「バズるほど赤字だった」──野田クリスタルのAIペットカードゲーム、公開停止からの復活劇を本人に聞いた
「バズればバズるほど、出費が重なる状態だった」──。お笑いコンビ「マヂカルラブリー」の野田クリスタルさんが、米Googleの生成AI「Gemini」を使って開発した「ペットカードジェネレーター」。ペットの写真をアップロードするとトレーディングカード風の画像を生成できるこのサービスは、2025年12月16日の公開初日に130万アクセス、カード生成40万枚超を記録する大ヒットとなったが、その裏では、人気に比例してAIの利用料が膨らみ続けるという悲劇が起きていた。
あれから約半年。同ゲームが大型リニューアル版「うちのこカード伝説」として帰ってきた。他プレイヤーと協力して敵に挑む「レイドバトル」やカードコレクション機能を実装し、ジェネレーターから「ゲーム」に進化したという。
AIでしか作れないゲーム体験はどのように生まれたのか。野田さんと、企画・開発を推進した電通の山西康太さんに聞いた。
プロフィール
野田クリスタル
2007年に結成したお笑いコンビ「マヂカルラブリー」のボケ担当。「M-1グランプリ2020」「R-1ぐらんぷり2020」王者。独学でプログラミングを学び、ゲーム制作も手掛ける。2021年からは自作ゲーム集「スーパー野田ゲー」シリーズをNintendo Switch向けにリリース。現在3作品が発売中。
山西康太
電通のマーケティングチームで「AIマスター」を担うと共に、グループ会社の電通総研ではAIプロダクトの開発にも従事。「ペットカードジェネレーター」から「うちのこカード伝説」へのリニューアルでは企画・開発を推進した。
開発のきっかけは、ハムスターの「ハムハム」
※以下、敬称略
――まず、前身の「ペットカードジェネレーター」を作ることになった経緯から教えてください。
野田: GoogleさんとAI関連の取り組みをしようという話になり、「芸人目線で、AIでやりたいことはありますか」と聞かれて思い出したのが、飼っていたハムスターの「ハムハム」のことでした。かわいかったんですが、亡くなってしまって。カメラロールに写真は残っているのに、振り返ると悲しい気持ちになる。周りもどう触れていいのか分からない、腫れ物みたいになってしまったなと。
僕はもともと「モンスターファーム」や「バーコードバトラー」のような、現実世界のものを読み込んでキャラクターにする仕組みが大好きで。ペットを飼っている人のカメラロールには絶対に写真がある。カード化すれば、ポジティブな気持ちで振り返れるし、亡くなった子の写真もXに載せて、素直に「かわいい」と言ってもらえるんじゃないか。そう提案したら、開発チームがすぐに作ってくれて、あっという間にリリースまで持っていってくれました。
――電通は、最初からプロジェクトに参加していたのでしょうか。
山西: はい。元々は「野田さんとGeminiで何か面白いことができないか」というGoogleさまの広告案件として始まりました。本来は野田さんがバイブコーディング(AIにコードを書かせる開発手法)に挑戦する動画企画でしたが、その中で作ったゲームの出来が良かったので「体験できるようにしよう」と公開したら、ものすごい反響があったんです。
初日130万アクセス「バズるほど赤字」の裏側
――公開初日に130万アクセスを集めた一方、すぐに一時停止となりました。裏側では何が起きていたのでしょうか。
野田: 実は、バズった時は当時最新のモデルをAPIの従量課金で使っていました。バズるほど出費が重なる状態だったので一回止めたんです。
再公開版はコストを抑えるためにモデルのバージョンを下げて運用しましたが、どんなにいいプロンプトを書いてもモデルの性能にはかなわず、クオリティは少し落ちていた。
ただ「このスピード感なら、半年以内に(現時点の)最新モデルがCanvas(Geminiで作ったサービスを一般公開できる機能)上で無料になるんじゃないか」と考えました。一か八か、それを待っていたら現実となったので、今回のリニューアルに踏み切りました。
山西: 初日で一時停止になったトラウマから「1人3枚まで」のコスト抑制案もありましたが、「ペット愛をいかに爆発させるかという体験だから」という野田さんのこだわりで、何回でも生成できるようになっています。
ジェネレーターから「ゲーム」へ
――リニューアル版「うちのこカード伝説」と旧版との違いを教えてください。
野田: これまでは「ゲーム」と言いつつ、ジェネレーターの一面しかなかったのですが、今回はちゃんと世界観やストーリーがあります。飼っているペットが異世界ファンタジーに入り込み、自由気ままに生きているだけなのに、向こうの世界ではいつの間にかいろんなことを解決して、伝説が生まれていく。その一部始終を飼い主が見守るように切り取る――だから「うちのこカード伝説」です。その世界観をカードイラストの背景などにしっかり盛り込んでいます。
――カードイラストをAI生成する上で何を工夫されましたか。
野田: そこのチューニングは電通さんが本当に得意で。(元の写真に写るペットが)どんなポーズを取っていてもなじむような背景を生成してくれます。
山西: 大事なのはプレイヤーに「どのような体験をさせたいか」です。ただペットの写真がデフォルメされて「トレーディングカードっぽく」なるだけではなく、現実のかわいいポーズのままファンタジー世界に送り込まれた感じがする。そこにこだわりました。
カードのレアリティごとの背景や、カード固有の能力「スキル」の内容も、野田さんが設定した世界観を基に議論し、プロンプトを作り込んでいます。
AIが毎回、物語を作る「レイドバトル」
――機能面の目玉は、AIを使った「レイドバトル」ですね。
野田: シンプルなものは旧版にもあったんですが、どうせやるならAIを活用した「毎回違う」バトルができたら面白いなと。ゲーム制作をやってきた身として難しいだろうと思いつつ、何とか実現してもらいました。
