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2004/02/18 00:00:00 更新

e-biz経営学
ウェブ・ブラウジングの快楽

1996年、ホフマンとノヴァクによる論文「ハイパーメディア・コンピュータ媒介環境におけるマーケティング」は、「フロー」という概念に注目していた。「フロー」とは何かに没入し夢中になることで、最高の経験が持続していく状態を指すものだ。

 インターネット上の消費者行動に関する研究で草分けといえば、1996年にジャーナル・オブ・マーケティングに掲載されたホフマンとノヴァクによる「ハイパーメディア・コンピュータ媒介環境におけるマーケティング」ではないしょうか [1]。この論文の特徴を一言でいうなら、「フロー」という概念に注目したことでしょう。

 「フロー」とはシカゴ大学の心理学者チクセントミハイが提唱した概念で、何かに没入し夢中になることで、最高の経験が持続していく状態を指します(邦訳された代表的な文献として[2]があります)。ホフマンたちは、インターネット上の対話が切れ目なく続き、その行為自体が楽しくなり、我を忘れてのめり込んでいくとき、「フロー体験」が生じていると考えました。

 いうまでもなくフローは、日常の様々な活動において経験されます。チクセントミハリたちはこれを測定するために調査対象者にポケベルを持たせ、日中ランダムな間隔でアクセスしました。そして対象者に、その時点での経験や気持ちを記録させたのです。これを彼らは「経験抽出法」と呼んでいます。現在では携帯電話を用いることで、もっと効率的に調査できるはずです(すでに行なわれているかもしれません)。

 さて、フローが生じるには2つの条件が必要です。まず、環境に何らかのチャレンジがあること、そしてそれに相応しいスキルが本人にあることです。したがって自分のスキルを越えた操作や、逆に簡単すぎる操作もフローを引き起こしません。フローが経験されることは快感であると同時に、学習が促進される、探究心が高まるといういい意味での副作用を伴います。

 ホフマンとノヴァクの研究を今振り返ると、私は最初にウェブを経験したときの快感を思い出します。リンクボタンを押していくと、世界中に散在する様々な知識につながります。誰もが時間の経つのを忘れ、ウェブ・サーフィンに没入した経験を持っているのではないでしょうか。ホフマンとノヴァクは、まさにこれがウェブ上の消費者行動の本質だと見抜いたわけです。

 しかし、マーケティング・サイエンスでのその後の研究は、必ずしもその線に沿って進んでいるようには見えません。検索エンジンが高度化し、Eコマースが普及していくと、ウェブの即自的価値より手段的価値を重視した研究が増えていきました。つまり、効用最大化に基づく消費者モデルで説明可能な現象へ研究が集中していったのです(それについては、次回に紹介します)。

 それでは、ウェブのブラウジングそれ自体が快楽だという視点は、もはや時代遅れなのでしょうか。最近のブロードバンド化、常時接続環境の普及を見ていると、むしろ逆ではないかと私は予想しています。いまや人々はコストを心配せずに、ウェブのブラウジングを楽しむことができます。しかも、そこではかつては考えられなかった、リッチなコンテンツを享受することができるのですから。

 ホフマン、ノヴァクらヴァンダービルド大学のeビジネス研究者たちは、その後も精力的に研究を続けています。その内容に関心のある方は、こちらのサイトで一覧することができます。

文献

[1] Donna L. Hoffman and Thomas P. Novak, Marketing in Hypermedia Computer-Mediated Environments: Conceptual Foundations, Journal of Marketing, 60, July 1996, 50-68.

[2] チクセントミハイ(今村浩明訳)『フロー体験:喜びの現象学』世界思想社、1996年

Copyright c 2003 Makoto Mizuno. All Rights Reserved.

関連リンク
▼OPINION:筑波大学 e-biz リサーチ・コンプレックス

[水野誠,筑波大学]

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