“ITサビー”になるためには、改善ではなく“改革”が必要NRI、CIO向け特別セミナーを実施

» 2009年11月27日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 野村総合研究所が11月26日に開催したCIO向けセミナーで、同所 研究理事の淀川高喜氏が「日本企業がITサビー(活用上手)になるには」と題して講演を行った。淀川氏は同日に講演したMITスローンスクール CISR(情報システム研究センター)チェアマンのピーター・ウェイル(Peter Weill)氏の考えに基づいて“ITサビー”になるための条件を整理し、「それぞれを段階的に高度化して、経営環境の変化に機敏に対応できるアジャイルな業務体制、システム体制を目指すべきだ」と訴えた。

“活用上手”になるまで、まだまだ道は遠い?

 “ITサビー”とはMITスローンスクール CISR(情報システム研究センター)チェアマンのピーター・ウェイル氏が提唱している概念。淀川氏はそれに基づき、日本企業が“ITサビー”になるための条件として、『ITガバナンス』『業務改善のメソッド(方法論)』『情報のプラットフォーム』『人材のケイパビリティ』の4点を紹介した。

 このうち『ITガバナンス』については、自社のITをどう扱うか、全社的なガバナンス、ルールを整備する「戦略整合性の確保」や、戦略の優先順位を決める「ポートフォリオ管理」、案件の計画・実行管理を行う「プログラム管理」などがポイントとなる。

 しかし、野村総研の調査「2008年 ユーザー企業のIT活用実態調査」(2008年11月17日〜12月1日、515社に実施)によると、「戦略整合性の確保」について「ほぼ全案件で実施できている」と回答した企業は19.8%、「ポートフォリオ管理」は同じく14.4%にとどまり、約半数の企業が「一部の案件のみで実施している」と回答した。

写真 ITガバナンスの実施状況。ほとんどの企業が部分的にしか取り組んでいない

 業務改革のコンセプトを決め、それを業務プロセスやシステム開発に落とし込んでいくための『メソッド(方法論)』の整備については、半数以上が「整備されていない」と回答している。

写真 メソッドの整備状況。整備されていない企業が大半を占めた

 一方、『情報のプラットフォーム』は、業務システムが個別に存在する「個別最適化」、IT基盤を標準化する「IT基盤標準型」、システム間でデータ連携、プロセス統合を行う「プロセス・データ統合化」、システムを機能単位でモジュール化して柔軟に組み合わせて使う「モジュール型」といったプロセスを経て高度化するが、これについても「IT基盤標準型」と「プロセス・データ統合型」の段階にある企業が約半数を占めた。

 『IT人材のケイパピリティ』も、「価値観の共有」は全体の37.8%、成長機会の設定は37.3%、新たなシステムを研究・創造する環境を与える「創造性の実感」に至っては20.6%にとどまっていた。

“サービス指向アーキテクチャ”への変革を目指すべき

 淀川氏は「日本企業にはまだまだ改善の余地がある。企業はこれら4点を高度化すべく注力することが重要だ。そうして“ITサビー”になることが、営利企業の最終目的である顧客評価や財務的効果に直接的に寄与することが、データで実証されている」という。

 例えば、ITガバナンスの改革と「顧客評価」の関係では、「全案件で(改革を)実施」したと回答した企業と、「実施していない」と答えた企業の間では、顧客評価に大きな差が表れた。財務的効果においても「全案件で(改革を)実施」していると回答した企業ほど、「効果がある」と答えている。

写真 ITガバナンスの改革と「顧客評価」の関係。「財務的効果」との関係でも同様の結果が出た

 メソッドについても、「整備し利用している」と回答した企業と「整備していない」企業の間では、顧客評価に大差がついている。

 特徴的なのは、ガバナンスの場合、「全案件で実施」した企業と、「一部案件で実施」「実施していない」企業の間には大きな開きがあるが、「一部案件で実施」している企業と「実施していない」企業の間には大差がないということだ。メソッドも、顧客評価、財務的効果ともに「システム開発の改善」「継続的業務改善」といったレベルでは「整備し利用している」企業と「整備していない企業」に大差はないが、「抜本的業務改革」「ビジネスモデル改革」といった、より踏み込んだ施策になるほど、整備している企業と、していない企業の間に大きな差が生じている。

写真 メソッドの改革と「財務的効果」の関係。より深く踏み込んだ施策になるほど、メソッドを整備している企業とそうでない企業の間で、効果の差が拡大している

 淀川氏はそうした傾向を指摘し、「日本企業の場合、(ITサビーになるための)4つのポイントにおいて“改善”には熱心に取り組んでいるが、“抜本的改革”に取り組んでいるケースは少ない。より長期的な視点を持ち、現状よりもさらに踏み込んで取り組めば、大きな成果が望めるはずだ」と、効果を求めるばかりに、短期的な視点に陥りがちな傾向にあることに警鐘を鳴らした。

 プラットフォームについても「個別最適化」「IT基盤標準化」レベルと、「プロセス・データ統合」「モジュール化」のレベルの間で大きな差が表れており、ある程度踏み込んで初めて大きな成果が表れる傾向にある。人材のケイパビリティについては、「価値観の共有」から「創造性の実感」まで、取り組みの程度に応じた顧客評価、財務的効果に、以上3つのポイントほどの差は表れなかったが、高いレベルにあるほど確実に効果が出ていることは同様だ。

 淀川氏は「昨今の経営環境を考えれば、もはや“継続的改善”レベルでは足りないことは明らかだ。今後、企業は部門の壁を超えて知見を共有し、ビジネスの変化に応じて柔軟にプロセスを組み立て、それを柔軟にシステムに落とし込める、またSaaS、PaaS、HaaSなど外部資産も生かして柔軟にリソースを活用できる体制――すなわち“サービス指向アーキテクチャ”への変革を目指すべきだ」と力説。ITガバナンス、プラットフォーム、人材のケイパビリティ、メソッドという4つのポイントの高度化に対して「“踏み込んで”取り組み、ビジネスのアジリティを獲得するべきだ」とまとめた。

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