DeepSeekで注目された「蒸留」って何だ? 識者が解説(1/3 ページ)
中国のAI企業DeepSeekが、OpenAIの最新モデルに匹敵する性能を持つAIを、わずか10分の1以下のコストで開発したと発表し、AI業界に衝撃が走っている。NVIDIAの株価は一時17%下落。その背景には「蒸留」と呼ばれる技術の存在が取り沙汰されているが、その評価は専門家の間で分かれている。同社の快進撃の真相と、AI開発の新たなパラダイムとは何か。
性能と低コストで衝撃 中国発AI企業の快進撃
「これは一個のウルトラCをやったということではなく、いろんなところで緻密な工夫を積み重ねた結果だ」。米国州立テキサス大学で物理学と数学を修め、ボストンコンサルティンググループを経て、AI企業Laboro.AIを創業した椎橋徹夫氏は、DeepSeekの成功をこう評価する。高度経済成長期の日本企業が、制約のある中で品質の高い製品を生み出したように、同社も独自の技術革新を重ねることで、AI開発の新たな地平を切り開いた可能性がある。
中国のDeepSeekが1月20日に公開した推論モデル「DeepSeek-R1」は、米OpenAIの推論モデル「o1」と匹敵する性能を持ちながら、開発コストはわずか3%程度で済んだという。最先端のAI開発は莫大な資金と計算資源が必要とされてきたが、この常識を覆す成果として注目を集めている。
同社の成功は、半導体輸出規制下の中国企業による快挙として評価されている。米国による規制で最先端のGPU(画像処理半導体)が入手できない中、同社は型落ちのNVIDIA H800を用いて独自の最適化を実施。OpenAIやGoogleなどの大手AI企業の10分の1という少ないGPU枚数で、高い性能を実現した。
このニュースは市場にも激震を与えた。DeepSeekの技術革新により、AI開発の計算資源への依存度が低下するとの見方が広がり、GPU市場を支配するNVIDIAの株価は1月27日に16.9%下落。時価総額は約5888億ドル(約91兆円)失われた。
技術面での特筆すべき点は、同社がR1をMITライセンスの下でオープンウェイトモデルとして公開したことだ。カリフォルニア大学バークレー校の研究室は、リリースからわずか1日でR1の性能の再現性を確認したという。
OpenAIモデル「蒸留」疑惑の真相
一方で、DeepSeekの低コスト・高性能の背景に、OpenAIのモデルを「蒸留」して開発したのではないかとの疑念が持ち上がっている。OpenAIは経済紙フィナンシャル・タイムズに対し、DeepSeekによるデータ「蒸留」の証拠をいくつか発見したと表明。この告発は、AIモデル開発における知的財産権の新たな課題を浮き彫りにした。
米マイクロソフトとOpenAIは2024年、同社のAPIを利用したDeepSeekのものと思われるアカウントを調査。利用規約に違反する蒸留行為をブロックしたという。OpenAIの利用規約では「ユーザーがOpenAIのサービスをコピーしたり、OpenAIと競合するモデルを開発するために出力を使用することはできない」と明記している。
米政府高官からも厳しい指摘が相次ぐ。トランプ政権でAI責任者を務めたデービッド・サックス氏はFOXニュースのインタビューで「オープンAIのモデルから知識を蒸留したという相当な証拠がある」と指摘。商務長官候補のホワード・ラトニック氏も上院公聴会で「DeepSeekのやり方はイカサマだ」と非難し、対抗策を講じる考えを示した。
しかし、技術面での評価は必ずし批判一辺倒ではない。OpenAIのチーフサイエンティストであるマーク・チェン氏は「DeepSeekはOpenAIがo1を実現する過程で採用した核心的なアイデアのいくつかを独立に発見した」と述べており、自力で革新的手法に到達した部分があることを認めている。
「蒸留」とは何か。なぜそれが問題視されているのか。AI開発の新たな課題が浮かび上がってきた。
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