IT経営を実施するうえで最も困るものの1つが、IT投資の効果をどう評価するかだ。IT業界ではいろいろな方法が提唱されているが、これらは営業部門や経営者層の説得材料にはなりにくい。事業主体部門をIT経営に巻き込む方法とは?
これまで、IT経営の実践に必要不可欠なマインド面のお話をしてきましたが、今回からはより実践的なノウハウ/テクニック面にフォーカスを当ててみたいと思います。最初のテーマは、IT経営の評価方法です。
一昔前のIT投資といえば、「売上高の○%程度に収まっているか?」といった非常にざっくりとした数値で評価(?)するのが普通でした。しかし、時は移り、「こんな非合理的な方法ではダメ」となったのでしょう。しばらくすると、ファンクションポイント法やバランスト・スコアカードといったIT投資的視点や経営的視点を持つ評価手法が広まりました。
わたしも前職で営業グループに属し、システム開発の承認を得るための社内稟議(りんぎ)書作りを担当していたころ、あらゆるプロジェクトで実際にこれらの手法を用いて投資効果を算定していました。しかし、数字を作って営業責任者にプレゼンしてもうまくいくことはほとんどありませんでした。
というのも、営業部門はROIを評価軸として投資の良し悪しを判断するので、定量効果よりも定性効果のアピールが目立つIT投資に対して、根本的に理解し難いと感じている様子でした。その後自分も実際に営業を担当してみて分かったのですが、両者の投資に対する考え方があまりにも違っていることに驚きました。これでは、理解を得られるはずもありません。
いまもあまり変わらないかもしれませんが、5年ほど前までの営業部門のIT投資に対する認識は、基本的に“他人事”であり、「どうしてこんなに費用が掛かるの?」という程度のものでした。そんな中、わたしが考え方を180度変えるきっかけとなった衝撃的な出来事が起こりました。
とある投資委員会でわたしが担当する事業開発案件の説明をしていたときに、ボードメンバーの1人がある驚くべき一言を発したのです。
「情報システムってほんと金食い虫だよな!」
なぜ決裁権限者が「金食い虫」なんて言葉を公の場で口にしてしまったのか? 彼の一言は理解し難いものですが、時間を置いてじっくり考えてみると、彼のいいたかったことを理解するのも必要かなと感じるようになり、いろいろ思いを巡らせてみました。
結論からいうと、前述の通りIT投資効果の説明は定性効果がメインテーマとなるので、経営者層に説得力をもって伝えることが難しい──ということに尽きると思います。IT投資も事業成長戦略の1つです。事業主体の営業部門が他人事ととらえてしまう現状を変えない限り、ギャップは埋まらないと確信しました。
では、どうすればギャップを埋められるのか……?
現状分析をしてみると、社内には成長戦略を取るべきビジネスとそうではないビジネスがある。それに対して満遍なく成長戦略を実行するためのITインフラを提供するという考え方自体正しいのか?
IT投資を事業成長用と経営管理用に分け、前者は事業投資採算の観点で、後者は電話やファクスなどと同じビジネスインフラの観点で評価すべきではないか?
という考えに至りました。
実は、この考え方こそ、前回取り上げたIT経営フレームワークの実践主体を「外向きのIT化」と「内向きのIT化」に分けるきっかけとなったものでした。
そして営業部門に対しては、彼らが関心を示しやすい「外向きのIT化」部分を浮き彫りにし、この部分も含めて事業投資と考えてもらうことで、命題であった「IT投資を営業部門に他人事と思わせない」ことを可能としたのです。
次のページでは、実際にわたしが担当した例を用いて具体的な評価手法について説明したいと思います。
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