それと、色々な人と一緒にボスを倒すという体験を作りたかった。前回バズった時、プレイヤーの皆さんがSNSにたくさん写真を上げてくれたんです。だったら「よその子」と一緒に戦えたら面白いだろうなと。
すごいなと思ったのが、「うちの子」と「よその子」を合わせた3体でボスを倒すと、ご褒美としてその3匹が1枚に収まったカードがもらえるんです。カバと鳥と犬でも、どの組み合わせでも。初めて見た時はびっくりしましたね。
山西: バトル自体もユニークです。「AIでしか作れない体験を作りたい」が出発点なので、ターン制ではなく、カードの内容をAIが読み取り、その場でオリジナルのストーリーを展開します。ビビりな子は戦わずに隅っこでビビっていたり、寝てしまったり、ボスになつく展開すらある。仲良くなったら、ボスも一緒に入ったカードが出ます。こういう体験をたくさん詰め込みました。
――生成の待ち時間には、AIがペットを褒めてくれる機能もあると聞きました。
野田: あれは評判が良くて。LLM(大規模言語モデル)って褒めるのがうまいんですよ。今回はレイドバトル中に、ペットの動き一つ一つを何でも褒めてくれる「実況」が付きます。高速に生成できるモデルが無料で使えるようになったので実現できました。
山西: 画像生成には時間がかかるので、その間もテキストで褒め倒してくれます。待ち時間も楽しい体験にしたい、という発想から生まれた機能です。
野田さんがモック開発、電通が実装
――今回の開発における野田さん、Google、電通の役割分担を教えてください。
野田: 僕は最初のアイデア出しとモック開発の担当です。その後は基本的に山西さん中心に電通チームが仕上げてくれました。Googleさんにはスポンサーとして関わってもらっています。聞いた話では、旧版は「Canvas」を使ったサービスの中でもダントツでユーザー数が多かったそうです。
山西: 野田さんとは週次で会議をしており、自らレイドバトルのプロトタイプを持ってきてくださったこともありました。
野田: 自分でモックを作った時にAIの威力を感じました。金魚のカードは本物の金魚みたいにフィールドをスイスイ動くといったような、細かい動きも再現できて、すごいなと。
あとは電通さんが作ったものをプレイして、バグやUI/UXのフィードバックをとにかく投げまくりました。もう山西さんという超高性能なエージェントにプロンプトを投げているみたいな感覚でしたね。
山西: 私たち自身も「AIでどんな体験が作れるんだろう」と考えながら進めていたので、生成されたカードを見て「これができるなら、こっちも」と発想が広がっていく。ものすごくアジャイルな開発工程でした。
ローンチ後もSNSの反応を見ながら随時話し合い、こっそり更新して、実はある日から品質が上がっている――そんな「サイレント更新」を続けると思います。
Canvasの限界に挑戦 Google Cloudも活用
≪――フロントエンドはCanvasとのことですが、カードのデータ管理などバックエンドはどのように実装していますか。≫
野田: まず、開発し始めるまでCanvasをなめてました。(始めてみたら)「ここまでできるんだ」って思って。このゲーム以上Canvasを活用できている人はなかなかいないんじゃないかな。
※注: CanvasではHTMLやCSS、JavaScriptベースのWebページだけでなく、ゲームも開発可能。またその中に画像生成などのAI機能を組み込むこともできる。
山西: ただ、さすがにCanvas単体ではカードのコレクション機能などを実装できるほどの機能はないので、Google Cloudのバックエンドにつないでいます。「Cloud Run Functions」(マネージドの関数実行環境)でオーケストレーションし、データは「Google Cloud Storage」に保存しています。
ログイン機能も工夫しました。インディーゲームの開発・運用体制で個人情報を保持するのは難しいので、メールアドレスは預からず、ユーザー名とパスワードだけにしました。すると「パスワードのリセット機能をどう実装するか」という問題が出てくる。そこで、データベースに残っている生成済みカードのIDとユーザー名を照合して「鍵」にする機能を思い付き、実装しました。
AI生成の不確実性とどう付き合うか
――開発で特に苦労したポイントを聞かせてください。
山西: AIが生成するゲーム体験は、自由度が高い反面、安定性の確保がすごく難しい。ペットのポーズや世界観、カードのフォーマットをいかに維持するか。トライ&エラーで作るしかありません。
そのために、カードの品質を確認するアプリも自作しました。ゲームの方で何百枚もぽちぽち試していたら気力が持たないので、色々な動物、絵の構図のパターンを一気に入力して検証しています。
また、絶対に避けなければいけないのが、(他社が権利を持つ)既存キャラクターの生成です。IP(知的財産)系のルールはしっかり守るようにしています。
野田: そういった点は気を付けつつも、あくまでインディーゲームとして開発したいです。大規模なゲームにAIを導入しようとすると、不確定なことが多すぎて何もできないんですよ。「変なバグが出ちゃったらしょうがない、でもやってみよう」という姿勢だから、(ゲームにAIを組み込むといった)挑戦的なアプローチが取れたんだと思います。
動画でインタビューの続きをお届け予定
ITmediaの動画専門媒体「TechLIVE」にて、今回のインタビューの延長戦をお届けする予定です。ゲーム開発やジム経営など、芸人以外にもさまざまな活動をされている野田クリスタルさん。その企画の哲学や、進化するAIへの向き合い方を深掘りしました。
近日中に公開予定なので、ぜひYouTubeでチャンネル登録をしてお待ちください。
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