なぜ、人型ロボットで中国が急成長しているのか? 識者に聞いた“3つの理由”(3/3 ページ)
中国の人型ロボットの発展状況も黎明期であることを示す。25年4月に北京市の亦荘で開催した人型ロボットのハーフマラソン大会には、約20体のロボットが参加。優勝したロボットは2時間40分で完走した一方、電池の持続時間や挙動の安定性の不足から完走できない機種も出た。加えてロボットの走行は自律しておらず、人間のコントロールが中心だったという。
また記事の冒頭で触れた人型ロボットの試験導入も、人と接する機会が少ない製造や物流の現場などが多い。接客業での導入も一部で始まっているが、高い安全性が求められる家庭での活用はまだ進んでいない。
人型ロボットの開発では、中国以外にも、TeslaやFigure AI、1Xなど米国企業の名前が知られている。米国をはじめとした他国に比べ、中国が後れを取っている点はないのか。李氏は、人型ロボットの開発課題は各国で共通しているとして「中国特有の課題はあまりない」との見方を示す。
ただし、中国では人型ロボット開発に数多くの企業が急速に参入しているため、“バブル”を懸念する声も出ているという。「EVの時と同様に、同質化した企業が多すぎて競争が激しく、社会全体から見ると逆に効率が良くないのでは、という懸念も出ている」「今後は淘汰が発生し、トップの数社しか生き残れないだろう」(李氏)
競争の激化は、人型ロボットに関するPR動画を巡る状況にも反映されている。李氏は、中国や他国のロボット企業が発信するPR動画の一部では「実際の動きは遅いが、早送りしている」「人間が遠隔でコントロールしている」「事前にプログラムされた動作しかできない」といった説明を省いていると指摘する。
李氏は、各社がPR動画を出す理由について「設立当初は自分たちに能力があることをアピールしたい」と説明する。一方で「今はもう実装しなければ、ベンチャーキャピタルや投資家から資金を募れない」「PR動画から実際に目の前で働いて証明する段階に入っている」と述べる。
「別の言い方をすれば量産だ。1、2台はチューニングできても、100台あるいは1000台を同様のレベルで動かせるのか、というハードルがある。各社共通の課題となっており、どこが生き残れるか、ここ2、3年が山場ではないか」(李氏)
ビジネス面の実情、軍事利用の懸念は?
現状、中国の人型ロボット企業の財務状況はどうなっているのか。李氏によると、情報を公開しているのは、上場しているUBTECH Roboticsのみという。同社の2024年の決算では、人型ロボット事業の売上は1億4100万元(20億8200万円)だったものの、研究開発費がかさみ赤字だった。
なお、同社の人型ロボット事業は、全体の売上の10.8%。売上の80%超をペットや教育向けロボットといった既存事業が占めており、全体でバランスを保ちながら人型ロボットに投資しているという。
その他の未上場企業の詳細な財務状況は分からないものの、Unitree Roboticsについては「割と収益が上がっていると聞いた」と李氏。運動性能が高い人型ロボットを安価に販売し、「プラットフォーム上でのカスタマイズを購入者側にやってもらう。ハードの提供に徹する」(李氏)というビジネスモデルが功を奏しているようだ。
他方、人型ロボットの開発を巡っては、過去のSF作品のイメージや、ロボット本体の汎用性の高さから、軍事利用を懸念する声も一部で出ている。こうした声に対し、李氏は「インターネットもAIも、当初は軍事用。民生用に転じたことで、いま多くの人が恩恵を受けている。技術には軍事用と民生用の両面がある」と説明する。
李氏によると、中国では人型ロボットの適切な利用に向け、国内のAI・ロボティクス企業が集まるイベント「世界人工知能大会」で、AIガバナンスに関する宣言を出すなど利用方針を提示。また、技術の透明性や安全性を高めるため、各企業がオープンソース化に注力しているという。
日本企業が学べるポイント
中国の人型ロボットを巡る状況から、日本の企業が学べるポイントはあるのか。李氏は「人型ロボットを、産業用ロボットのように一部の作業を代替するツールと考えるとうまくいかない」と指摘する。ロボットそのものだけでなく、社会課題の解決や産業構造の変革を見据えることが重要という。
また、人型ロボット産業が黎明期であることを踏まえ、「導入側と開発側が一丸となって戦略的に取り組む必要がある」と李氏。開発組織についても「失敗を許容する組織体制」や「優秀な人材を確保するための給与・評価体系の整備」などが必要とした。
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