Innovative Tech(AI+)
コンピュータの“廃熱”で計算するシリコン構造体 米MITが設計を発表 電気不要、AI基本演算で精度99%
Innovative Tech(AI+):
2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」。ここではその“AI編”として、人工知能に特化し、世界中の興味深い論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X: @shiropen2
米MITに所属する研究者らがPhysical Review Appliedで発表した論文「Thermal analog computing: Application to matrix-vector multiplication with inverse-designed metastructures」は、電子デバイス内の余剰熱を電気の代わりに利用して計算を行えるシリコン構造体を設計した研究報告だ。
この技術では、データはデジタルの0と1ではなく、デバイス内にある廃熱を利用した温度の分布として入力される。入力された熱が、特殊な形状に加工されたシリコン構造の中を伝わり、拡散していくプロセス自体が計算処理の役割を果たす。反対側に到達した熱のエネルギーを測定することで、最終的な計算結果が出力される仕組みだ。
これは、連続的な物理量を用いて情報を処理するアナログコンピューティングの一種といえる。
シリコン構造体は、内部に微細な気孔が配置された長方形の形状をしている。その設計には、求める計算機能を先に定義し、アルゴリズムが最適な形状を反復的に導き出す「インバース・デザイン」という手法が用いられている。
技術的な壁として、熱は高いところから低いところへ移動する性質上、正の数値しか計算できないという制約があった。研究チームは今回、計算を正と負の成分に分けて別々の構造で処理し、後から引き算をすることでこの課題を克服した。さらに構造体の厚さを調整することで、より多様な行列の表現も可能にしている。
研究チームは、大規模言語モデル(LLM)をはじめとする機械学習の基本的な数学処理である「行列ベクトル積」を、この熱構造を用いて2列または3列の単純な行列のシミュレーションで検証し、多くのケースで99%以上の精度で実行することに成功した。
一方で、深層学習のような大規模な計算に応用するには課題が山積している。何百万もの構造体を敷き詰める必要があるうえ、行列が複雑になるほど精度は低下する。
ただし、余分な熱をそのまま利用するという特性を生かせば、すぐにでも活用できる分野がある。例えばチップ上の意図しない発熱源の検出だ。温度の偏りは熱膨張を引き起こして回路を壊し、デバイス全体を故障させる恐れがある。このシリコン構造体を使えば、デジタル部品や追加のセンサーを必要とせずに、そうした危険な熱源を直接検出できるという。
Source and Image Credits: Silva, C., & Romano, G.(2026). Thermal analog computing: Application to matrix-vector multiplication with inverse-designed metastructures. Physical Review Applied, 25, 014073. https://doi.org/10.1103/5drp-hrx1
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