さて、以上で「人生に対する基本スタンス」の分類はご理解いただけたと思いますが、
では、なぜこうした“心理的ポジションの傾向”を知ることが重要なのでしょうか? それは、この“傾向”によって問題に当たったときの対処方法が大きく異なってくるためです。
例えば、「プロジェクトが遅れているのに、誰もその状況を共有しようとしない」という状況のとき、「1――私もあなたもOK」の人は、何が問題なのかを考え、自分の考えを述べ、メンバーの考えを聞きながら、問題を解決していくことができます。
その際、自分に問題があれば反省し、改善するように努めることができますし、相手に問題があればきちんと指摘し、「改善してもらいたい」と要求することができます。問題を「人」と切り離してとらえ、「人のせい」にしないよう気を回し、取り計らうことができるのです。
ところが、「2――私はOK、あなたは駄目」のポジションを取る人は、「自分はこういうことを意図していたのに理解されない」「報告するべきだと思って報告したのに、上司が動かなかった」「報告しろと言ったのに、期限に間に合うタイミングで上がってこなかったのが悪い」などと、自分以外に責任を押し付けてしまいがちになります。皆がこのポジションにあると、チームはぎくしゃくし、問題の改善には至りません。
「3――私は駄目、あなたはOK」の人は、「自分のせいで結果が出せない」「自分の遅れのせいで、チームが駄目になってしまった」と、自分の仕事や自分の存在を否定してしまいがちになります。
反省はしても、「何が問題で、どう改善すれば良いのか」を考え、行動に移すエネルギーがありません。
「自分が悪い」と言って心を病んでしまったり、辞めてしまうこともあるでしょう。
「4――私も駄目、あなたも駄目」の場合、「どうせこんなチームでやったって無駄だ」とか「プロジェクトそのものが意味がない」などと思ってしまいます。「そもそも、働きたくて働いてるんじゃないし……」となるわけです。
もちろん、こうした心理的ポジションは、常に一定のポジションにあるわけではありません。
基本的に「1――私もあなたもOK」のポジションに心を置ける人であっても、ときには落ち込んだり、人を責めたくなることがあります。しかし、「1――私もあなたもOK」のポジションを意識して物事に取り組んでいかなければ、チームワークは発揮できませんし、心の健康も保ちにくくなるのです。
また、心理的ポジションと「心のストローク」は相補関係にあり、プラスのストロークを増やすと「1――私もあなたもOK」のポジションを保ちやすくなり、さらに、このポジションに心があれば、多くの物事をプラスのストロークとして受け入れることができます。
前述のように、「1――私もあなたもOK」のポジションを意識して物事に取り組んでこそ、心の健康を保てる――すなわち、心の健康は自分の心をコントロールすることで保てるし、業務も気持ちよく、効率的に進められるというわけです。
ところが、いくら意識していても、いくら本当はそうありたくても、何らかの出来事が原因で、心が制御不能になるシーンがあります。
例えば、仕事を解雇された、彼女に別れを告げられた、上司があまり部下とかかわりたがらない(ように感じる)、出張続きで最近人と話していない、といったようなケースです。
このような状況に遭遇すると、ストロークバンクのプラスのストロークの割合が減り、マイナスのストロークが増え、ストローク自体が枯渇し……という状態になっていきます。どこかで自分を認めてあげないと、心の健康が保てません。
そうなると、人は“正当化”を図ります。
「自分はどうせ駄目だから、ストロークがもらえない状態が当然なんだ」とか、「相手が悪いんだから仕方ない。自分は頑張ってるのに」と、ストロークがもらえない状態に意味付けして、ギリギリの状態で自分を肯定するわけです。
誰も、傷つきたくないですよね。幼少期に作りあげた“傷つかないための心の防御癖”がいまも残っているのです。
そして、そのポジションはいろんな問題行動を引き起こします。「自分が駄目」「相手が悪い」「何をしても無駄」という自分にとっての「NOT OK」が「正しいこと」であると、証明しようとするのです。TAでは、これを「心理ゲーム」と呼んでいます。
次回は、この「心理ゲーム」について詳しくご紹介したいと思います。お楽しみに。
小関由佳(おぜき ゆか)
NIコンサルティング コンサルタント。 広島大学大学院教育学研究科修了。教育心理学の研究を活かし、NIコンサルティングにて人事、採用、教育企画などに取り組み、その一環としてTA(交流分析)やNLP(神経言語プログラミング)を中心とした心理学の研究、活用を行う。特に自身の「ストローク理論」をIT日報に活用した「日報ストローク」、IT日報のコメントで上司と部下のコミュニケーションを分析する「コメント交流分析」、リフレーミング手法を日報に応用した「日報GOOD&NEW」は、心理学の企業組織への適用手法として注目を浴びている。
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