内部統制が有効でないのはこんな理由だったSOX法コンサルタントの憂い(15)(1/2 ページ)

2009年6月末に3月期決算企業の内部統制報告書の提出期限となり、上場企業の約7割に当たる2672社が報告書を提出した。そのうち、内部統制が有効でなかったのは56社だった。今回はこれらの報告書がなぜ有効でなかったのかを解説する。

» 2009年08月11日 12時00分 公開
[鈴木 英夫,@IT]

 各紙で報道されているとおり、金融庁はこの3月期までに決算を迎えた2672社の内部統制報告書の「評価結果」を公表しました。

 その結果、全体の2.1%に当たる56社が「内部統制は有効ではない」と報告しており、0.3%に当たる9社が「評価結果を表明できない」としています(なお、その後7月になってから同報告書を提出した2社のうち1社が「有効ではない」と報告しており、7月末現在では57社が有効ではないに該当しています)。

 「米国でSOX法が施行されて初年度に当たる2004年の決算にかかわる内部統制の非有効率が16%であった」ことと比較すれば、また、米国では中小規模の会社を適用除外としていたことを考慮すると、わが国の内部統制の評価結果は極めて良好といえましょう。

 今回は有効でないと評価された会社の、内部統制のどこが有効でなかったのか、具体例を見てみましょう。

全社的な内部統制の欠陥例

 内部統制報告書はEDINETで公開されていますので、インターネット上で見ることができます。そこで、金融庁が公表した例を見てみると、

  1. 当社は、財務報告に関するリスクの評価と対応を実施していない
  2. 前代表取締役が社内規定による職務分掌や承認手続を無視し、独断で約束手形の振り出しを行った
  3. 前取締役が、定められた取締役会の承認を得ずに債務保証を行った
  4. 内部統制の基本的要素である「統制環境」「情報と伝達」「モニタリング」に不備がある

 などが挙げられます。1は内部統制がないに等しく、典型的な欠陥の例ですね。2と3はせっかく社内に規定があるのに、1つでもそれを無視した行為が役員により行われたことで台無しになってしまっています。

 4については、「統制環境」「情報と伝達」「モニタリング」にそれぞれどのような不備があるのかによりますが、あわせて考えることで「重要な欠陥」に相当するということでしょう。

決算・財務報告プロセスに関する欠陥

 ここでは、かなり具体的に決算・財務報告プロセスの統制上の欠陥が記述されています。

海外子会社の統制不備

  1. 子会社の繰延税金資産の回収可能性の判断の適用を誤り、さらにそれに対する牽制が十分機能しなかった
  2. 在外統括会社の「傘下会社に対するモニタリング」が適切に実施されなかったため、海外子会社による不適切な会計処理が行われた

 現在、数多くの企業が海外展開をしており、海外子会社の内部統制については盲点となっている例が数多くありました。この点は、今後も要注意なところですね。

決算作業の不足

  • 当期の決算作業についての決算手順書などが整備、運用されていない。連結決算のために必要となる情報の収集に不足がみられる。開示資料の作成に際し、責任者による査閲などが実施されていない

 この表現はあえて会社でそうしたのでしょうが、具体的な内部統制上の不備の内容が書いていないので、株主などの「内部統制報告書を読む人」には何のことか分からない不親切なものとなっています。

内部統制手続の不備

  • 連結決算および開示に係るマニュアル・チェックリストが適切に作成されておらず、グループ会社への情報伝達、役割分担、数値検証など一連の処理手続にて、適正な査閲、分析および監視する内部統制手続が不十分

 この表現も同様分かりづらいですね。

会計基準適用が不十分

  • 決算処理手続における処理内容および会計基準の適用の検討とその承認手続の運用が不十分であったため、たな卸資産への諸掛り経費の配賦計算、連結決算における未実現利益消去に伴う繰延税金資産の計上などについて誤りがあった

 一般的に企業としては、「不備の内容をあまり赤裸々に書きたくない」と考えるのだと思いますが、これだと社内での改善には役に立ちません。恐らく、「社内の不備改善のための報告書」が別に存在している、という会社が多いと思われます。しかし、2重の報告書作成は、それこそ効率的ではありません。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