category management / カテマネ
小売業における経営手法の1つ。消費者起点の商品分野である“カテゴリ”を設定し、商品納入サイド(メーカーや卸など)と協働でカテゴリにおける商品構成や売り場づくり、販売促進、調達と補充、売価設定・利益管理の計画・実施・見直しを継続して行うマネジメントプロセスである。ECRの中核的な要素と位置付けられる。
総合スーパー(GMS)と呼ばれる業態の小売店では、1つ店舗が扱う商品アイテム数は30万(SKU)を超える。このような数多くのSKUを詳細に管理することは大切ではあるが全体最適の視点を欠くと、買い物客にとっては「よく分からないものがたくさん置いてある店」になってしまう。これを解消するには消費者視点で商品を整理し、品ぞろえ自体が強い来店動機となり得るような、魅力的な売り場を作ることが考えられる。
米国では(一部を除いて)小売業の在庫補充については供給サイドの力が強いため、このような売り場を実現するにはサプライヤーの強力が不可欠となる。そこで小売りにおける販売計画にメーカーなどが参加して、新製品の投入や商品補充から生産管理までを連動させる製販協働型の販売コンセプトが生まれた。これがカテゴリマネジメントである。
カテゴリマネジメントの考え方は米国の伝統的スーパーマーケット業界で1980年代半ばに形成されたが、広く知られるようになるのは1990年代に入ってからである。ウォルマートやカテゴリキラーといった新業態の小売事業者の台頭に脅威を感じた既存のスーパーマーケットはこれに対抗するため、1993年にECR委員会を設立した。QRに範をとったECRは当初、供給サイド改革であるSCM導入によるコスト削減を図ったが、やがて需要サイドの改善がより効果的であることが認識され、その手法としてカテゴリマネジメントを取り込むことになった。さらにその後に登場したCPFRでも標準プロセスの一部になっている。
1994年に米国ECR委員会が実施したカテゴリマネジメントのパイロットプログラムでは「ソフトドリンク」で粗利が144%増、「洗濯洗剤」で27%増という成果を挙げた。欧州や南米でも同様の成果が報告されると、小売業界は一転してカテゴリマネジメントの導入に走り、欧米や南米、アジアなどで広く普及することになった。
ECR委員会が発行したリポート(1995年)ではカテゴリマネジメントを「消費者に価値を提供することに焦点を当てつつ、経営効率を高めるためにカテゴリを1つの
戦略事業単位(SBU)としてとらえ、小売業と製造業が協同してマネジメントを行うプロセス」と定義している。そして米国・欧州のECR委員会ではカテゴリマネジメントを「戦略」「ビジネスプロセス」「業績指標」「情報技術(IT)」「組織能力」「協調的取引関係」の6つの要素からなるとするモデルで全体像を説明する。
この定義にあるようにカテゴリマネジメントはプロセスであり、6要素の中で「ビジネスプロセス」がその中枢となる。このプロセスは複数企業の参加が前提となっているため、欧米では流通業界の標準プロセスが規定されている。米国ECR委員会では「カテゴリの定義」「カテゴリの役割」「カテゴリアセスメント」「カテゴリスコアカード」「カテゴリ戦略」「カテゴリ戦術」「プラン実行」「カテゴリレビュー」の8ステップが定められている。また、欧州では4フェイズの簡易版が用意されている。ただし、すべてのステップを実施する例は多くなく、自社の条件に合わせて限定的に行うのが一般的であるようだ。
カテゴリマネジメントにおける“カテゴリ”とは消費者の視点に基づく商品分類であり、個別の商品品目で構造化したものである。例えば「コーヒー豆」を食品、「コーヒーメーカー」を家電製品、「コーヒーフィルター」をキッチン用品と機能別あるいはメーカー別に分けて扱うのではなく、「コーヒー関連製品」「日常生活用品」というような形で1つのカテゴリとして扱うようなものである。
カテゴリの構造は消費者の購買動機や商品選択基準によって異なる。ターゲットとなる消費者は店舗や業態によって異なるのでカテゴリの構造とその範囲は店舗ないし売り場ごとに個別に定義される。また、カテゴリはSBUなので責任者(カテゴリマネージャ)が置かれる。
大規模店舗ではカテゴリは数十から百数十に及ぶ。各カテゴリは役割は同じではない。新規客の来店を促すカテゴリ、リピート客を醸成するカテゴリ、衝動買いが期待されるカテゴリ、利益に貢献するカテゴリなどが考えられる。米国ECR委員会の標準モデルでは「デスティネーション」「プリファード」「ルーチン」「オケーショナル」「シーズナル」「コンビニエンス」などが定義されている。
カテゴリマネジメントの起源はいくつかの流れを挙げることができる。DPC/DPPによる利益管理、スペースマネジメント(棚割り管理)、POSシステムやEDIの進化、米国ミズーリ州のシュヌックス・マーケットが採用した“バイヤー/マーチャンダイザー”制度などである。これらの諸手法・原理をウイラード・ビショップ(Willard Bishop)、ブライアン・ハリス(Brian Harris)、ウォルター・サーモン(Walter Salmon)らが体系化し、「カテゴリマネジメント」のコンセプトが誕生することになった。
日本では一部に取り組みがあるものの、カテゴリマネジメントが広く普及しているとはいえない。その原因として単品管理への傾倒が挙げられることがある。一般にトップダウン型のカテゴリマネジメントは、ボトムアップ型の単品管理と対立するものとみられがちだが、元イトーヨーカ堂常務取締役の邊見敏江は「補完関係にある」と述べている。
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