QR(きゅーあーる)情報システム用語事典

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» 2009年04月20日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 米国のアパレル産業に始まる業界横断型の改革運動で、製造業者と流通業者でパートナーシップを確立してサプライチェーン全体の情報共有を進め、生産から店頭までのリードタイムを短縮し、市場の変動に素早く対応する体制を確立する取り組みのこと。SCMの原点の1つとされる。

 クイックレスポンスの主たる活動は、業界内における製販同盟体制の確立と共通情報基盤の構築である。業界全体で情報を共有し、相互に協力し合うことで、リードタイム短縮や在庫削減を図るとともに、究極的には売れ筋商品の欠品を防止し、売れない商品の生産・在庫・流通を抑制することを目指す。これは価格維持や売り惜しみなどを誘発するカルテルとしてではなく、業界内の無駄やロスの低減を通じて商品の値下げやサービス向上などの形で消費者に還元されるものとして実施されねばならない。

 アパレル産業は、素材である繊維・紡績から織布・染色・縫製といった製造工程を経て、流通・小売りへと流れる長大なサプライチェーンから成り、それを構成する各工程には中小の独立事業者が多いという特性がある。市場は流行や季節要因に左右されやすく、変化の激しい業界にもかかわらず、長い流通過程のために機動的な商品提供が困難で、売れ残りや売り切れのロスが発生しやすいという構造的問題を抱えていた。

 クイックレスポンスは、この問題を打破するために1980年代の米国繊産業で始まった運動である。1980年代初頭、不況下の米国ではアパレル販売・大手小売の事業者は、中南米や東南アジアなどで衣料品などを生産し、それを輸入販売する低価格戦略を推進しており、川上に当たる国内(米国)の繊維産業は危機感を強めていた。繊維・化学品大手のミリケン&カンパニーの会長兼CEOだったロジャー・ミリケン(Roger Milliken)は米連邦議会に働き掛け、1984年に予算を得てコンサルティングファームのKSA(カート・サーモン・アソシエイツ)に米国アパレル産業が復活するための研究を委託した。

 米国繊維産業を分析したKSAは、その結果を報告する報告書での同業界の問題点を次のように指摘した。1つは繊維原材料(糸)が最終製品(衣料品)になって店頭に並ぶまで平均66週間を要しているが、付加価値活動(実際に紡織・織布、染色、縫製などを行う活動)はわずか11週間で、残りの55週間は倉庫在庫と輸送に費やされていた。つまり、上流であればあるほど完全な見込み生産を余儀なくされていたのである。

 もう1つの問題が業界全体で膨大な売れ残りや見切り、あるいは欠品(販売機会の喪失)による損失が見られる点で、報告書では年間250億ドル、売り上げ全体の26%が無駄になっていると試算していた。あまりに長いリードタイムのために、売れるかどうか分からない製品が見込み生産され、売れ残れば値引き、売れる商品は生産が追いつかないという非効率による損失は結果としては価格に転嫁される。そのため、「国産品(米国製)は高い」と消費者離れを生むという悪循環が発生していたのである。

 報告書は、この問題に対して業界全体で「QRプログラム」を展開することで、250億ドルのロスの半分は削減でき、競争力を回復できるとしていた。すなわち、輸入品は安い人件費を通じて低コスト化しているが見込みによる大ロット生産にせざるを得ず、市場ニーズに機敏に対応することが困難だが、米国の国内事業者は相互協力して、生産と受発注を多品種・小ロット化することで「消費者ニーズに合った適切なアイテムの提供」「適量生産で売れ残りロスを削減し、その分商品価格を引き下げる」ことができ、消費者に高い付加価値をもたらすべきという提案だった。これがQRの始まりである。

 このQRプログラムを実現するため、米国では企業や団体が1986年にEDIの標準化を目指して、VICSという自主的な標準化団体を設立、共通の商品バーコード「UPCコード」の普及と、EDI標準の制定に取り組んだ。同年、織編物と衣料縫製製品間のEDI標準化を普及するTALCも設立された。翌1987年には繊維原料と織編物にってFASLINC、衣料品と副資材によってSAFLINCという、2つの組織も生まれている。

 技術的にいえば、QRは異業種(メーカーと小売業)の企業同士をネットワークでつないで商品コードの標準化によるリアルタイムのデータ連携を実現し、ここにSKU概念を導入して、サプライチェーン全体で消費者視点のきめ細かい商品管理を実現しようというものである。これらはその後、さらに発展して、VMI(ベンダ主導在庫管理)やCRP(在庫自動補充)、SCM(納品ラベル)、ASN(事前出荷通知)などが生み出される。

 QRは繊維・アパレル産業を中心に始まったが、これはやがてカーテンやカーペットなどから住居関連業界にも広がり、1990年代に入ると食品雑貨業界がECR、外食・宅配業界がEFR、医療業界がEHCRといった類似の取り組みを始めた。

 日本では1993年12月に繊維工業審議会/産業構造審議会が通商産業大臣(当時)への答申として提出した新繊維ビジョン「今後の繊維産業及びその施策の在り方」で米国のQR事例を取り上げ、1994年の改正繊維産業構造改善臨時措置法に基づく国の助成を受けて「QR基盤整備事業」が始まった。通商産業省(当時)は1967年から繊維業界の構造改善を担当してきた繊維工業構造改善事業協会を小売業も対象とする繊維産業構造改善事業協会(現中小企業総合事業団)とし、民間側は繊維産業流通構造改革推進協議会(QR推進協議会。通称は2002年に繊維ファッションSCM推進協議会に変更)を設立、QRグループの形成、JANコードを登録するQRコードセンターの設置、EDI標準メッセージの策定、JANソースマーキングの普及、繊維産業向け業務システムを開発するTIIP(繊維産業革新基盤整備事業)などが推進された。

参考文献

▼『コンシューマー・レスポンス革命』 岩島嗣吉、山本庸幸=著/ダイヤモンド社/1996年3月

▼『実践 コンシューマー・レスポンス戦略』 岩島嗣吉、山本庸幸=著/ダイヤモンド社/1997年9月

▼『QRガイドブック――繊維産業の生き残り戦略』 繊維産業構造改善事業協会/1996年10月

▼『実践QRガイドブック――先進企業のパートナーシップ実例集』 繊維産業構造改善事業協会/1998年1月

▼『世界的流通革命が企業を変える――QR、ECR、カテゴリー・マネジメントの衝撃』 西村哲=著/ダイヤモンド社/1996年10月

▼『日本型ECR・QRの具体策と成功事例――流通業・製造業の21世紀生き残り経営システム』 小林勇治=著/経営情報出版社/1998年3月

▼『Made in America――アメリカ再生のための米日欧産業比較』 マイケル・L・ダートウゾス、リチャード・K・レスター、ロバート・M・ソロー、MIT産業生産性調査委員会=著/依田直也=訳/草思社/1990年3月(『Made in America: Regaining the Productive Edge』の邦訳)


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