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» 2008年03月31日 00時00分 公開

情報システム用語事典:パターンランゲージ(ぱたーんらんげーじ)

pattern language / パタンランゲージ / パターン言語

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 街づくりや建築デザインなどの創造過程で暗黙的に使われてきたノウハウや特定の価値観に基づく指針を知的体系として形式化したもので、利用者参加型プロセスによって調和ある成果物を生み出すことを可能にする創造支援ツール。

 パターンランゲージは近代都市計画批判の立場から新たな建築方法論として、建築家でカリフォルニア州立大学バークレー校の環境デザイン学部教授だったクリストファー・アレグザンダー(Christopher Alexander)が、1970年代から提唱しているものである。

 アレグザンダー方式の建築の特徴は、これから作る建築物の設計をパターンランゲージという言語体系を使って、文章の形で生成していくことにある。そして図面などで完成形を固定するのではなく、施工の中で必要に応じて変更を加えながら建設を進めていく。この営みを、数十〜数百年の単位で続け、街や建物を漸進的に成長させていくのである。

 アレグザンダーは、現代の“人工の都市”は豊かな人間性を失っていると批判し、その原因は近代都市計画の効率主義によって、都市が機能だけに注目したツリー構造として計画されているためだとした。一方、計画を排した自然のプロセスによって長い時間をかけて形成された“自然の都市”は諸要素が重なり合う構造(セミラティス構造)になっており、得も言われぬ心地よさ――後に「名付け得ぬ質」と名付けられた――があると主張する。こうした心地よさや美しさを都市や建築に取り戻し、“有機的秩序”を回復するため、マスタープラン(基本計画書)に代えて考案されたのがパターンランゲージである。

 建築(特に設計)を言語行為ととらえる見方はかねてからあり、パターンランゲージもその系譜の1つと見ることができる。ただし、パターンランゲージは建築家個人の言語活動ではなく、都市住民やコミュニティで合意形成ができる共通言語として構想されている。

 パターンランゲージはパターンを要素とする、言語のような規則システムである。すなわち、日本語や英語といった自然言語が文法や意味的規則に基づいて単語(語彙)を組み合わせることによって無限に文を作り出すように、パターンランゲージは有機的な相互規則を持つパターン同士が秩序ある構造=空間デザインを生成するシステムとして意図されている。

 パターンとは、自然や美しい建築に潜む、調和ある形態を発生させるようなルールであり、よい街・建物づくりのための指針であり、過去から引き継がれてきた歴史と文化を示す記述である。アレグザンダーは都市や建物をパターンの折り重なりととらえ、パターンが調和することで「名付け得ぬ質」が得られると考えたのである(ただし、後にはパターンランゲージだけでは不足だという立場に転じる)。

 パターンランゲージにおいて、パターンは「名前」「背景」「問題」「解決策」「フォース※」の組からなる自然文で記述される(初期の研究ではif-thenルールで記述する試みが行われた)。アレグザンダーらの著書『A Pattern Language』には、253のパターンが収録されている。フォースには制約事項として、ほかパターンとの関係や組み合わせの可否について書かれているが、これがパターンランゲージの文法であり、パターンランゲージが単なるノウハウ集ではなく、意味論的構造を持つランゲージとして構成されるポイントである。

※ 建築設計の成果物は施工を経て、物理的な力(フォース)の相互作用が支配する環境下に置かれる。ここから制約的影響として考慮しなければならない対象をフォースという。

 書籍『A Pattern Language』のパターンは、「街」「建物」「施工」の3つに分類されており、上位のパターンから下位のパターンへ関連付けがなされている。使い方はまず、253のパターンの中からテーマに沿って最初のパターンを定める。それに関連するパターンのうち、有用と思われるものをすべて抜き出し、必要に応じてパターンの変更・追加を行う。こうしてできたパターンの列を「計画ランゲージ」といい、従来の建築計画の代わりとなるものである。

 パターンは常に見直され、成長するものであって、アレグザンダーも著書にある253のパターンを「仮説である」としている。実際の建築プロジェクトで使われるパターンランゲージは、参加メンバー(住民など)によってプロジェクトごと、街ごとに定められるものである。近代言語学(ソシュール言語学)では言語(ランガージュ)を社会的言語(ラング)と個人的発話能力(パロール)に区別するが、パターンランゲージも街や地域共同体が定める、共通言語としてのパターンランゲージのみが実在するパロールだということになる。

