SAPの新BI製品は“CEOでも使える簡単さ”今年の目標は「ClearlyとClarity」

» 2009年05月13日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 独SAPは5月12日(米国時間)、年次のプライベートイベント「SAP SAPPHIRE 2009」を米国オーランドで開幕。同社の共同CEOであるレオ・アポテカ(Leo Apotheker)氏が基調講演を行った。講演では、今後同社のBI製品の中核を担う新製品「SAP BusinessObjects Explorer Software」(以下、BO Explorer)が発表された。

世界同時不況を乗り切るためには“Clear”な経営が必要

 SAPPHIREは、新しい形態を目指して今年から仕様を変更。前年の1万5000人参加から、今年は1万人参加とオンライン参加の1万人の計2万人とした。アポテカ氏は冒頭、現在の経済情勢を分析。「現在、多くの企業に転機がきている。実際、4月にロンドンで行われたG20金融サミットでは、世界の金融のITシステムを強化しようというメッセージが出されている。そのような状況下で、この不景気を生き残り、次世代のビジネスプラットフォームを構築するためには“Clarity(透明性)”が必要だ」(同氏)と強調した。

アポテカ氏写真 基調講演を行うSAP 共同CEOのレオ・アポテカ氏

 そしてSAPが目指すキーワードは、「Clear Enterprise」だ。Clear Enterpriseとは、目的や戦略を明確化することで、カスタマーニーズにいち早く応えていく企業姿勢。ステークホルダーに対して“Clear”な答えを出していくことを目指すという。

 この「Clear Enterprise」を支えるのが、同社が2009年2月に発表したスイート製品「SAP Business Suite 7」だ。Business Suiteは、複数の業務アプリケーションで構成される製品で、ユーザーはこれらの複数アプリケーションの中から利用したい機能だけを利用したり、すべて導入して連携させることが可能。SAP以外のアプリケーションとも連携できる。SOAとの親和性も強化されている。

 アポテカ氏は、「Business Suiteは、SAPの基礎を提供する製品だ。すでに2800社で稼働しているほか、28業界向けにベストプラクティスを提供している。また、SOAは組織の壁を破り、社内に“Clarity”を提供できるはずだ。当社は、2015年までBusiness Suiteを提供することをコミットし、今後も拡張していく」とコメントし、方針を示した。

BI新製品のキーワードは“CEOでも使える”と“とにかく速い”

 続いてアポテカ氏は、基調講演の目玉であるBI(Business Intelligence)の新製品「SAP BusinessObjects Explorer Software」(BO Explorer)を発表。BO Explorerは、2008年2月に発表したBusinessObjects XI向け検索モジュールである「BusinessObjects PoleStar」と、SAPのBIアプライアンス製品である「SAP Netweaver Business Warehouse Accelerator」(BWA)を統合した新製品。日本語版も今後出る予定だ。

 アポテカ氏によると、BO ExplorerはSAPがビジネスオブジェクツを2007年に買収して以降、両社のBI製品ポートフォリオが初めて完全に統合された製品だという。具体的には、PoleStarの簡単で便利な検索機能と、BWAのメモリ上にデータを展開することで検索を迅速に行える「インメモリ機能」による検索の早さが統合された。

BO Explorer画面イメージ BO Explorerの画面イメージ。GUIはPoleStarに似ており使いやすさを追求している。この画面ではSAP ERPのGUI内にBO Explorerを表示しているところ

 PoleStarの検索機能によって、非常に検索や分析が簡単になるという。例えば、検索窓にキーワードを入れて検索するだけで、通常の検索結果が表示されるだけでなく最適なチャート図が自動生成される。基調講演で行われたデモでは“CEOでも使える簡単さ”を標語に、実際にアポテカ氏がBO Explorerを操作。メールの文面をコピー&ペーストして検索するだけで、目的の分析結果をグラフで表示することができた。

 また、BWAが搭載していたインメモリ機能を取り入れることで、非常に高速な検索を可能にしている。デモでは、3億6000万レコードの検索を0.03秒で実現していた。また、両製品が統合されたことで、SAP ERPなどのGUI上にBO Explorerの検索結果や画面呼び出すことも容易に可能になったという。

 アポテカ氏は、「現在のビジネス状況では、企業経営者は毎日相当な数の意思決定を行っているはずだ。その意思決定のために必要な情報をきちんと入手することは非常に重要になってきている。例えば、多くの金融機関はリスク分析を行っていたものの、それを実際の実行に移すことができなかったために失敗している。逆に、このような状況下においても安定している米ゴールドマンサックスは、マクロリスクを分析したものをきちんとエンドの活動に生かしたことで成功した。このようなリスク管理にBIは必須だ。しかし、難しい操作ではBIが最も必要なCEOが使いこなせない。デモでも示したように、CEOでも使えるくらい簡単になった」と説明した。

サポートサービス指標にKPIを導入し、満足度向上を目指す

 続いてアポテカ氏が言及したのは、同社のサポート体制について。同社は2008年7月に新しいサポートサービス「SAP Enterprise Support」を発表。従来の「SAP Standard Support」「SAP Premium Support」の両サービスを一本化する方針を示した。これにより、Standard Supportのユーザーは、サポート料金がライセンス価格の17%から最終的には22%に値上げされるため、Standard Supportのユーザーから不満の声が出ていた。

 この問題に対してSAPは、同社の主要ユーザーグループである「SUGEN(SAP User Group Executive Network)」とサポートサービスの「KPI(重要業績評価指標)」を策定したほか、これまで「2012年にまでに段階的に保守料率を22%に上げる」としていた期間を2015年にまで3年間延長したと発表した。

 アポテカ氏はこの点について、「サポートサービスのKPIフレームワークを発表したソフトウェア製造業者は初めてだろう。KPIを定めて定期的にベンチマークすることで、サポートサービスの品質が保たれるほか、顧客満足度向上に貢献するはずだ。これにより、持続的で満足度の高いサービスを提供できるようになる」とコメントし、ユーザーに値上げに対する理解を求めた。

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