IT現場の課題や悩みは尽きることがない。問題は、その悩みや課題が解決されることも、時代とともに変わっていくこともなく、いつまでも同じ問題を引きずっていることだ。今回は基本に立ち返り、情報システム部門としてあるべき発想・行動のポイントを整理してみた。
先日、ユーザー企業数社の中堅、若手のマネージャが「IT部門の在り方」を研究している勉強会に呼んでいただいた。主催者が本連載の第24回『情報システム部は、もうその役割を終えてしまったのか』を読んで下さったらしく、「その次を知りたい」「答えを知りたい」ということのようであった。2時間の予定が3時間を超えるディスカッションになってしまった。
この中で大変気になったのは、数年前にも感じた「IT部門の役割」や「先の見えない将来にかかわる諸問題」に関する悩みがいっこうに解決されておらず、むしろ被害者意識さえ感じられるほどに悩みが拡大しているらしいことであった。その一方で、これほど世界が大きく変化している中で、自分たちの過去にとらわれ、その意識が変わっていない、あるいは、関心の対象がむしろシュリンクしていることに驚いた。
第24回の執筆後もそのことが気になっており、「自分がIT担当だったら」と、例によって余計なことを考え始めた。その途中経過として書いたのが、本連載第33回『ゆでガエルになる前に情報子会社は経営の見直しを』と、36回『適材適所の人材育成をしよう』、また第38回『その考え、本当にあなた自身のものですか?』から第46回『持続可能社会とITシステムはどう在るべきか(後編)』にかけての原稿である。
そのうち第38回以降の内容は、「IT化の将来に関わる問題」と気付いた方はそれほど多くはなかったかもしれないが、そうと感じられた方からは真剣なコメントをいただいた。
大げさと言われるかもしれないが、いま、18世紀に始まった、そして日本が最後のランナーとして参入できた「西欧型先進国文明」が転換期にさし掛かっているように感じられる。現在の経済手法も技術革新の位置付けも、文化や価値観も、いまわれわれが当然と考えている常識までもが、変化を迫られていると思うのである。
さらに、日本は人口構造の問題を抱えている。これも少子高齢化問題などと簡単に分かった気にならないでほしい。「高齢化・人口減による消費の自然減」と「資源制約下の経済をコントロールする理論」は、いままで必要がなかったから世の中に存在しない。
10年ほど前なら財務諸表の知識を使って、売り上げや在庫量、その偏りをライバルや他業界と比較することでSCMの有効性に気付き、そのITを企画することぐらいはできたが、上に述べたように変化した現在の世界の状況を見ると、そうしたレベルではおそらく仕事をまっとうできない時代に来ているように感じる。
今回はそうしたことを踏まえて、「こんなことは卒業した」という方も多数いらっしゃるだろうと思いながら、「情シスのイロハ」という形で、「IT現場での発想・行動のポイント」をあらためて整理してみた。過去から引き継いできたIT関係者の“悩み”は、「受身の発想を脱却して、自律性を持つ」ことで、かなりの程度解決されるはずだ。IT分野の人は“米国産ITの被支配者”のような文化で育ってきた。日本は第2次世界大戦に敗戦して受身/対応型の発想をするようになったが、もともとはそうでもなかったはずだ。
目先の悩みや、狭い“IT島の発想”から早急に脱却して、世界の変化に目を向けた取り組みにエネルギーを注いでほしいと思う。「西欧型先進国文明」が転換期にさし掛かり、世界が大きく変容しつつある中での一大課題が、「プラットフォームとその管理の可否」が問題となるクラウドというのは本当に寂しい。
では、以下から「IT現場での発想・行動のポイント」を解説していく。基本的にユーザー企業のIT関係者向けに書いているため、コンサルタントやベンダの方は「自社」を「顧客企業」、「ユーザー」を「顧客企業のユーザー部門」、「企画(書)」を「提案(書)」と読み替えていただければと思う。
ユーザー企業の情報化の引き金は、ITではなく、業務上、組織上の問題、事業環境変化の中にある。何より世界情勢変化の影響が大きい。まず自社の事業環境と経営の方向を理解しよう。
そのためには――
情報化とは、すなわち業務(プロセス)と組織の改革・革新である。情報システム(IT)はこれらを支える有力な手段・道具として位置付け、業務・組織改革を1つの完結したプロジェクトとしてとらえよう(ITはサブ・プロジェクト)。
そのためには――
経営にとっては、投資と効果がワンセットになって初めて課題として完結する。
従って――
企画、計画と、結果に対する評価が1人の人間の中で完結することによって、責任感が生まれ、PDCAサイクルを通じた企画・計画能力の育成が可能となる。
従って――
背景事情や、実施時点が異なる他社の成功事例をまねしても成功の可能性は少ない。また、まねをできたころには、相手はすでにその先を行っている。世の技術標準から外れるとロスが発生するが、世の流行や他社動向を気にしすぎて、然るべき判断ができず、「皆で赤信号を渡る」ような過ちを犯してはいないだろうか。基本は「よそはよそ、うちはうち」である。
従って――
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