そのERPとBI、本当に使いこなせますか?中堅・中小企業のためのERP徹底活用術(5)(1/2 ページ)

IT予算にようやく回復の兆しが見えてきたが、せっかくの予算を有効活用するうえでも、ツール選びの基本をもう一度胸に刻み込んでおきたい。機能の豊富さに目を奪われがちなものだが、本当に必要なのか、使いこなせるのか、使いこなすためにはどうすればよいのか、もう一度自問したい。

» 2010年06月24日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]

「分析力」を武器とするために不可欠なこととは?

 厳しいビジネス環境を生き抜くために、近年、多くの企業が情報分析力の向上を狙っています。特にERPをデータ収集・蓄積基盤として使い、その分析ツールとしてBIを組み合わせて活用するパターンが増えているようです。

 ただ、注目すべきは、莫大なIT投資を行っている大手企業だからといって、必ずしも情報分析力が高いとは限らないことです。むしろ業務やオペレーションが属人化している中小企業の方が、実は高度な情報分析や状況判断ができているケースも多いのではないかと思います。

 では情報分析力が低い原因は何でしょうか? それは大手企業の場合、「組織が大きすぎて、高度な情報分析能力を培いにくいこと」、中小企業の場合は「属人化しすぎていて、分析のノウハウや経験を組織として共有しにくいこと」だと言われています。しかしそれだけではありません。分析能力が低い企業には、実はその規模を問わず、ある“共通した問題”があるのです。

 今回は、BIとERPによって情報分析力の強化に乗り出した中堅メーカーの事例を紹介します。これを通じて、ERPとBIを活用した情報分析力向上のポイントを解説するとともに、そのポイントから分かる「ITツール活用の鉄則」をご紹介したいと思います。では、早速事例に入りましょう。

事例:中堅食品メーカー、E社の決断 〜前編〜

 「皆も考えるとおり、わが社は業界の中では弱者だ。現状のような厳しいビジネス環境を生き残るためには、強い競争力を身に付ける必要がある。だが、新しい商品の開発や商流の開拓にはそれなりに時間もお金も必要であり、これは経営資源が豊富な競合大手には到底かなわない。よって、われわれのチャンスは、小回りの効く機動力と、きめ細かい状況判断で、どんなに小さな機会でも確実に拾っていくビジネスのやり方にある。つまり、競合に勝つためには、全社を挙げての情報分析力強化とデータ共有基盤が必要不可欠ということだ!」

 中堅食品メーカー、E社の社長は、ある日の役員会で意気揚々とこう語った。「同業他社に先駆けたERPとBIツール導入」についての意思表明である。

 「社内外のチャンスを見逃さないために、無駄を少しでも省くために、全社員で情報を共有し、データを的確に分析できる、力のある企業を目指したい。まだ業績は厳しいが、ここからIT投資戦略を大きく転換して、われわれは創業以来の大規模システム再構築を決断する」――これが、これまでITにはあまり感心のなかった社長が、生き残りを賭けて決断した「事業戦略とIT戦略の融合」による中期事業計画の骨子であった。実現すれば、E社にとって過去最大規模のIT投資となる計画である。

 食品業界は製造業に比べると内需型産業であるため、景気後退の影響を受けにくかったと言われている。しかし実際には、デフレによる購買意欲の減退や大手流通グループが投入するプライベートブランドとの「価格競争」、食品に対する安全意識の高まりによる「品質管理コストの増大」、そして「原材料コストや物流コストの値上げ」が収益性を直撃している。

 従って、「いかに商品のロスを最小限に抑えるか」「原価をどこまでコントロールできるか」が生き残りに不可欠な要素となるのだが、売り値は食品商社や卸売り会社に抑えられており、コントロールできる余地がないため、「販売ルート」や「売価と販売量の見極め」が収益向上の大きなポイントとなるのだった。

 これにはきめ細かな市場動向の把握と、経験を踏まえた状況判断が欠かせない。むろん、この「状況」には「天候」や「競合商品の動き」なども含まれる。これらを予測して、柔軟かつ迅速に対処できないと、不良在庫や欠品が発生する事態に陥ってしまうのだ。

 このE社も、過去に何度も痛い目に遭っていた。天候などの影響はある程度折り込み済みのリスクだったが、大手が直接仕掛けてくる場合にはほとんど打つ手がなかった。

 中でも過去最大の痛手は、絶好調だった新製品の増産体制を決めた直後に、大手が同ジャンルのプライベートブランドで攻勢を掛けてきたことである。これにより価格勝負となり、結局E社は市場から撤退を強いられてしまった。競合大手の市場参入は予想しており情報もつかんでいたのだが、その売値と原価は完全に想定外であり、“大手の底力”を思い知らされたのである。

 市場撤退の影響は大きく、懇意にしていた卸売り会社や商社との販売ルートがなくなる事態にまで追い込まれた。社長はこの1件について、「もう少し情報をきめ細かく、かつ的確に分析して対処していれば、そんな事態は避けられたはずだ」と考えていたのである。


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