日本の“家計簿”文化を世界に――300万ダウンロードを超えた「おカネレコ」の狙い:佐野正弘のスマホビジネス文化論(2/2 ページ)
2秒で入力できる簡単さで人気の家計簿アプリ「おカネレコ」。自分自身がお金で困った経験から生まれたという開発背景を、スマートアイデアの江尻氏に聞いた。
ユーザーの意見を取り入れながら小まめにアップデート
公開当初のおカネレコは、「とにかくニーズがマッチしてユーザーが定着することが重要だと思っていた」(江尻氏)ことから、アプリを完全無料で提供し、広告も導入していなかった。だがダウンロード数が増え、ニーズがあることが明確になったことから、公開から半年後の2013年2月、電卓機能やレシート読み取り機能などが利用できる有料版の「おカネレコプレミアム」をリリースした。
現在はそれに加えて、クラウドにデータを預けられ、スマートフォン以外のデバイスでも利用できる月額制の会員サービスも提供。無料版には広告も導入した。江尻氏によると、現在の売上比率は「課金と広告がほぼ半々」とのことで、中には無料版の機能に満足したからと、お布施のような形で有料版を購入するユーザーもいるという。それだけに、アプリの満足度を高めることが継続したビジネスにつながると、江尻氏は考えているようだ。
こうした経験からスマートアイデアでは、ユーザーの声に耳を傾け、月に1回はアップデートを実施して新機能を追加することに力を入れている。具体的には、App StoreやGoogle Playのアプリ評価欄をチェックするだけでなく、ユーザーに直接アンケートやインタビューを実施したり、リアルな場でユーザー同士が集まり、アプリの使い方や節約術に関して情報交換をするイベントなどを開催するなどして、ユーザーとの接点を増やしている。その上で、おカネレコがどのように使われているのか、ユーザーがどのような機能を欲しているかを把握し、アプリ開発に反映してるのだそうだ。
ユーザーの意見の中には、アプリ開発者からすると見えにくいものも多いという。その代表例が「紙に出力したい」という要望だ。ITに詳しい人達は「今更、紙への印刷が必要なのか?」と考えてしまいがちだが、女性層やITに詳しくない層からの、紙に残したいニーズは高いのだそうだ。こうした自分達の視点から見えない声に応えることが、満足度を高める上で重要な意味を持っているのではないかと、江尻氏は話す。
一方、おカネレコ自体がシンプルさを重視しているだけに、「アップデートで機能を増やしながらアプリをいかにシンプルに保つかは課題」(江尻氏)でもある。そこで江尻氏は、支出の入力という起動画面のインタフェースは変更せず、メニューの一段奥に入ったところに追加機能を入れ、アプリの操作に詳しくなった時点で追加機能を使ってもらう仕組みにしている。
世界を見据えベトナムで開発、日本の家計簿文化を世界に発信
ちなみにスマートアイデアでは、おカネレコの開発当初からベトナムでのオフショア開発体制を敷いている。その理由は、元々江尻氏がベトナムと縁があり、質の高いエンジニアを紹介してもらったことが大きいとのこと。現在はベトナムに「スマートアイデアスタジオ」という子会社を設立し、アプリ開発を進めている。
だが、言語や文化が異なる海外の人材を活用するオフショア開発には、多くの難しさもある。江尻氏は上手に進めるための秘訣として、「なるべくコミュニケーションを取ることが重要」と指摘する。少しでも分からないことがあると開発が進まなくなるので、毎日Skypeを使って連絡を取り合い、すぐその場で問題を解決する体制を整えているのだそうだ。
ベトナムで開発しているもう1つの大きな理由が、おカネレコの“世界展開”だ。実際おカネレコは、当初よりまず英語版を開発し、それをベースに日本語にローカライズする手法を取っている。利用者の9割は日本のユーザーだが、英語版の海外提供もすでに行っており、米国を中心として1割ほど海外ユーザーも抱えているという。
実は“家計簿をつける”という概念は日本独自のものであり、他の国には家計簿を付ける文化自体がないと、江尻氏は話す。米国では税務申告のため会計管理をする習慣はあるものの、“家計を管理”という考え方がないのだそうだ。それにも関わらず、海外でおカネレコがダウンロードされていることから、「実は米国でも、こうしたアプリが求められていたのではないか」と江尻氏は捉えている。
その背景には、リーマン・ショック以降カード破産が増え、個人で資産管理をする必要性が高まっていることが影響しているようだ。実際、米国では学校でファイナンシャル・リテラシーを高めるための授業があり、そこでおカネレコが紹介されるケースもあると、江尻氏は話す。
おカネレコは現在、米国からカナダやイギリスなど英語圏でユーザーが広がっている状況だ。今後は、より市場の大きい中国語圏へ向け、中国語版の開発も検討している。おカネレコが日本の家計簿文化を世界に広める契機になるのか、今後が大いに期待されるところだ。
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