そのプロジェクトの「目的」、見えてますか?隠れた要求を見極める!(2)(2/3 ページ)

» 2007年11月06日 12時00分 公開
[並川顕,株式会社NTTデータ]

プロジェクトのそもそもの目的は?

 この結婚相談所のケースでは、何が問題なのでしょうか? さまざまな問題点が指摘できるかもしれません。ヒアリングの量や質が不足しているのかもしれません。あるいは、業務に対する知識や理解が不足しているのかもしれません。前回も言及しましたが、要求定義がうまくいかない原因を挙げていくと、きりがありません。

 しかし、そうした問題の前に、まず押さえておかなくてはいけないポイントがあります。それは、「プロジェクトの目的」を明らかにする、ということです。「当たり前のことじゃないか」こんな声が聞こえてきそうです。しかし、皆さんが携わるプロジェクトでは、本当にその目的がきちんと明らかになっているでしょうか?

 ここで、前回の内容を思い出していただきたいと思います。システムを作る側にとってのプロジェクトの目的とは、決められた機能のシステムを、決められた納期とコストで納めることかもしれません。しかし、お客さま(利用者)にとって、システムはあくまでも手段であって目的ではありません。お客さまは、システムがもたらすビジネス上のメリットを手に入れることが目的なのです。

 このシステムは何をするためのものなのか、ひいてはどのように業務を改善したいのか、

といった「最も中心にある要求」であるプロジェクトの目的をまずは明らかにしなくてはなりません。これを抜きにしていくらディスカッションを重ねても、今回挙げたケースのように、その都度のお客さまの言葉を大きく取り上げ過ぎるあまり、結果として振り回されてしまう可能性大です。

プロジェクトの目的を「見える化」する

 とはいうものの、「プロジェクトの目的を明らかにしてください」とそのままお客さまに尋ねても、明確な回答が返ってくることはまれでしょう。もしそれがはっきり答えられるのであれば、そもそも要求が二転三転することはないはずです。従ってまずやるべきことは、お客さまの声をプロジェクトの目的として「見える化」して、提示することです。

 初めに見える化した目的が「正解」であるとは限りませんし、「正解」である必要もありません。まずは見える化して提示しておくことが大切なのです。見える化して提示しておけば、お客さまから新たに出てきた要求が目的から外れていたり、目的自体が二転三転しているような場合でも、提示されている目的を基準に状況を客観的に判断し、お客さまと意識共有を図ることができます。そして、お客さまと一緒に軌道修正しながら、最終的に「正解」にたどり着くことができます。

XYZ公式で目的を明らかにしていく

 ここで、プロジェクトの目的を表現するための便利な表記法を紹介しましょう。それは、ソフトシステムズ方法論(SSM)で用いられる「XYZ公式」です。なお、ソフトシステムズ方法論については本記事では解説を行いませんが、興味のある方は以下の記事などを参照してください。

 XYZ公式とは、“Do X by Y for Z.”(ZのためにYという手段でXをする)で表される、ごくごく短い文章のことです。文章の構造は単純です。やりたいこと「X」を中心として、「X」の目指している目的が「Z」であり、「X」を実現するための手段が「Y」となっています。

ALT 図1 XYZ公式

 XYZ公式の魅力は何といっても、この単純明快な構造で手軽に目的を表現できることに尽きます。プロジェクトの目的を表現するための方法は、さまざまに考えられます。文章を使っていくつかの個条書きを並べても構いませんし、その中に分かりやすい絵を含めてもいいでしょう。しかし、忘れてはいけないことがあります。

 プロジェクトの初期段階では「目的は定まらず、移ろいやすい」ことです。狙いを定めて、一発で正しい目的を射止めることは至難の業です。従って、目的を決めることだけに時間と労力を使い過ぎてしまうと、狙いが外れた場合にやり直しが利きにくくなってしまいます。

 そこで、XYZ公式の単純さが大きな力を発揮します。短い文章で労力を掛けずに目的を表現するのです。XYZ公式は、実行したいと思っていることを、その背景にある目的や、具体的にイメージできる手段といったポイントとともに、簡単に示すことができます。

 ではここで、前述の結婚相談所を営んでいるお客さまの要求を、実際にXYZ公式を使って表現してみます。

 まず、最初の客さまの声は次のようになるでしょう。

・「?」(Z)のために、

・「新しいシステムで事務処理負担を軽減する」(Y)という手段で、

・「アドバイザーのカウンセリング時間を捻出する」(X)

 さらに、2回目に訪問した際のお客さまの発言をXYZ公式に当てはめると次のようになります。

・「?」(Z)のために、

・「新しいシステムでアドバイザー同士の情報共有を促進する」(Y)という手段で、

・「お見合い結果等の情報をアドバイザーが会員へ適切にフィードバックする」(X)

 このように実際にXYZ公式を当てはめてみると、どちらの発言も目的を表す「Z」を満たしていないことがはっきり分かります。その具体的な内容を、お客さまと一緒に考えていかなくてはなりません。仮に「Z」が「カウンセリングの時間を増やすため」だとした場合と、「カウンセリングの質を確保するため」だとした場合では、システムに求められるものはまるっきり異なってくるでしょう。逆にいえば、「Z」を明確にしないまま開発を進めていくと、お客さまが本当に求めているものとはまるっきり異なるシステムが出来上がってしまうかもしれないのです。

 目的を表す「Z」をはっきりさせるように心掛けながらお客さまと打ち合わせを行っていけば、実現しなくてはならないことが徐々に見えてきます。結婚相談所のケースでも、XYZ公式で表現される目的や実現したいことをお客さまと確認しながらヒアリングを進めていれば、お客さまの一言一句に振り回されるような事態を避けられたかもしれません。

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