ブルウイップ効果(ぶるういっぷこうか)情報システム用語事典

bullwhip effect / 鞭打ち効果

» 2009年03月24日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 多段階の需要‐供給が行われる流通過程(サプライチェーン)において、末端(需要側)から源流(供給側)に向かって需要情報が連鎖的に伝えられるうちに、発注数量が実需とは乖離(かいり)したものになってしまう現象のこと。

 古典的な産業・経済理論では、市場に需要数量の変動があっても流通経路内の在庫がバッファ(緩衝装置)となり、生産段階の数量は平準化されると説明する。しかし現実には理論と逆の現象——ブルウイップ効果が観測されるため、古くから多くの研究者がこの問題に取り組んできた。

 発生原因の1つに、「流通過程の各段階における期待・予測の累積」が挙げられる。販売の現場で商品が予想外によく売れた(売れなかった)とき、仕入れ担当者はそれを将来需要の増加(減少)を示すシグナルと見なし、次回の発注数量をより多く(少なく)する。これが多段階(例えば4段階)の流通過程の各段階で行われた(例えば発注量2割増し)とき、最上流の供給者(生産工場など)へは「1.2×1.2×1.2×1.2=2.07」で、実績値の2倍を超えるオーダーとなって伝えられる。仕入れ数量の水増しは、需要過熱(ブーム)や供給能力不足などによって商品が品薄になることが予想される場合、少ない供給を複数の事業者が奪い合うため、さらに大きくなる。

 ブルウイップ効果の原因を「需要情報の伝達に時間的遅れが生じるため」とする説もある。納入リードタイムがサプライチェーン中に多段階に存在すると末端の情報が源流にたどり着くまでの時間も間延びする。このため、小売店では売れ行きが落ち始めているのに卸売業者は仕入れを増やそうし、生産工場が減産準備を始めようとしているときに材料納入業者はフル生産中というように、“波打つ”ような状態が生じる。

 サプライチェーンに参加する各事業者のスケールメリット追求の動きも、ブルウイップ効果を誘発するといわれる。生産や輸送に固定的な費用がかかるとき、一定の数量をまとめる「ロット発注」「バッチ処理」などの方法を選択されることが多いが、これも需要‐供給の流れを歪ませ、波打たせる。価格変動があって安いときに多く仕入れることが可能な場合、需要とは別に会計上の決算・予算の関係で在庫や仕入れを操作するような場合も同様である。

 ブルウイップとはブル(牛)を追うウイップ(ムチ)のことで、手元で小さく動かすだけで先端が音速を超えるほど速く大きく動く。ブルウイップ効果はサプライチェーンに見られる需要の増幅現象をムチの動きになぞらえた表現で、1990年代初めごろから使われるようになったという。ただし現象そのものは古くから知られ、マサチューセッツ工科大学(MIT)教授のジェイ・W・フォレスター(Jay Wright Forrester)は、システムダイナミックスの研究を行う中で同種の現象を報告している。このため「フォレスター効果」ともいう。

 SCMという経営コンセプトが生み出された目的の1つに、ブルウイップ効果の抑制があったといわれている。トヨタ生産システムかんばん方式平準化、1個流し、TOCのドラム・バッファ・ロープもブルウイップ効果の緩和につながる策と位置付けることができる。

参考文献

▼『最強組織の法則――新時代のチームワークとは何か』 ピーター・M・センゲ=著/守部信之、飯岡美紀、石岡公夫、内田恭子、河江裕子、関根一彦、草野哲也、山岡万里子=訳/徳間書店/1995年6月(『The Fifth Discipline: The Art & Practice of the Learning Organization』の邦訳)

▼『サプライチェーン・マネジメントとロジスティクス管理入門』 藤川裕晃=著/日刊工業新聞社/2008年9月


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