「DeepSeekショック」とは何だったのか? 2025年、AI開発の最新事情を解説(4/5 ページ)
安価な高性能AI 企業はどう反応しているか?
ただ、仮に何らかのズルや規制逃れが行われていたとしても、これまでのように重厚長大なAI開発・運用というパラダイムに対して、明確にノーを突きつける企業が出てきた(しかも輸出規制下にある中国から)というのが、DeepSeekショックの本質といえるだろう。実際にさまざまな企業が、いちはやくDeepSeekのモデルの導入や支持を打ち出している。
例えば米Microsoftは、DeepSeekショックの2日後となる1月27日に、AI開発環境「Azure AI Foundry」と「GitHub プラットフォーム」で、DeepSeek-R1を利用可能にしている。Microsoftは「DeepSeek によれば」というただし書きを付けながらも、R1について「強力でコスト効率の高いモデルであり、ユーザーが最小限のインフラ投資で最新のAI機能を活用できるとしています」と説明している。
また米Amazonも1月29日、「Amazon Bedrock Marketplace」など同社のサービスを通じて、AWS上でDeepSeek-R1を利用可能にしたと発表した。
後述するように、DeepSeekのモデルにはさまざまなセキュリティや政治的な課題を抱えているが、それでもMicrosoftやAmazonがこれほど早くR1のサポートに動いたのは、それだけユーザー企業からの注目度が高かったのだと想像される。
日本でも1月27日、サイバーエージェントが、R1のバージョンの1つをベースとしたモデル「DeepSeek-R1-Distill-Qwen-32B-Japanese」を無料公開している。これはR1を日本語対応させたもので、R1やDeepSeekの実力を試してみたいという日本企業にとって、大きな助けとなるはずだ。
それでは私たちのようなユーザー、特に企業ユーザーにとって、DeepSeekショックとは何を意味するのだろうか。
AI開発、コスト掛かりすぎ問題
まず何より、ショックが起きた最大の理由である、コスト削減や省資源の可能性を認識すべきだろう。生成AIの登場により、企業内でAIを導入するハードルは大きく下がったが、それでも大規模に展開する際のコストは無視できない。
またAIが使いやすくなればなるほど、その分の導入範囲も拡大して、さらにコストが上がることになる。これまで企業内のAI導入担当者は「AIへの投資は戦略案件だから」「いち早く対応しないとライバルに後れを取るから」といった理由で、多少のコストにも目をつぶってもらえただろう。
しかし今後、リーズナブルに活用できるモデルが普及すれば、コスト削減の要求が高まるのは火を見るよりも明らかだ。
またAI開発・運用に莫大な電力がかかり、それが環境破壊につながっていることにも、世間から厳しい目が向けられるようになりつつある。リソースを食いすぎないAIモデルへの期待は、企業の内外で高まると考えられる。
次に考えられるのは、プライバシーや機密情報保護の観点からの軽量モデル推進の可能性である。前述の通り、DeepSeekからは高性能な軽量モデルが発表されており、高性能な生成AIを安全なローカル端末や、社内のクローズドな環境上で構築することが現実味を帯びてきた。
社外に機密情報を出さないという観点から、一部の企業は既にこうした取り組みを進めているが、今後はより現実性・実行性の高いオプション、あるいは取りえる唯一の選択肢として位置付けられていくことになるだろう。
DeepSeekはさまざまな用途に特化したモデルを発表しており、単にコスト面の理由だけでなく、導入目的という面からも同社のモデルが選択肢に上がることが出てくることが考えられる。いずれにしても新たな設計思想に基づくAIモデルの登場は、選択肢を広げるという意味で、企業ユーザーにとってプラスであることは間違いない。
ただ一つ懸念されるのは、モデルが内包する思想や性質、文化的背景といったものに、ユーザーがより注意しなければならない時代が来るという点だ。
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