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» 2008年01月11日 12時00分 公開

日本のIT再検証(2):マッシュアップによる「新OA運動」の勧め

かつて日本企業がこぞって推進したエンドユーザー・コンピューティング(EUC)。エンドユーザーのリテラシーが全般的に向上したいま、新たな技術でこれを復活させる大きなチャンスが生まれている。

[角田 好志,@IT]

 かつてパソコンがビジネスに使えそうだといわれ始めた1980年代に、企業はOA(Office Automation)運動を繰り広げた。BASIC言語を活用した簡単なアプリケーション利用に始まり、ワープロや表計算の教育を行うことで、オフィス作業の効率化を狙ったものである。

 OA運動の柱は、大きなコンピュータの利用からパソコンやLAN利用への「ダウンサイジング」という環境変化の推進と、実際に仕事を行う人自身がシステムを構築しコンピュータを動かす方が、情報システム部門に頼むよりも早いし確実との判断で進められた「エンドユーザー・コンピューティング」(EUC)の2つであった。

 どこの大企業にも「OA推進室」のようなものができ、パソコン教室を設置してOA教育を行ったものである。その後ワープロと表計算の教育が終わり、Windows 95というGUIを持ったOSの登場で操作性が向上したこともあり、さらには電子メールやインターネットの一般化も進んで、ユーザーのコンピュータ・リテラシーは飛躍的に向上していった。

 そして、OAは過去のものとなっていったが、簡単なルーチンワークのシステム化については、いくつかの問題を残している。

 まずは、このようなアプリケーションを作ったエンドユーザーにも転勤は付きものであり、作った人を引き継いだ人が同等かそれ以上のOA能力を持っているとは限らない。

 このような状況が繰り返され、結局、EUCはどこかへ行ってしまい、情報システム部門の人が文句をいいながらつまらない(?)システムを引き取り、高い費用で業者に開発させたりしている。

 現在においてもまだ、どの企業にもたくさんのOA資産が存在しており、開発した人が去ってしまった後は、どう運用維持するかで困っているところも多い。ExcelのマクロやAccessで作られたルーチン処理がこのようなものの代表例だろう。

いまだからこそのEUCとは

 この問題への対策として「新OA運動」を提案する。

 EUCをもう一度、現在の技術進歩と整備された環境の中に置き直すことだ。

 この間に起きた最大の変化は、Webをはじめとするインターネット技術である。ユーザーおよび企業はこの新技術にまだ正面から立ち向かってはいない。

 EUCの本質である「実際に仕事を行う人自身が情報システムを作り、コンピュータを動かす方がよい」は絶対に正しいのである。

 最近の傾向では、すべての業務を情報システム部門に任せてしまい、国内の開発業者を経由して中国やインドの会社が開発をする。この仕組みでは、いかに多くの無駄なコミュニケーションをはさみ、伝達ミスが生じやすいかは、誰が見ても明らかである。もちろん業務の内容の選択も必要だが、もう一度原点に帰って、企業の基盤ともなった情報システムを「EUC」という古くて新しいキーワードで考え直す必要がある。

 これを実現できるユーザー自身のリテラシーやパソコンやネットワークの環境は、旧「OA運動」の当時とは比べ物にならないくらい進化している。今やメールやネット検索は当たり前で、ワープロや表計算、プレゼンテーションツールなどのオフィス系ソフトは、ほとんどの大企業ホワイトカラー系の人は利用できる。

 これからの新OA運動の主たるテーマは、WebサービスのAPIとスクリプト言語を活用してマッシュアップしたEUCを推進することだ。

 無償で提供されるWebサービスのサイトは、データの種類から量まで非常に豊富となっている。SOAもいわば社内のWebサービスと位置付けた方が分かりやすい。この社内外のデータを組み合わせて使用することにより、新たなOA分野は大きく広がる。

 また、旧OAの資産も一気に作り替えてしまうこともできる。外の業者に高い費用をかけて出すだけではなく、もう1つの選択肢があることを認識しよう。

 外部のWebサービスを業務アプリケーションに活用する例はすでに登場している。2007年の夏ころには北海道庁の「出張JAWS」が話題となった。これは複数の外部Webサービスを組み合わせ、マッシュアップして同庁内で作成した出張サポート・アプリケーションだ。旧OAの時も、花王や協和発酵の先行事例が火付け役となってEUCが広がったが、これと同じように外部Webサービスの利用が企業間で広まっていくことが期待できる。

 このような新OA運動の旗手となるような人材が、既存の社内システムを熟知している情報システム部門からどんどん現れ、単に基盤システムの安定化ではなくエンドユーザーと情報システムの懸け橋となるように活動してもらいたい。

 最後に、Webサービスとして無償でAPIを提供している主なサイトをいくつかご紹介しておく。

サービス名 サービス内容 提供元
Google API 地図、カレンダーなど複数のサービス グーグル
Yahoo!デベロッパーネットワーク 検索、オークションなど複数のサービス ヤフー
はてなウェブサービス RSS、キーワード検索など複数サービス はてな
じゃらんWebサービス 宿・ホテル情報 リクルート
Amazon Webサービス アマゾン取り扱い商品情報 アマゾン
郵便番号検索API 郵便番号から住所を検索 zip.cgis.biz
表 主な無償Webサービス

著者紹介

▼著者名 角田 好志(かくた こおし)

オープンソース・ジャパン代表取締役社長 兼 PCIホールディングス取締役。

三井銀行(現三井住友銀行)にてシステム開発部や国際部などに在籍。三井銀ソフトウェアサービス(現さくら情報システム)出向時代に、黎明期のPC LAN事業やAI事業などを立ち上げ。その後、さくら銀行(現三井住友銀行)と昭和電線電纜(現昭和電線ホールディングス)、ワールドビジネスセンターとの合弁会社であるネットワークSI企業アクシオを設立し、常務取締役に就任。1997年、大塚商会の支援を受けJavaとLinuxのSI企業テンアートニ(現サイオステクノロジー)を設立し代表取締役社長に。2002年1月より代表取締役会長。2002年12月、ゼンド・オープンソースシステムズを設立し代表取締役社長に就任。2004年9月、ゼンド・オープンソースシステムズはオープンソース・ジャパンに社名変更。その後2007年7月にオープンソース・ジャパンはPCIホールディングス・グループに入り、同ホールディングス取締役を兼務して現在に至る。

著作としては、「ITマネジメントの常識を疑え!」(日経BP社)、共著として「入門NetWare」「入門NetWare 386」(ソフトバンク)がある。


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