SAP、NetweaverやBusinessObjects最新版をリリース今後はクラウド、モバイル、インメモリに注力

» 2010年10月20日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 独SAPは10月19日(現地時間)、米国ラスベガスで年次の技術者向けイベント「SAP TechEd 2010」を開幕。独SAP CTOのビシャール・シッカ(Vishal Sikka)氏が基調講演を行った。シッカ氏は同社が注力する「クラウド、モバイル、インメモリ」の3分野や、新製品「SAP Netweaver 7.3」と「SAP BusinessObjects 4.0」などについて説明した。

クラウドやモバイル連携を強化したNetweaver 7.3とBO 4.0

シッカ氏写真 独SAP CTO ビシャール・シッカ氏

 SAP TechEdは今回で14回目となる技術者向けイベント。今回のイベントには5500人が参加し、Twitterにおける同イベントのフォロー数も5700を超えるなど注目を集めている。技術者イベントと位置付けられているため、技術者同士による意見交換やユーザー事例紹介なども積極的に行われている点が特徴だ。

 シッカ氏は基調講演のキーワードに「Evolution:進化」と「New Horizon:新しい展望」を挙げ、Evolutionとして同社の既存製品の最新版「SAP Netweaver 7.3」と「SAP BusinessObjects 4.0」を紹介し、New Horizonとして「クラウド、モバイル、インメモリ」の3分野に関する取り組みを紹介した。

 まず、Evolutionの事例として紹介されたのが、同日発表されたSAPのミドルウェアプラットフォーム「Netweaver」の最新版である「Netweaver 7.3」だ。すでに同社顧客の80%が「SAP Netweaver 7.x」上で稼働しているという。

 Netweaver 7.3では、エンタープライズポータルやワークスペースの強化も図られている。ワークスペースではマッシュアップが可能となり、生産性が向上したという。シッカ氏が紹介したデモでは、自分のワークスペース上にTwitterやGoogle Newsの情報を取り込んで自由にカスタマイズする様子を紹介した。

デモ画面 Netweaver 7.3で強化されたワークスペースのデモ画面。各種分析データを表示しつつ、TwitterやGoogle Newsなど好きなサービスをマッシュアップして表示できるようになった

 続いてのEvolution事例として紹介したのが、2年ぶりのメジャーバージョンアップとなるBIツール最新版「SAP BusinessObjects 4.0」(以下、BO 4.0)だ。BOは、現在6万7000ユーザーが利用しているBIツール。2007年10月にSAPがBOを買収し、翌年にバージョン3.1をリリースして以降、SAPとの連携を強化するために製品設計を練り直しての新製品発表となった。

 BO 4.0では、SAPが注力しているインメモリ技術への対応を広げたほか、モバイル対応も強化、Teradataなど他社製品への対応も強化した。従来、SAPのBIアプライアンス製品である「SAP Netweaver Business Warehouse Accelerator」(BWA)は、BO Explorerにしか対応していなかった。しかし、BO 4.0から対応が広がったほか、パフォーマンスが大幅に向上した。また、分析テンプレートも用意されるなど、分析の効率を上げる試みもされている。

今後は「クラウド、モバイル、インメモリ」の3分野に注力

 続いてシッカ氏は、SAPの「New Horizon:新しい展望」として「クラウド、モバイル、インメモリ」の3分野についての同社の取り組み状況を紹介した。

 シッカ氏は、この3分野に注力する理由としてユーザーニーズの大きさを挙げる。例えば、インターネットユーザーは20億人を超え、2010年の第1四半期には、1兆5000億件のメッセージがワールドワイドで交換されたという。また、モバイルユーザーも増え続け、2012年には全従業員の70%がモバイルを持つという予測を紹介した。

 インメモリ技術では、ハードウェアの革新的な進化が加速しているという。「64コア、2TBのメモリ、40Gbpsで通信し、4TBのSSDがたった1枚の薄いブレードサーバに収まっている時代だ。これはまさに驚異的な進化・発展だ」(シッカ氏)。

 クラウド分野では、同社が現在米国や中国、インドなど6カ国で先行リリースしているオンデマンド型ERPスイート製品「Business ByDesign」を中心に、CO2排出量管理製品「SAP CARBON IMPACT ON DEMAND」やBI製品「BI ON DEMAND」などを提供中。Business ByDesignは、100〜500人程度の中小企業向けのERPスイート製品。ERPが中心だがCRMやSFAの機能も備えており、7月にリリースされた最新版の2.5では、インメモリ分析機能、マルチテナント機能が追加され、iPadなどのモバイル端末にも対応した。

 モバイル分野では、SAPは5月にモバイル向けデータベースのSybaseを買収。また、モバイルに関連したプロジェクトとして「Project Gateway」を始動している。Project Gatewayはマイクロソフトと共同で開発を進めているもので、SAPの既存システムにアタッチすることで、モバイルデバイス上でアプリケーションが動作するというものだ。既存システムにアタッチして利用するものの、スマートフォンなどすべてのデバイスでの動作を前提にしており、すでに650種類のアプリケーションが開発済み。壇上で行ったデモでは、SharePointのポータル画面からユーザーが特に意識することなくSAPのアプリケーションを起動することができていた。

 3つ目となるインメモリ技術では、同氏が5月に開催した「SAP SAPPHIRE NOW」で発表したリアルタイム分析に特化したアプライアンス「High-Performance Analytic Appliance(HANA)」を紹介した。HANAは、HPやIBMのハードウェアを利用したリアルタイム分析用アプライアンス製品で、BI製品「SAP Netweaver Business Warehouse Accelerator」(BWA)の後継機に当たる。

デモ画面 HANAのデモ画面。10億レコードのデータを瞬時に分析したほか、それをiPadでも利用できるようになっている

 シッカ氏は、「HANAは、従来製品と比較して4600億行の総計処理が20倍速くなるほか、200倍のプライスパフォーマンスを実現した。1コア当たり、1ミリ秒で200万レコードを検索できるほか、1秒当たり100万行の総計が可能だ。これはまさにパラダイムシフトだ」と評価している。

 また、この日、HANAに関する新しいパートナー企業として、シスコ、富士通テクノロジー・ソリューションズ、インテルの3社が発表された。シスコとSAPは、シスコの次世代プラットフォーム「The Cisco Unified Computing System」のメモリ能力を拡張する方向で共同開発を行う。富士通テクノロジー・ソリューションズとSAPは、共同で顧客にHANAを導入していくという。インテルとSAPは、「Intel Xeon processor 7500シリーズ」向けにHANAを最適化していくことに合意したという。このように、SAPは今後もパートナー企業とさらにインメモリ技術を拡張していく方針。

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