インダストリアル・エンジニアリング(いんだすとりある・えんじにありんぐ)情報マネジメント用語辞典

IE / industrial engineering / 経営工学 / 管理工学/ 生産工学 / 産業工学

» 2008年02月26日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 企業などの経済的組織が人・物(資材・設備・エネルギー)・金・情報といった経営資源をより効果的・効率的に運用できるよう、作業手順・工程、配置・用具、組織・制度、管理方法を分析・評価して改善策を総合的なシステムに再編成し、現場に適用する体系的技術のこと。あるいは、それを研究する工学分野をいう。

 具体的には工場や店舗、事務所などにおいて、人員の配置や作業手順、設備レイアウトの設計、機械や道具の選定、管理方法や合理化の計画・立案といったスタッフ的活動が該当する。作業測定、ワークサンプリング、標準時間の設定、工程分析などの手法を使い、現場活動のムダ・ムリ・ムラを省いて生産性を高めることが第一の目的となる。原価計算、予算統制に加えて、生産管理、在庫管理、設備管理、品質管理、要員計画、安全衛生制度、改善活動制度、職務評価制度、賃金制度などのマネジメントシステムの考案・設計・適用を含める場合もある。

 IEは19世紀末にASME(米国機械技師協会)が推進した「能率増進運動」の中から生まれてきたもので、フレデリック・W・テイラー(Frederick Winslow Taylor)らの科学的管理法を経て、仕事とそのマネジメントに関する各種の知識・理論・改善技法を加えながら適用範囲と内容を拡大し、現在では組織経営のほとんどすべての領域の問題を扱うようになっている。

 過去の時代的変遷もあって、IEにはさまざまな別名と定義がある。通常は第二次世界大戦以前のものを古典IE(classical industrial engineering)、戦後の各種マネジメント技法を取り入れたものを現代IE(modern industrial engineering)と分類する。日本語では、経営工学、管理工学、生産工学、産業技術など、数多くの訳語がある。欧州ではPR(production research)ということもある。IM(industrial management)、ME(management engineering)、あるいはOR由来のMS(management science)は、しばしばIE(特に現代IE)の同義語として使われる。

 著名な団体、個人によるIEの定義は以下の通り。

IEは定式化されたマネジメントの科学である。それは製造、建設、輸送、さらには商業的事業など、実際、何らかの仕事を遂行するべく人間労働が発揮されるどのような事業をも能率的に行うように指揮する。IEは機械工学、経済学、社会学、心理学、哲学、会計学という旧来の科学を融合した独立科学である。IEは単に財務的ないし商業的指揮でもなく、動力装置を運転することでもなく、過程や方法を考案することでもない。IEの本質は、これらを調和させ、技師、機械製作者、建築家が提供する設備を使用する作業員を指揮することである。


「Principles of Industrial Engineering」 チャールズ・B・ゴーイング著、1911年


IEとは単に製品を作るのではなく、設定された品質水準の製品を最低のコストで作ることを意味する。


「The Principles of Scientific Management」(F・W・テイラー著)の序文ヘンリー・R・タウン、1911年


IEとは、決められた時間に最適の原価で望ましい数量および品質の生産を達成するために、人・設備・資材を利用して調整を行う技法ならびに科学である。この中には、建物・設備・レイアウト・人的組織・作業方法・生産工程・日程計画・標準時間・貨率・賃金制度・原価・製品とサービスの品質・数量を管理する組織などに関するデータを収集・分析し、処置することを合む。


米国機械技師協会(ASME) 作業標準化委員会、1943年


IEとは、人・物・設備の総合されたシステムの設計・改善・確立に関するもので、そのシステムから得られる結果を明確にし、予測し、かつ評価するために、工学的な解析・設計の原理や方法とともに、数学・物理学・社会科学の専門知識と技術とを利用する。


米国IE協会(AIIE=現IIE)、1955年


人、原料、設備、エネルギー及び情報の総合された体系の設計・改良・設定に関する活動。その体系から得られる成果を測定し、予測し、評価するために、工学的な分析・設計の原理と方法に加え、数学、自然科学及び社会科学の専門知識と経験とを利用して行うものである。


JIS Z 8141 生産管理用語、1983年


経営工学とは、経済の発展と人類の福祉を目指して、社会や企業などの組織的な活動を工学的な立場から統合し、かつ推進するための管理技術の体系である。


日本学術会議経営工学研究連合委員会(経営工学の定義)、1990年


経営目的を定め、それを実現するために、環境(社会環境および自然環境)との調和を図りながら、人、物(機械、設備、原材料、補助材料及びエネルギー)、金及び情報を最適に設計し、運用し、統制する工学的な技術・技法の体系。


JIS Z 8141 生産管理用語(経営工学の定義)、2001年



 IEという用語を使用した例は、文献で確認できる範囲ではジェームズ・N・ガン(James N. Gunn)が1901年のエンジニアリングマガジン誌に掲載した論文「Cost Keeping」が最初だとされる。これは生産工程における原価の発見・改善は技師(エンジニア)の重要な仕事だとしたうえで、その職種と育成カリキュラムの確立を主張するものだった。IEを著書の表題に用い、定義化を図ったのは、チャールズ・B・ゴーイング(Charles Buxton Going)で、その「Principles of Industrial Engineering」(1911年)は初期のIEにおける定番教科書となった。

 同書が出版されたころ、IEは科学的管理法の名称で全米に知られることになる。このころのIEは生産や建設などの作業現場における直接作業を測定・改善する技法で、今日でもIEというとテイラーの時間研究と、フランク・B・ギルブレス(Frank Bunker Gilbreth)の動作研究から発展した作業研究(動作時間研究、作業簡素化、メソッドエンジニアリング)を基本とする技法がイメージされる。

 フォードシステムやオートメーションの登場を経て、第2次世界大戦後には企業内の個別要素システムではなく、より大きなシステムを対象として、その定量的最適化を図ろうという流れが現れる。最初は大戦中に登場したORなどの手法を用いるものとして出現し、後にシステムズアプローチ(システム工学、ワークデザイン)の手法と結合して、企業を動的システムとみなして問題を解決する方法へと発展した。さらに行動科学、社会科学などの要素を取り込んで、働く人々の人間的な面をフォローするアプローチも展開された。

参考文献

▼『科学的管理法〈新版〉』 F・W・テーラー=著/上野陽一=訳/産業能率短期大学出版部/1969年11月(『Shop Management』『The Principles of Scientific Management』の邦訳版新訳)

▼『IE(インダストリアル・エンジニアリング)とは何か――生産性と人間性の融合』 八巻直躬=著/マネジメント社/1993年1月

▼『技師とマネジメント思想――アメリカにおけるマネジメント思想の生成 1880年?1920年』 廣瀬幹好=著/文眞堂/2005年9月


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