2015年のメディア・コンテンツ産業はこうなる、NRI目指せ、脱ガラパゴス化

» 2008年02月05日 00時00分 公開
[谷古宇浩司,@IT]

 野村総合研究所(NRI)は2月5日、2015年をターゲットとした国内メディア・コンテンツ産業の変革シナリオを記者向けのセミナーで解説した。同シナリオはいくつかの実データに基づいて構成されているものの、同社が発表する予測レベルの蓋然性を持つものではなく、いくつも想定されるシナリオの1つに過ぎないと野村総合研究所 情報・通信コンサルティング部 上級コンサルタント 中村博之氏は断っている。

 中村氏は2015年にはインターネット技術を当たり前に使いこなす層がコンテンツ消費の新たな担い手になると言う。この層は1995年以降に子供時代を過ごした人々で、同社は「デジタルネイティブ」と命名している。

野村総研写真 野村総合研究所 情報・通信コンサルティング部 上級コンサルタント 中村博之氏

 デジタルネイティブの特徴は、現在のコンテンツ消費の担い手である20代、30代の一部の層の性質を混ぜ合わせたものだ。

 20代では、インターネットが利用メディアの中心であり、テレビへの依存度が低い人々。さらに、無料サイトを頻繁に活用し、情報収集や価格検索も積極的に行う。創造活動への参加意欲が高いという特色がある。同社はこのような人々を「デジタル自由人」と呼ぶ。

 30代においては、テレビを利用メディアの中心に据えるが、利用時間は平均的。コンテンツに関する評判を強く気にする傾向があり、ランキング情報にも敏感である。「トレンドフォロワー」と同社は命名している。

 デジタル自由人とトレンドフォロワーの特徴を備えた新世代のコンテンツ消費者の担い手がデジタルネイティブであり、彼らの生活スタイルは、デジタル技術の影響を非常に強く受けている。テレビを中心とした既存メディアでは、デジタルネイティブのニーズを満たすサービスや消費スタイルを提供することは困難だと同社は指摘する。

 そこで同社は、テレビがネットサービスの利点を取り込みながら、次世代テレビ(NGTV)に進化することが望ましいとする。NGTVとは、ネットサービスで効果が実証されている機能を実装したテレビを指す。ここでは、「ナビゲーション」(検索やレコメンデーション)、「オンデマンド視聴」(タイムシフト、ロケーションシフト)、「メタ情報の共有」(レーティングの共有)、「評価」(評価のフィードバック)が想定される。米国ではCATVの進化型が有力候補だが、日本では、デジタルテレビ向けのポータルサービス事業を行っているアクトビラ(旧テレビポータルサービス、2007年9月1日に社名変更)の進化型に期待できると同社は言う。

 NGTVの普及は産業構造の変化を促す。従来のように、一部の巨大なメディア企業が伝送路および媒体を独占し、コンテンツを提供しながら広告収入を得るという構造では、将来的なメディア・コンテンツ市場のニーズに対応することは難しいと同社は指摘、伝送路・メディアを半ば公共化し、NGTVに実装する“コンテンツ・エバリュエーター”(コンテンツ評価)システムを軸としながら、コンテンツの製作門戸を開放する構造へと変革する必要があると説く。

 もちろん、解決すべき課題はいくつも考えられる。視聴環境の普及速度は現時点では予測することが難しく、また、ギャランティの分配指標としてふさわしい評価のコンセンサスを得る方法も十分に議論する必要がある。著作権関連の問題や、クリエイター育成の課題(主要メディアにはクリエイター育成の役割もある)なども簡単に解決できるものではない。

 とはいえ、メディア・コンテンツ産業の国内レベルの成長性は相対的に低レベルであると同社は述べ、上述したような産業構造の変革を成し遂げることで、市場の脱ガラパゴス化を実現、世界有数のクリエイティブ産業として、世界市場に打って出ることができるとする。

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