アメーバ経営(あめーばけいえい)情報システム用語事典

Amoeba management

» 2010年01月20日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 小集団部門別採算制度に基礎を置いた全員参加型の分権的経営システムのこと。企業組織を自律的小集団である“アメーバ”に細分化し、それらが相互に協調・競争することでリーダー育成と継続的な創意工夫を促すとともに、経営環境の変化に即応できる体制を作ることを目指す。京セラで考案され、実施されているミニプロフィットセンター・システムの1つ。

 アメーバ経営はリーダー育成を中核的な目的として、経営実践の場としての「アメーバ組織」、簡易管理会計システムである「時間当たり採算」、判断基準となる「京セラフィロソフィ」を有機的に結合させた経営技法である。京セラの関連会社を通じて外販されており、300社を超える企業が導入している。

 アメーバ経営の最大の特徴は、企業組織を“アメーバ”と呼ばれる独立採算の小集団に分けることにある。アメーバは数名から50名程度――平均すると10名ぐらいのチームとして構成される。京セラの場合、組織構造として事業本部−事業部−部−課−係−班の階層を持つが、そのどれもがアメーバになり得る。

 アメーバはQCサークル や社内勉強会のような非公式なグループではなく、会社のフォーマルな組織である。また、タスクフォースやプロジェクトチームのような時限チームでもない。ただし、必要に応じて随時、分裂・新設・廃止が行われる。それが細胞分裂を繰り返し、増殖する原生生物のアメーバに似ていることからこの名が付いた。

 アメーバは疑似小企業といえる。製造部門のアメーバ(製造アメーバ)は前工程のアメーバから原材料を仕入れ、それを加工して商品として次工程のアメーバに販売する。この加工による付加価値分がアメーバの収入となる。営業部門(営業アメーバ)は自社の製造部門から製品を仕入れ、営業口銭を加えた金額で外部の顧客に販売する。

 これら社内取り引きの際の売買価格は、各アメーバに決定権がある。ただし、相手があることなので、具体的には当該アメーバ同士の交渉によって決まる。部材や製品の調達・販売は一定の条件を満たせば社外と行うことも許されており、各アメーバは市場価格を考慮した公正な価格提示が求められることになる。

 京セラの価格設定は創業時のビジネスが部品のオーダーメイドだった歴史を反映して、コストを積み上げて算定するのではなく、社外からの受注額を生産金額として計上して、ここから逆算して生産コストを導き出し、それを実現する生産方法を考えるやり方が基本となっている。アメーバはそうしたコストダウンの創意工夫を行う単位でもある。

 アメーバは相互に「時間当り採算」という指標で比較される。これは製造部門であれば「(総生産−経費)/総時間」、営業部門ならば「(総収益−経費)/総時間」で算出される。経費にはほかのアメーバなどからの仕入れ分が含まれるため、分母部分はそのアメーバの付加価値に相当する。総時間はアメーバの定員の総労働時間に共通部門人員の応分を加えた時間である。

 従って各アメーバは、総生産・総収入を最大化するとともに、経費と総時間を最小化するように努力しなければらない。オーダー受注型の案件では受注金額は先に決まっているので、経費を減らすか手早くやるという判断になろう。なお、経費には人件費が入らないため、時間当たり水準にメンバーの給与水準の差は反映されない。これは労働はコストではないという思想に基づくという。

 各アメーバの時間当たり採算は、京セラ全社の時間当たり賃率とも比較される。時間当たり採算が平均賃率を下回っている場合、そのアメーバは自分の食い扶持(ぶち)を稼げていないということになる。

 一般に企業内に独立度の高い組織を置くと、全社目的と異なった利己的な振る舞いによって一体性が失われる懸念があるが、アメーバ経営におけるアメーバは経営資源が限られた小集団で相互依存性が高いこともあって、アメーバ同士の自律的な調整が全社協調的に働く。また、京セラには社員がものごと考えていく際の判断基準として「京セラフィロソフィ」があり、これがより上位の価値観として機能している。

 アメーバ経営の主たる目的は経営者感覚を持った人材の育成にある。アメーバ経営では企業組織を小集団に分けることで、多数のリーダー・ポジションを作り出す。アメーバのリーダーが中心となって採算計画を立て、メンバーの知恵と努力を引き出し、ほかのアメーバの協力を得ながら目標達成にまい進する。こうした経験を通じて“共同経営者”を育成するのである。

 なお、「アメーバ経営」「京セラアメーバ経営」は、京セラ株式会社の登録商標である。

参考文献

▼『アメーバ経営――ひとりひとりの社員が主役』 稲盛和夫=著/日本経済新聞社/2006年9月

▼『アメーバ経営論――ミニ・プロフィットセンターのメカニズムと導入』 三矢裕=著/東洋経済新報社/2003年4月

▼『稲盛和夫の実学――経営と会計』 稲盛和夫=著/日本経済新聞社/1998年10月

▼『成功への情熱――PASSION』 稲盛和夫=著/PHP研究所/1996年2月

▼『アメーバ経営革命――「変化即応型」組織のノウハウ』 岩淵明男=著/PHP研究所/1987年6月

▼『京セラ・アメーバ方式――急成長を支える新生産システム』 国友隆一=著/ぱる出版/1985年7月


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