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2004/03/26 00:00 更新

ITソリューションフロンティア:視点
感性の要求仕様


 道具を使う動物である人間の歴史は、道具をどうやって使いやすくするかの歴史であると言ってよい。非常に古い時代の道具である石器でも、研究者は使いやすくする工夫に驚くという。石や骨で道具を作り出したとき、使いやすさや使い勝手を考える物づくりがすでに行われていたのである。

 コンピュータシステムも、人間が使うという意味ではひとつの道具である。そのコンピュータが生まれてすでに半世紀を超える時が流れ、日本で事務処理にコンピュータが使われだしてからでもほぼ40年になる。この間にさまざまな技術進歩があった。とくに、いかにデータを簡易に投入し、コンピュータの計算結果を見やすくするかについては目を見張るものがある。昔は紙テープに記録したデータをテレタイプで入力し、タイプライターで1 行ごとに紙に印刷していたものが、いまは多くの色を使った画像による表現へと、人間の感覚でとらえやすいものに変化してきている。つまり、コンピュータシステムは使いやすい道具に進化してきたはずである。

 にもかかわらず、現在でも情報システムへの不満の多くは「使う人の視点に立っていない」というものである。項目の並びや配置、文字の大きさ、色づかいなど、使う人のさまざまな要件を聞いて作ったにもかかわらず、現場で使われていないという例もある。たとえば使う人が「項目が足りない」と言えば、作る人はかなり無理をして一覧性を保ちながら項目を増やす。その結果、使う人は「項目が多すぎて使えない」と言う。また、使う人が見やすい画面にしてほしいと言えば、作る人は人間工学や色彩理論に基づき、最新の技術を駆使して見やすい画面を目指して開発する。しかし使う人は「昔の黒と緑の画面のほうが見やすい」と言う。このようなことはなぜ起こるのであろうか。

 古い時代にあっては、自分が使う道具はおそらく自分で工夫して作っていたに違いない。自分で材料を探し、自分の使い勝手を考えて作っていたわけである。使いづらければ作り直すしかなく、またそうであるからこそ、自分の要求にぴったりと合った道具を手にすることができたのである。しかし、獣をつかまえたり木の実を探したりするのが上手な人間が、必ずしも自分に向いた道具を作れるとは限らない。あるいは、器用に石は削るのだが狩は苦手だという人間もいたはずである。それに、生産を拡大しようとすれば、道具を作る人と使う人の分業を行うほうがはるかに効率的である。こうして石から青銅、鉄というように、道具の材料が進化するのと同時に、道具づくりが専門の職能集団に担われるようになり、次々と新しい道具が作り出されてきたものと想像される。

 分業によって作る人と使う人の分離が起こったとしても、ほんとうに使いやすい道具はたしかにある。また、道具作りの名人や名工といわれる人たちも古来、数多く存在する。そもそも、道具の使いやすさ、使い勝手のよさは何によって決まるのであろうか。

 たとえば包丁であれば切れがいいというように、目的を効果的に果たせる機能なのだろうか。同じようによく切れる包丁でも、使いやすいものと使いにくいものがある。そこには、おそらく本来の機能以外の要素があるように思える。たとえば柄の太さや重心の位置の微妙な違いなど、使う人が気にすることは「物を切る」という本来の機能以外にも存在する。それは「感性の要求仕様」とでも言うべきものではないだろうか。これが満たされたとき、使う人はその包丁の「切れ味」のよさを感じることができるのである。

 この「感性の要求仕様」を、使う人がどのように作る人に伝えるか、作る人がそれを理解できるかということが、道具が使う人にとってほんとうに使いやすいもの、使いたいものになるかどうかを決めるのだと言えよう。

 人間は、互いの意思疎通に言葉や文字を用いる。言葉や文字は「機能」の要求仕様を伝えることは可能である。しかし「感性」の場合はどうであろうか。たとえば、包丁の切れ味、鉋のかけ具合などを作る人に正しく伝える言葉は存在するのだろうか。

 道具を作る人がその道具を日常的に使うというのなら、「感性の要求仕様」を道具づくりに活かすことはできそうである。また大量生産が可能なものであれば、使う人のフィードバックを適宜受けることで、使う人の感性に起因する不満にも徐々に対応できる。それでも使う人が気に入らなければ、使う人にとっては他の同機能の製品を使ってみるという選択肢もある。

 情報システムの場合、作る人がそのシステムを使うということは多くない。とくに事務処理系、情報分析系のシステムでは、ほとんどのケースで作る人は使う人ではない。また、大量生産品のように使う人のフィードバックをすぐにシステムづくりにとり入れることも難しく、完成してしまえば作り直しも簡単ではない。このことが、使う人の不満につながっているのではないだろうか。この不満をできるだけなくし、喜んで使ってもらうようにするためには、情報システムにおける「感性の要求仕様」を作る人と使う人が共有し合うことが不可欠である。

 感性を伝えるということは思っている以上に難しそうである。しかし、使う人に喜んで使ってもらえる情報システムを作っていきたい。そのためにも、「感性の要求仕様」というものを意識し、従来の機能本位な決まり文句による仕様書に人間味あふれた言葉を加えることで、少しでも使う人と作る人の間の「感性のコミュニケーション」が円滑になるようにしていきたいものである。

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▼OPINION:野村総合研究所

[竹内伸,野村総合研究所]

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