物流プロセスの標準化・共通化がグリーンSCMのキモグリーンSCM入門(3)(1/2 ページ)

環境負荷低減効果の高い物流プロセスをいかに効率化するかが、グリーンSCMの効果を大きく左右する。その施策例はさまざまだが、大切なのは各施策のポイントをつかみ、自社の状況に応じて適宜組み合わせることだ。

» 2010年05月20日 12時00分 公開
[石川 和幸,@IT]

 前回『グリーンSCMは主体性とパートナーシップで実現する』では、グリーンSCMの実現のためには、自社のサプライチェーンをどうグリーン化するのか――戦略の立案からそれを支えるITシステムの活用まで、“自社の状況に応じた施策を考える”ことが重要だと解説しました。今回は、そうした施策の候補の中でも、優れたCO2削減効果が表れやすい物流プロセスについて紹介します。

 特に、CO2削減や環境負荷低減の動きが本格化している近年、物流プロセスの取り組みは非常に多様化しています。1つの特徴は、もともとは「効率化やコストダウンの手法」として立案されたものが、“結果的に”CO2削減にも貢献してきた、といった施策が多いことでしょう。現在は、そうした施策を環境という視点から見直し、「その実施方法を再整理している状況」といえるのではないでしょうか。今回は、そんな中でも代表的な施策を紹介したいと思います。

コスト削減、環境負荷低減に効く輸送の効率化

 では、さっそく本論に入りましょう。以下の4つの施策は、SCMの主体企業や物流会社の規模を問わず、多くの会社で実践されています。

帰り便の活用

 数々の施策の中でも最も歴史が古く、代表的なのが「帰り便の活用」です。特にトラックによる輸送では「往路は満載、帰路は空車」という状態が古くから問題視されてきました。帰りが空荷では、1運行のうち半分が非稼動となって人件費、燃料費ともに無駄が多いからです。そのため、「帰り便の荷台をどう埋めるか」というテーマが常に課題とされてきました。むろん、トラックだけではなく、船や飛行機による輸送にも同じことが言えます。

 そこで多くの物流会社から求められたのが、帰り便も荷物を満載にするために、荷主(荷物の所有者)の輸送ニーズに関する情報と、トラックや船、飛行機などの“腹”(荷物を積める空き容量)の情報をマッチングさせるための仕組み作りです。

 これを受けて、荷主から荷物の種類や形状、輸送先、納期などの情報を受け取る一方で、物流会社からは「いつ、どこに向かう便が、どんな荷物を、どれほど積めるのか」といった“腹”の情報を受け取り、両者をマッチングさせる「求貨・求車(船/便)システム」が考案されました。これにより、帰り便が有効に活用されれば、何も運ばずにCO2だけ吐き出すというエネルギー消費やコストの無駄がなくなり、環境にも優しいというわけです。

 現在、このシステムを使って、荷主と物流会社をマッチングさせるサービスを提供する第三者組織が複数存在しています。大手物流会社や、物流子会社を持つ大手メーカーなどの場合は、(自社/グループ内のことであるため「求貨・求車(船/便)システム」とは呼んでいませんが)自社あるいは物流子会社で同様のシステムを持ち、荷主/親会社の輸送ニーズと自社の“腹”の情報をマッチングさせて効率的な輸送を実践している例が多いようです。

 なお、自社では輸送手段を持たず、荷主から請け負った荷物を、他社の輸送手段を使って運ぶ「フォワーダー」と呼ばれる仲介業者も存在します。彼らの場合は、主に飛行機や船を使った長距離輸送を請け負っていることが特徴ですが、荷主と物流会社をマッチングするという基本要件はまったく同じです。各荷主のニーズを満たしながら、物流会社に支払うコストをいかに抑えるか――すなわち、運ぶ必要がある荷物と輸送手段をいかに無駄なくマッチングするかが収益向上と環境負荷低減のポイントになるのです。

共同輸配送

 一方、往路・復路に関係なく、「複数の荷主の荷物を積み合わせて積載効率を上げ、1便当たりの輸送コストを下げる取り組み」が共同輸配送です。「帰り便の活用」では、荷主と物流会社は1対1でしたが、こちらはn対1の関係になります。

 例えば化粧品業界では、資生堂、コーセー、カネボウ化粧品の3社が、2008年10月1日から九州地区での共同輸配送をスタートしました。この ケースの場合、3社が1つの物流会社に共同で業務委託しています。具体的には、その物流会社の営業拠点まで各社が自社のトラックで商品を運び、そこで物流会社のトラックに各社の商品を積み合わせて小売店に配送する、という仕組みです。従来、個別に行っていたトラック輸送を共同化し、便を削減したことで、3社全体で従来比、年間約30%のCO2削減(九州地区)が見込まれているということです。

ミルクラン

 このほかにも、共同輸配送にはいくつかの形態があります。その1つが「ミルクラン」です。主に集荷の段階で使われる方法で、上記の資生堂などの例のように各荷主が物流会社の拠点に荷物を持ち込むのではなく、 物流会社のトラックが複数の荷主を回って集荷する方法です。牧場を回って牛乳を集める方法に似ていることから「ミルクラン」と呼ばれています。

 この方法も、1台当たりの積載効率を高め、無駄な輸送を減らすことにより、CO2削減やコストダウンを狙うことを目的としています。コンサルティングを通じて私が実際にかかわったモデルとしては、繊維問屋が立ち並ぶ繊維街において、物流会社のトラックが複数の問屋倉庫を回って集荷し、同じ百貨店に届けるという形態がありました。

 ただ、こうした共同輸配送は、実現のハードルが高いために、成功事例は決して多いとは言えません。例えばメーカーの場合、同じ量販店に運ぶなら、各社で輸送手段を共用した方が効率的とは分かっていても、競合同士ではお互いに敵視する傾向が強く、「価格や販売量、売り上げなどの情報が漏れないか」と疑心暗鬼に陥ることが少なくないのです。「商品力」「価格訴求力」「営業力」などと並んで、配達が速い、時間通りに届けるといった「物流のサービスレベル」が競合条件の1つになり得ることも、話がまとまりにくい一因といえます。

 逆に、お互いに共同化する意志はあっても、周囲の状況が適合しなければやはり実現できません。例えば、納入先は同じでも、パートナー企業の工場が遠いといったケースです。この場合、仮に共同輸配送を実施しても、集荷に時間とコストが掛かってしまうため、コスト削減、環境負荷低減に芳しい効果を期待することはできません。つまり、お互いの合意と、両社を取り巻く環境が一定の条件に適合していることが、共同輸配送を実現させる前提条件となるのです。

 また、先の繊維街におけるミルクランのケースでは、決められた計画通りに百貨店に納入できるよう、各倉庫の集荷タイミングをスケジュール化するとともに、出荷伝票のやり取りなど各倉庫からスムーズに荷を受け取るための仕組みを構築しました。

 つまり、複数の荷主間で輸配送業務を共通化する以上、納品にまつわる業務プロセスを標準化・共通化することも不可欠となるのです。当然、荷主と物流会社間で物流関連の情報をやり取りしたり、プロセスを管理したりするITシステムも必要となります。このように、複数の前提条件が求められることが、この施策が以前から注目されていながら、なかなか成功事例が増えていかない原因といえるでしょう。

 しかし、そうはいってもこの取り組みがなおざりにされているわけではありません。近年、効率化の積み重ねにより、業務上コストダウンできる余地が年々減りつつあることから、先の資生堂の例のように、多くの業界で共同輸配送を見直す動きが着実に高まりつつあるのです。

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