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「コピーワンス」大そもそも論小寺信良(3/3 ページ)

» 2005年11月21日 11時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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じゃあ著作権の話はどうなったんだっけ?

 で、話はここまで大きく一回転したあと、元のところに戻ってくるわけだ。

 資本主義社会の企業が、自分たちの利益を確保しようとするのは、なにも恥ずかしいことではない。だがどういうわけか日本では、企業団体として集結すると「我々は弱者を守る正義の味方である」的な態度を取ろうとする。

 そしてその哀れむべき弱者として選ばれたのが、著作権のようなふわふわした法律でかろうじて権利らしきものが保証されている、著作者なのだ。これまで各産業は、その弱者を人質にして、敵に自分たちの言うことを聞かせてきたのである。

 だが著作権者側(正確に言えば著作権者ではなくその権利を代行している各種団体)も、それに甘えてちょっと調子に乗りすぎたのではないだろうか。放送に絡むあらゆることを、著作権や著作隣接権で縛ろうとしているが、ここで致命的な論理破綻をきたしているのに気付いていない。すなわち、「見られなければ儲からない」という真理だ。

 権利団体があんまり欲の深いことを言っていると、「じゃああんたのコンテンツはもういいです」とメディアに乗らなくなる。そうすれば、せっかくの収入の道が閉ざされてしまう。もっと金取ってくるから待ってな、と言ってる間に、制作者のほうが飢えて死にそうになっているのである。

 これまで日本では、コンテンツに関連するあらゆる産業が、マトモに主張すると折り合いが付かないめんどくさい話を、全部「著作権」に投げて逃げてきた。そしてとうとうそのツケが回ってきたということなのである。

 コンテンツ産業を世界水準に引き上げるのは結構だが、放送にDRMをかけている国なんて、世界中で日本しかない。映画でも特許でも、知財ならなんでもそうなのだが、多く利用されなければ、儲からないのだ。

 1つの漏れなく10個売るのと、1000個ぐらい盗まれるが10億個売れるのと、どちらが資本主義社会としてマシだろう。乱暴なようだが、このシンプルな本質を、タテマエ抜きでどれだけやれるか。世界を相手に戦うための日本の知財推進計画は、まずここから始めなければならない。


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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