「快速むさしの2号」には、そんなミステリー列車の雰囲気がある。通勤ラッシュが落ち着いたころの大宮駅。新しい銀色の電車ばかり発着していたホームに、懐かしい国鉄型の115系電車が停まっていた。行き先不明……ではなく、ちゃんと「八王子行」と表示されている。ただし、そのルートが不思議だ。時刻表と路線図を見ると、大宮から東北本線を南下し、浦和で武蔵野線に入り、西国分寺で中央線に入ることが分かる。しかし、浦和も西国分寺も、各路線とは立体交差になっている。どうして直通できるのか? しかも「大宮発八王子行」は1日のうちたった2本。東京近郊でこの本数は少なすぎる。なぜこんな列車が設定されたのだろう。
疑問を解くには乗ったほうが早い。車内は都心では珍しくなってきたボックス型の座席がある。迷わずそこに座ると、ちょっとしたローカル線の旅気分だ。この列車は08時53分発だから、駅弁を食べたりビールを飲んだりする人はいない。しかし第2便の「快速むさしの4号」は18時47分発だから、もしかしたら仕事の疲れをお酒で癒す人もいるかもしれない。
大宮を発車した電車はゴトゴトとポイントを渡ってゆっくり走る。「快速」というだけあって、隣のさいたま新都心駅は通過する。このときの車窓で気付くと思う。我が「快速むさしの」が走る線路にはホームがない。通過するからホームは要らないとはいえ、ちょっと不思議。実は、この列車が走っているのは東北本線の貨物列車専用の線路なのだ。湘南新宿ラインと同じで、貨物線用線を有効活用した列車というわけ。
快速むさしの2号は快調に南下していき、与野駅を通過したあたりから1段下を走り始める。そしてどんどん降下して、ついには地下トンネルに入ってしまう。これが謎の1つ目、東北本線から武蔵野線へ移るルートだ。答えは「専用の短絡線に入る」である。
この短絡線は地下なので、描かれていない地図も多い。Google Mapsには点線で表示されていて、たどっていくと北浦和公園や浦和浄水場の下を経由し、県立別所沼公園あたりで地上に顔を出す。埼京線と東北新幹線の線路を潜ると分岐点があり、快速むさしの2号は右の線路を辿る。すると進行方向左手の車窓の下に別の線路が近づく。この線路が武蔵野線である。西浦和駅付近で双方の線路が同じ高さになって合流すると、武蔵野線への移動が完了というわけだ。謎が1つ解けた。快速むさしの2号は乗換駅の南浦和に停車しない。その理由は「経由しないから」だ。路線図にはない線路があった。
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