業務調査に「もう知ってる」「もう分かった」は禁物クラウド時代の業務分析バイブル(3)(1/2 ページ)

システム化を考えるための礎となる業務調査。その作業に先入観は禁物だ。業務の内容と現状を明確に把握するために、対象業務に最適な“調査の順番と在り方”を考えよう。

» 2011年06月23日 12時00分 公開
[西村泰洋,富士通]

3つの調査をどの順番で進めるか

 前回は「資料調査」「インタビュー・アンケート」「現場調査」という3つの調査手法を体系的に紹介しました。業務調査・分析を進める中では、「どのような方法があり、どんなシーンで、どう活用するか」を事前に理解しておくことが極めて重要です。しかしながら、手法の全体像を理解していても、「具体的に、どんな順番で進めていくか」を理解していないと実際に使うことはできません。

 そこで今回は2つの簡単なケーススタディを交えながら、「調査分析手法の適用順と進め方」のイメージを解説しましょう。

 まず3つの調査手法の中でメインとなるのは「現場調査」でした(詳しくは第2回を参照)。それに対して、インタビュー・アンケートと資料調査をどう組み合わせていくかに“プロフェショナルらしさ”が表れます。基本的には最初に資料調査から着手し、続いてインタビュー・アンケートか現場調査を実行するのですが、どちらを先に持ってくるかがポイントです。

「型のある業務」と「型のない業務」で順番を変える

 先に結論から言うと、「型のある業務」、あるいは「業務プロセスが一般的に明確と思われる業務」は、見えている部分=型を確実に把握できるので、図1のような順番で進めていきます。

ALT 図1 「型のある業務」は資料調査を行い、業務説明を受けた上で現場調査を行う。インタビュー・アンケートはその後に行う

 一方、「型のない業務」、あるいは「業務プロセスがやや不明確な業務」は、業務プロセスの理解や、定型・不定型業務、例外事項を整理し、それらに対する理解を深めてから現場調査を行うべきであるため、図2のように現場調査よりもインタビュー・アンケートを先行させる必要があります。

ALT 図2 「型のない業務」は業務内容を明確に整理しておく必要があるため、現場調査よりもインタビュー・アンケートを先行させる

ケーススタディ1――「型のある業務」の場合

 では まず「型のある業務」のケーススタディから紹介しましょう。

 第1回の3ページ目「プロセスごとに、4つの視点で新旧を徹底比較せよ!」で、ホテルリネンの工場と物流センターのケースを紹介しました。これは「各地のホテルから日々集まってくる使用済みのタオル、シーツ、枕カバーなどを1カ所の工場で集約して、洗濯、乾燥、仕上げ、保管をして各地のホテルに返す」という業務でした。

 現行業務としては、工場に届けられた使用済み品をタオル、シーツといった「品目ごとに仕分け」し、洗濯、乾燥、仕上げ、保管をしています。結果として、「各品目が一定量に達してから洗濯をしている」ため、各ホテルから回収したアイテムが混ざり、「どのホテルから回収したアイテムなのか分からない」という課題がありました。そこで新業務とそれを支える新システムでは、「品目ごと」ではなく「ホテルごと」に洗濯、乾燥、仕上げ、保管作業を進めたいという目標の下、詳細検討を進めたというケースでした。この業務を基に調査の進め方を考えてみましょう。

 まず、図1、図2でも示したように、セオリーとしては、どんな業務でも最初に資料調査やユーザーからの業務説明を受けることは変わりません。しかし実際には、このリネン工場のような定型業務の場合、いきなり現場調査から始めようとするケースがよくあります。特にカイゼン活動に積極的な企業の場合、「まず現場を見てよ」と言われることも多いのですが、まずは資料調査による現状把握が最優先と考えるべきです。

 というのも、既存業務を支えているシステムの構築にSEとして携わっていたなら、業務プロセスの概要は理解できているでしょう。しかしそうでない場合は、正確な業務情報がないわけです。従って現場調査以前に、まずは 資料調査とユーザーによる業務説明から着手し、現状の業務プロセスをしっかりと確認し、イメージを固めておく必要があるのです。

 なお、ここで「ユーザーからの業務説明」と言っていますが、これはインタビュー・アンケートとは別の物です。

 インタビューは「あらかじめ用意した質問を一定時間で聞いて回答を得て、集計・分析をし、さらにヒアリングによって組織や個人の情報など“目に見えない情報”も入手した上で、課題と解決策などを見極める活動」ですが(詳しくは第2回を参照)、業務説明はあくまでストレートに「業務内容だけを聞くもの」です。

 一方、資料調査では、各種実績値を時間/日/週/月/季節/年などの単位で把握し、「業務量とその変動の大まかな傾向」を見ておきます。

 こうして資料調査とユーザーによる業務説明から「業務の最新状況」をつかんだところで、現場調査を真に有効なものにするために、いよいよ現場の下見をします。≪この「現場」とは、業務を管理している本社オフィスなどではなく、 今回のリネン業務のケースなら工場や物流センターなど、“実際に業務が遂行されている場”≪に入って視察をします。その上でメインとなる現場調査の手法を決定するのです。


 さて、以上が「型のある業務」の調査順となりますが、イメージはつかめたでしょうか。ポイントは型があるとはいえ、まず「現在の業務状況」を何よりも先にしっかりと把握することにあります。

 また、「ユーザーからの業務説明」は、業務プロセスなどを“耳で聞いて書き留める情報”、「資料調査」は文字情報や図などを“目で見て得る情報”、現場の下見は、業務説明と資料から得た情報を基に“「現場」と「業務」を視覚的に認識する作業”ということをしっかりと認識しておきましょう。

 このように表現すると「それがどうした」といった印象を受けると思いますが、各調査の在り方、目的を明確に自覚しておいて初めて、求める情報を確実に集め、組み合わせ、総合的に業務をとらえることができます。「調査者調査」「調査票調査」「IT活用調査」の中から最適な現場調査を選定するためには、あくまで現状業務を正確・確実に把握することが大前提となるのです。

 なお、その後は 現場調査のリハーサルを経た上で、実際に現場調査を行います。そうして初めて現行業務の課題の明確化、解決策の検討に踏み込むことが可能になります。

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