「控えめに言って100兆円」巨大フィジカルAI市場、日本の勝ち筋は 日立がAnthropicとの提携で示した戦略

 ハードウェアに知性を乗せられるかどうか、それが勝敗を決する――日立製作所(以下、日立)の阿部淳副社長は、5月20日に同社が開催したフィジカルAIに関するイベントの冒頭でこう語った。

 自動車や産業用ロボット、鉄道など日本企業が得意とするハードウェア産業を武器に世界で戦うには、先進的なAIの活用が不可欠との見立てだ。同月19日には米Anthropicとの提携も発表。企業のAI導入を支援する新組織を共同で立ち上げ、「100兆円」規模と試算した世界市場を狙う。

 日立は、フィジカルAIとAIエージェントの2つのトレンドが重なることで「控えめに言っても100兆円以上の市場がある」(同社 細矢良智常務)と見る。

日立 細矢良智常務(撮影:筆者)

 中核に据えるのは、AIによる社会インフラの革新を目指すソリューション群「HMAX」だ。鉄道車両などに設置したセンサーで収集した架線のデータをAIで分析し保守作業を効率化する仕組みなど、エネルギーや製造などの現場で実装が進む。

 同ソリューション群の強化のためにAnthropicとの提携にも踏み切った。日立グループ約29万人の業務にAnthropicのAIモデル「Claude」などを導入し、社内実証で得た知見をHMAXに還流する。

 10万人規模のAI人材も共同で育成する計画だ。米国や欧州、アジアを横断する新組織「Frontier AI Deployment Center」を立ち上げ、AnthropicのApplied AI(顧客のAI製品導入を支援する業務)担当者と日立のIT、OT、セキュリティの専門家による共同チームを編成する。

Frontier AI Deployment Centerの構想(出典:登壇資料)

 日立は2024年に発表した米Microsoftとの提携も継続。「Microsoft Azure」で日立グループのAIソリューションを展開する他、NVIDIAやGoogle Cloudなど複数社とのエコシステムでフィジカルAIの社会実装を加速する。

 同イベントのパネルディスカッションに登壇し、日立と共同研究に取り組む早稲田大学の尾形哲也教授はフィジカルAIについて「これまではロボットのために環境を作り込んでいたが、(現在は)ロボットが環境に合わせてくれる時代になった」と語る。LLMやVLM(視覚言語モデル)、VLA(視覚言語行動モデル)の進化によってロボットの汎用(はんよう)性が向上しているという。

早稲田大学 尾形哲也教授(撮影:筆者)

 日立は同イベントで、複数のロボットが設備点検の新人担当者を支援するシステムや、従来の技術では難しかった形状が変わりやすいケーブルを扱うロボットなど、複数のフィジカルAIソリューションを展示。業務の熟練者を模倣するAIによって、労働力不足などの社会課題解決を目指すとした。

つかむ度に形状が変わるケーブルを扱うロボット(撮影:筆者)
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この記事の著者

村田知己

村田知己

ITmedia AI+ 編集記者。市場調査会社でのエンジニア職を経て、2022年アイティメディア入社。キーマンズネット編集部、社内のデータ分析基盤構築担当、ITmedia エンタープライズ編集部を経て現職。

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