コンサルタントの中核スキルとはPMとコンサルタントは育ちが違う(3)(1/2 ページ)

前回は、PMとコンサルタントでは中核的スキルが異なることから、経験学習パターンが異なり、コンサルタントの経験学習パターンが日本人の文化的特徴と相違していることが育成を困難にしていることを紹介した。そして、キャリア・アンカー「純粋な挑戦」を持った人材に勇気を持って場を与えることが必要であることを述べた。今回は、コンサルタントの中核的スキルである「概念スキル」に関して、少し検討してみることにする。

» 2007年09月06日 12時00分 公開
[井上 実,@IT]

概念スキル(コンセプチュアルスキル)にはさまざまな解釈がある

 概念スキルは、英語では「Conceptual Skill(コンセプチュアルスキル)」と呼ばれる。インターネットで「概念スキル」を検索してもあまりヒットするものはないが、コンセプチュアルスキルで検索すると多くのものがヒットする。その中のいくつかを紹介すると次のとおりである。

 SMBCコンサルティングは、「コンセプチュアルスキルは、物事を理論化・体系化できる能力、すなわち『概念化』できる能力である」と定義している。例えば、ある専門分野における知識や技術そのものを「テクニカルスキル」とするならば、そのテクニカルスキルを分かりやすく説明したり、図表やグラフを使ってまとめたりできる能力が「コンセプチュアルスキル」だと説明している。

 広島大学大学院社会科学研究科マネジメント専攻の案内文の中では、コンセプチュアルスキルはスキルというよりも、「考え方(哲学)そのもの、またはそれに近いものである」と書かれている。すべての知的スキルの根幹で、時代の変化に左右されない汎用性の高いスキルであり、1. 複雑に絡み合った問題を分解して本質を見抜くスキル、2. 適切な問題設定を行ったうえで、その問題解決への道筋を立てていくスキル、3. 時代の変化につれて解決しなければならない問題が変わっても、自力で対処できる発展性のあるスキル、4. 経験に根付いた職業人としての知識を再構築するスキルであると述べている。

 また、日本ユニシスの白井久美子氏は、コンセプチュアルスキルとして、論理的思考力、現状認識力、課題解決力、問題発見力、ビジョン形成力、戦略立案力、目標設定力の7つの能力を取り上げている

 しかし、どうも分かったようで分からない。同じことをいっているようで、そうでもないような気もする。そこで、元来の提唱者であるカッツ(Robert L. Katz)氏の論文に戻ってコンセプチュアルスキルの定義を明らかにしたいと思う。

提唱者のカッツはどう定義しているのか?

 カッツ氏は、1974年のハーバードビジネスレビューに「Skills of an Effective Administrator」という論文を発表した。この中で、管理者にはテクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの3つのスキルが必要であると述べている。

 コンセプチュアルスキルは、会社全体を見渡す能力であり、組織内のさまざまな部門組織がほかの部門組織とどのように関係しているか、依存し合っているか、ある部門組織の変化がほかの部門組織すべてにどのように影響するかを認識する能力であると定義している。

 また、その関係性を理解する範囲は、企業内にとどまらず、業界や地域社会、国との関係性にまで及ぶものであり、全体の関係性を理解したうえで、問題を解決するために必要な要素を分析、把握することで、組織全体を改善するための方法を管理者が取ることが可能になるという。

 BPR(Business Process Re‐engineering)のときに、盛んにいわれた「部分最適から全体最適へ」を実現するために必要であった、組織全体、問題点全体を鳥観的に把握する能力がコンセプチュアルスキルのようである。そのためには、抽象化能力や概念化能力が必要であるし、論理的思考能力も必要である。しかし、コンセプチュアルスキルの本質は、複雑に絡み合った組織間の関係や問題を部分的に見るのではなく、全体として把握し分析する能力のようだ。

 また、カッツ氏は、この3つのスキルは管理者のレベルにより重要性が異なるという。テクニカルスキルはローレベルの管理者には重要であるが、実際の管理業務にかかわればかかわるほど重要ではなくなり、トップレベルではほとんど必要なくなる。

 それに対して、ヒューマンスキルはほかの人と一緒に働くための基本的な能力であり、すべてのレベルで効果的な管理をするために必要なものである。一方、組織の方向性を示すようなコンセプチュアルスキルは、責任あるトップレベル管理者にとって不可欠であり、最も重要なスキルであるとしている。会社全体を見渡してどのような戦略を立て、どの方向へかじを切るかがトップにおける最も重要な仕事なのだから、当然、トップにとってコンセプチュアルスキルが最も重要なスキルとなる。

 そして、コンセプチュアルスキルを身に付ける方法は、あまり明らかになっていないとしながらも、2つの方法を挙げている。

 1つはコーチングである。他者のコーチングを受けながら、問題の関係性や本質を分析していくことが有効であるとしている。もう1つは、多くの組織部門をローテーションにより経験することである。これにより、部門組織内のそれぞれの役割、部門間の関係性を理解し、特定の部門にとらわれない全体としての見方が養われるとしている。

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