 アレグザンダーの思想では住民が主体となった設計を志向しているものの、現状のパターンランゲージの実践においては「アーキテクトビルダー」という職種が置かれる。アーキテクトビルダーはユーザー要求を計画ランゲージにまとめたり、要求と制約条件とのバランスをとったり、原寸設計とその一部施工を行ったりと、設計と施工の双方にかかわる専門家である。

 パターンランゲージを実際の建築に適用した事例としては「オレゴン大学のマスタープラン」「盈進学園東野高校の建設」などが有名だが、建築界で広く利用されるまでには至っていない。なお、真鶴町や川越市などでは、景観条例を定める際にパターンランゲージの手法を利用している。

 建築界とは対照的にパターンランゲージに大きな影響を受けたのが、コンピュータ・ソフトウェアの世界である。この世界でアレグザンダー思想の導入を最初に唱えたのは、ケント・ベック(Kent Beck)とウォード・カニンガム(Ward Cunningham)の2人で、彼らは1987年に『Using Pattern Languages for Object-Oriented Programs』という論文を連名で発表した。このテクニカルペーパーは、GUIプログラミングにおけるパターンの利用を提示したもので、ユーザーインターフェイスの設計を当のユーザーにも分かりやすくするために5つのパターンを提示している。

 これは「家やオフィスは、実際にそこにいる人たちの手によって設計され、作られるべきだ」というアレグザンダーの問題意識を受け継いでおり、ベックとカニンガムはやがて、プログラミングにおける「漸進的な設計」「マスタープランの廃止」を具現化するものとして、エクストリーム・プログラミングとWikiを生み出すことになる。

 1994年になると、エーリヒ・ガンマ(Erich Gamma)、リチャード・ヘルム(Richard Helm)、ラルフ・ジョンソン(Ralph E. Johnson)、ジョン・ブリシディース(John Matthew Vlissides)の4人が「Design Patterns: Elements of Reusable Object-Oriented Software」という書籍を出版、ソフトウェアの内部設計にパターン概念を持ち込んだ。同書で示された23種類のデザインパターンは非常に洗練され、使い勝手に優れていたため、今日でもGoFパターン(gang of four=4人組のパターン)としてオブジェクト指向開発者に重宝されている。このGoFパターンをきっかけにソフトウェア開発に関するさまざまなパターンが登場し、ソフトウェアパターンと総称されている。

 ソフトウェアパターンの隆盛もあって、近年では幅広い分野でパターンランゲージが注目されるようになってきた。企業のイノベーション促進、学習や会議といったファシリテーション、プロジェクト推進といった領域で、新たなパターンランゲージが提案・研究されている。

参考文献

▼『オレゴン大学の実験』 クリストファー・アレグザンダー、シュロモ・エンジェル、ドニ・アブラムス=著/宮本雅明=訳/鹿島出版会/1977年12月(『The Oregon Experiment』の邦訳)

▼『パタン・ランゲージ 町・建物・施工――環境設計の手引』 クリストファー・アレグザンダー=著/平田翰那=訳/鹿島出版会/1984年12月(『A Pattern Language』の邦訳)

▼『時を超えた建設の道』 クリストファー・アレグザンダー=著/平田翰那=訳/鹿島出版会/1993年10月(『The Timeless Way of Building』の邦訳)

▼『クリストファー・アレグザンダー ――建築の新しいパラダイムを求めて』 スティーブン・グラボー=著/吉田朗、辰野智子、長塚正美=訳/工作舎/1989年6月(『Christopher Alexander: The Search for a New Paradigm in Architecture』の邦訳)

▼『オブジェクト指向プログラムのためのパターン言語の使用』 Kent Beck、Ward Cunningham=著/kdmsnr=訳/2005年(『Using Pattern Languages for Object-Oriented Programs』の邦訳)オブジェクト指向プログラムのためのパターン言語の使用』 Kent Beck、Ward Cunningham=著/kdmsnr=訳/2005年(『Using Pattern Languages for Object-Oriented Programs』の邦訳)


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