コンプライアンスを語る前に考えてみること何かがおかしいIT化の進め方(35)(1/3 ページ)

昨今、官僚の収賄事件や天下り問題が話題になる。これらの背景には、社会全体の倫理観の喪失がある。この問題は「対岸の火事」ではなく、「他山の石」として考える必要があるのではないだろうか。

» 2008年01月28日 12時00分 公開
[公江義隆,@IT]

 最近の企業や役所の不祥事には本当に暗い気持ちになる。

 背景には倫理観の喪失を感じる。かつて、性善説が前提であったころの日本には“恥の文化”があった。その時代にあった一罰百戎の方法や温情をもって改心を促す考え方は、もはや有効に機能しなくなっているようだ。

 いまの日本では、個人と組織の倫理観を取り戻すことが緊急の課題であるが、伝統的な常識に期待する従来の方法では、価値観や考え方が多様化する現在にはもはや対応できないのだろう。具体的な個別問題に対する処理ルールの設定が必要な時代になったようだ。

天下りと談合の問題

 公務員の天下りが官製談合の温床として世間の批判の対象となっているが、これには大きく分けて3つの問題があると思う。

価格談合

 第1の問題は、「談合によって、不当に価格が引き上げられている」という点だ。企業同士や業界ぐるみの価格カルテルなど、民間の談合であってもこの点では同じだ。しかし、国の買い物では税金でこれを負担することになるから、納税者である国民は怒る。

 官製談合は、発注者と受注側との談合という点がより悪質ではあるが、“やめればなくせる”という構造だから、まだ構造は単純である。この罪に対する極端に軽いわが国の刑罰を、グローバル水準にするだけでも相当の効果があるはずだ。

天下りシステム

 第2の問題は、「この不当な高価格の見返りに、高額な給料や退職金という形で“多額のキックバック”を発注先の業者から後日受け取っている」という点だ。立場の弱い業者を巻き込んで、自分たちの生涯収入額を保証するという、極めて私的な利益に税金が還流される仕組み(システム)を作り、当然のこととして組織ぐるみで運用しているわけであるから国民はますます怒る。

 民間会社なら背任として即刻クビ、詐欺か横領で告訴が常識だろう。しかし、組織ぐるみで長年やってきて、それが常識になってしまったのだろう。彼らには罪の意識が感じられない。

 公共工事であれ、役所の情報システムであれ、これらの最終的なユーザーは国民だ。ユーザーとして得られる直接・間接の利益のために税金を払っているというのが、国民側の感覚である。一方、官僚には預託された税金で国民のために事業をしているという意識はなく、「予算=自分たちの財布」と思っているようにさえ見える。

 この第2の問題は、第1の問題に比べると「仕組み(システム・制度)」を作ってしまっているだけにかなり厄介だ。仕組みの破壊と作り変え、つまり改革に多大のエネルギーが必要になる。背景にある“意識”の問題はさらに厄介だ。

 早期退職の慣行を理由に挙げる人もいるが、同期の1人が出世すると「ほかの全員がなぜ辞めなければならないのか?」ということに、ほとんどの役人は疑問を持ったことはないのだろう。よほど大きなショックがなければ、当事者たちにはなかなか気が付かない・理解できないことが多いものだ。

エリート候補と本物のエリート

 第3の問題はさらに難しい。難関である国家公務員採用試験の上級試験をパスした“将来のエリート候補生”たち。しかし、彼らは役所を離れる30年後には「社会に通用する能力」を持っていないらしい。その要因には、そんな“組織運営・仕事のやり方”になっていることが挙げられる。

 持てる力を生かし、仕事の内容や成果に見合う収入を天下り先で得るというなら、それは決して悪いことではないし、事実そんな人もいるはずだ。

 しかし、天下り先での唯一の仕事が“談合の調整窓口”であったり、すでに存在目的を失ったような特殊法人や赤字垂れ流しの第3セクターで、ろくに仕事もせずに禄(ろく)を食(は)む人も少なからずいる。そしてそれらの組織の維持のため、無益な事業に多大な税金が投入されているのだ。怒りの頂点を通り越して言葉を失う。

 背景には、学校の成績が良かっただけの“エリート候補生”を、本物のエリートと思い込んでしまった考え違い、または組織がそのように扱ってきた間違いがある。

 幼い時から塾に通わされ、人間性とは無縁な試験の成績第1という競争環境で育ち、学業成績が良いというだけで、好きでもない医者や弁護士、志もなく上級公務員の道に進まされた子供たちはかわいそうでもあり、国民は大迷惑である。

 「わが子だけは」と進学塾に通わす親も、国民の1人であるから「意識・価値観」の問題として大変厄介だ。

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