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新生FREETELはSIMフリー市場でどう差別化を図るのか 鍵は「eSIM」にあり

新生FREETELとしての第一歩を踏み出したMAYA SYSTEM。コスパに優れたスマートフォンを発売するが、それだけで強豪と戦うのは厳しい。MAYAはどんな戦略でSIMフリー市場を攻めていくのか。

 プラスワン・マーケティング(以下、POM)から「FREETEL」ブランドの端末事業を引き継ぎ、新生FREETELとしての第一歩を踏み出したMAYA SYSTEM。まずは2月16日に「REI 2 Dual」、2月23日に「Priori 5」を発売する。

 REI 2 DualはSnapdragon 625、デュアルカメラ、1600万画素インカメラ、指紋センサー搭載などのスペックで3万6800円(税別、以下同)、Priori 5はローエンドながら7色の背面カバーが付属して1万6800円。いずれもコストパフォーマンスに優れたモデルといえる。


ミッドレンジの「REI 2 Dual」

ローエンドの「Priori 5」

 ただ、日本のSIMフリー市場は、HuaweiやASUSをはじめ、多くの強豪メーカーがひしめく激戦区。REI 2 DualとPriori 5の販路は直販サイトや量販店以外は決まっておらず、ライバル以上の存在感を発揮するのは現状だと厳しい。MAYA SYSTEMはSIMフリー市場でどのように差別化を図っていくのか。

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 MAYA SYSTEMはeSIMを活用し、世界100カ国以上で1日680円から利用できるWi-Fiルーター「jetfi(ジェットファイ)」の販売・レンタル事業を展開している。海外に到着してルーターの電源を入れると、現地キャリアのプロファイルが自動で転送され、ローミングよりも安価に利用できる。マルチキャリアにも対応しており、最も電波の良好なキャリアのプロファイルが転送されるのも特徴だ。ここで培った技術をFREETELのスマートフォンにも応用し、2018年夏をめどにeSIM対応のSIMロックフリースマホを日本で発売する見通しだ。


世界各国で通信利用できるWi-Fiルーター「jetfi」

 現在、MVNOは海外でのデータローミングを提供できておらず、MVNOユーザーが海外で安価にデータ通信をするには、Wi-Fiルーターをレンタルするか、現地でプリペイドSIMを購入する必要がある。ただ、Wi-Fiルーターは「荷物が増える」、プリペイドSIMは「差し替えやデータチャージが面倒」というデメリットがある。これがeSIMなら荷物を増やさず、SIMも差し替えず、普段使っているスマートフォンで海外でも安く通信できる。なおeSIMの利用を見込んでいるのは海外のみで、国内では物理的なSIMスロットでMVNOやキャリアのSIMを使う形になる。

 jetfiでは1日180円で海外からの電話がかけ放題になる「jet-phone」というサービスも提供している。ルーターのタッチパネルを利用して電話がかけられるが、これをFREETELのスマートフォンでも利用可能になれば、さらにメリットが広がる。さらに、中国でもFacebookやTwitter、Googleサービスなどが使えるように、標準でVPNに対応させることも考えているという。


jetfiのルーターはデータ通信だけでなく、通話や翻訳も可能(翻訳機能は3月に導入予定)

他の海外向けデータ通信サービスとの比較

jetfiのルーターを手にする吉田氏

 このように、スマートフォン1台で世界各国で格安で通話と通信が可能になれば、大きなメリットとなり、他の端末メーカーとの差別化にもなる。MAYA SYSTEM 代表取締役の吉田利一氏は「MVNOの弱みである海外利用をしっかりとサポートし、格安SIMが海外でも自由に使えるようにしたい」と意気込みを語る。

 世界各国で通信をするには、スマートフォンが各国のバンド(周波数)に対応していなければならない。この点は、REI 2 Dualで日本だけでなく、アジア、欧州、北米、南米、豪州、アフリカ各国のバンドに多数対応しているので問題なさそう。吉田氏も「eSIM搭載の可能性が一番高いのはREI(シリーズ)」と話す。


eSIM対応スマートフォンにはVPNも標準搭載する計画

海外でもSIMを差し替えずに安価に通信できるサービスの提供を目指す。国内ではSIMを入れ替えて、既存のサービスを使う形を想定している

幅広いバンドに対応するREI 2 Dual

 吉田氏は、POMの経営が破綻した要因を「一気に手広くやったこと」とみている。「(POMの)財務状況は前半は悪くなかったが、MVNOを始めた後半あたりから悪くなった。特にコミコミプランとリアルショップ(の影響)が財務上一番大きかった」

 eSIM技術を活用し、MAYA SYSTEM自らがMVNOとなって通信事業を展開する選択肢もあるが、MVNO事業には手を出さない考え。「MVNOは思ったほどお金がたくさん入る事業じゃない。ある程度数を取らないとやっていけないし、(FREETELの)30万人ぐらいじゃ事業は厳しい。獲得するなら集中して土管の事業をすべきだったと思う」

 一方でFREETELの端末のとがり具合や、日本ユーザーの目線でモノを作っている姿勢は評価しており、「これらを生かしてeSIM事業を展開したい」と吉田氏。

 HuaweiやASUSをはじめとする大手メーカーと戦うのは「リスクがある」と考え、eSIM事業を核にした新しい市場を作っていく。また物流、電力監視、農業、工場など、スマートフォン以外のIoT分野に特化したeSIMを開発する計画もある。スマートフォンのラインアップもミッドレンジとローエンドに集約する。


eSIMを使ったグローバルIoTチップの開発も計画している

 吉田氏は、FREETELを買って良かったか? という質問には「Yes」と答えるという。「FREETEL(POM)に残っていた優秀な社員と約30万人の(FREETEL端末の)お客さま、販売チャネルがある。良くも悪くもブランドはFREETELの方がjetfiよりはるかに上を行っている。MAYAにとって非常にプラスだと思っている」

 POM時代のFREETELでは派手な宣伝やバリエーション豊かな端末ラインアップが目を引いたが、それらが同社の体力を削り、最終的に経営が立ちゆかなくなってしまった。MAYA SYSTEMはあくまで堅実に、自分たちのできる範囲で新しいことにチャレンジする方針。ブランド名は同じ“FREETEL”だが、POM時代とは全く異なる歩みになりそうだ。

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