成推進部長で、現在経済産業省経済産業政策局調査統計部業務管理室長を務める萬井正俊氏や、日本システムアナリスト協会(JSAG)会長の安藤秀樹氏、JSDG会員2名が登壇した。


地域のIT化を推進する経産省

 経産省の萬井氏は、以前IPAでシスアド試験の事務局を担当しており、さまざまな試験改革を実施した人物。現在は経産省で地域のIT振興関連の事業を担当している。そんな萬井氏は、「地域のIT活用支援施策について」と題した講演を行った。

 現在、日本のIT戦略は「e-Japan戦略、e-Japan戦略II」を経て、2006年1月から「IT新改革戦略」を実施中だ。そのような状況で、IT投資額は景気回復の背景もあり、全体で見ると増加傾向にある。しかし、1社当たりのIT投資額で見ると、大企業が増加傾向にあるのに対し、中小企業は横ばいだという。これらの点から、経産省では「中小企業のIT投資が横ばいだ。中小企業のIT投資を促進する必要があるのではないか」と分析した。

経産省の地域IT振興への取り組みを説明する経済産業省経済産業政策局調査統計部業務管理室長 萬井正俊氏

 また、同省が調査を行った結果、経営トップがIT部門やユーザー部門に期待する提案内容のトップは「ITを活用した業務改革」で70%以上を占めた。IT利活用ステージでは、第1段階の「情報システムの導入」が6%、第2段階の「部門内最適化企業群」が68%、第3段階の「組織全体最適化企業群」が24%、第4段階の「企業・産業横断的最適化群」は2%だった。この結果を受け、萬井氏は「日本はやはり第2段階と第3段階の間に大きな『部門の壁』が、第3段階と第4段階の間に『企業の壁』が存在する。特に部門の壁は大きい。米国では、第3段階と第4段階に達している企業が50%を超えている。一方、日本はわずか26%だ。この差は大きい」と指摘。日本特有の「部門間の縦割り文化」が、ITの利活用ステージの進化を阻んでいるとした。

 経産省ではこうした現状を踏まえて、IT経営の目標に「ITによる企業経営を最適化する企業の割合を世界トップ水準にする」「基幹業務にIT活用する中規模中小企業の割合を60%以上に」「電子商取引において、汎用的共通基盤を利用する企業の割合を60%以上に」「電子商取引を実施する中小企業の割合を50%以上に」の4つを2010年までに達成することを挙げた。

 さらに同省では、「経営にITを活用するためには経営とITの橋渡しを行うCIOの存在が重要」と判断。調査を行ったところ、CIO設置企業は50.1%だった。そのうちの39.7%の企業でCIOの職務従事度合いが低い(3割以下)結果となった。この点について萬井氏は、「日本においては、まだまだCIOの役割の重要性が十分に認識されていない状況だ。経営とITの橋渡しをするCIOの機能を担う人材がいまの日本には重要なのだ」と強調した。

スーパーIT活用中小企業は大阪の送風機販売会社!?

 こういった課題を受けて、経産省では中小企業のIT化を支援することを目的として「IT経営応援隊(中小企業の経営改革をITの活用で応援する委員会)」を2004年6月に発足した。


 IT経営応援隊は、政府/政府機関だけでなく、中小企業支援機関や民間事業者、ならびに金融機関・自治体、中小企業におけるIT化支援の専門家などとの連携によって、中小企業における「IT活用による経営改革」に対して支援を行う。

 具体的には、ITを活用した成功事例の発表などが行われる「IT経営事例発表セミナー」や、3〜4日間かけて経営計画と情報化計画を作成する「経営者IT経営研修コース 人材育成」、専門家が企業を訪問して成熟度診断を行い、経営課題を指摘する「IT経営成熟度診断コース ベンチマーク」、専門家が企業を訪問してIT経営計画書のコンサルティングを行う「IT推進アドバイザー制度(中小機構)」、審査を通過したIT活用モデルに対して、システム構築費用の一部を最大2500万円まで補助する「中小企業戦略的IT化促進事業補助金」の5つの取り組みが主な事業だ。

 また、全国の中小企業に対して、「ビジネス戦略・経営革新」と「IT高度活用」の2つの視点から評価を行い、先進企業を選出する「IT経営百選」も実施した。このIT経営百選では、審査員が実際に全国70カ所を回って企業を訪問し、採点した。得点配分は、ビジネス戦略・経営革新の視点とIT高度活用の視点で、それぞれ100点満点の計200点満点。満点の基準は、「21世紀における企業の理想像」となっており、かなり難易度が高い。

 その結果、最優秀企業となったのが、大阪で送風機の販売を行う昭和電機株式会社だ。昭和電機は昭和25年創業で、売り上げの60%が電動送風機、20%がファンブロア、12%が環境機器となっている。

 この昭和電機は、まず作業プロセス全体にわたる4年間の生産改革新活動(リエンジニアリング)を実施。計画生産方式から受注生産方式に移行した。その結果、製品在庫日数を30日から0.88日に改善したという。また、受注生産方式を強化することにより、標準品の納期を7日から3日に、ユーザー個別仕様対応品(特注品)の納期を1カ月から10日に短縮した。

 そのほか、市場からさまざまな問い合わせを受ける営業部門からの相談窓口として、「is工房」という部門を設立。さらに「is工房」への相談内容をQ&A形式でデータベース(約3000件)化。社内のどこからでも検索可能にしたことで、営業部門の顧客レスポンスを平均10分に短縮したという。

 また、売上高は2002年の45.0億円から2005年には65.1億円へ、経常利益も2002年の5億2000万円から、2005年には13億8500万円へと増加した。これらを評価した結果、ビジネス戦略が79点、IT高度活用で76点の計155点と優秀な成績を収め、最優秀企業となった。

 萬井氏は、昭和電機のような企業が今後も輩出されることを期待しながらも、「大手企業とのEDI(電子データ交換)構築などでは、個々の企業努力だけでは加速できない点が存在するのも事実」とし、これらをサポートするのも経産省の役割だとした。今後は、全国18カ所のある地域ソフトウェアセンターに出資するなど、教材の提供や指導・助言を通じてIT施策の地域展開を後押ししていきたいと語った。

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