第16回 他者は私を映す鏡ストレスと上手に付き合うための心の健康

イライラさせられる人は「自分を映す鏡」ととらえる。人間関係のストレスに備え、対話式チェックで役立つ言葉を見つけておこう。

» 2006年09月13日 07時05分 公開
[ピースマインド 田中貴世,ITmedia]

ビジネスパーソンが常に向き合わなくてはいけない“ストレス”。ピースマインドのカウンセラーが、毎回関連した話題を分かりやすくお届けする。危険信号を見逃さず、常に心の健康を維持していこう。


私の外側の世界、内側の世界

 「どうして上司は私のことを理解してくれないのか」「なぜ取引先は、困難な要求ばかり次々といってくるのか」「そんなこと、無理に決まっているだろう。少し考えれば分かるはずなのに!」

 自分の周りにいるのが、配慮のない無理解な人ばかりに思えるときはありませんか。仕事がしにくいばかりでなく気持ちも沈み、意欲の低下が著しく、本来の自分の力が発揮できないと感じることでしょう。「私はこの仕事をやり遂げたいと思っているのに、他者や労働環境がそれを阻害する」。そう感じたとき、あなたはどのような言動を取るでしょうか。

 ゲシュタルトセラピーでは、人の心と行動の不自由さの原因を「接触境界の機能不全」ととらえています。接触境界というのは「私」と「私以外のもの」を隔てる境界のことです。接触境界がゆがんでいると、自分の外側の世界と内側の世界は、自由で創造的な交流を持てなくなってしまうのです。

 「どうせ誰も自分のことを分かってくれない」。そう感じて心を閉ざし、他者との会話を拒否して自分の世界に閉じ込もってしまう。そうすると、ますます理解されない状況を自らつくり出し、他者との溝を深める結果になってしまいます。

 外の世界と接触しているときに活用している感覚器官を閉ざし、見えているし聞こえているのに脳には届かないという、外界を認知しない状態になります。その意味でいえば、眠りはもっとも純粋な引き込もりの状態といえるでしょう。眠りと覚醒の繰り返しも含めて、人は外の世界と接触している時間と引き込もっている時間をリズミカルに繰り返している状態が、健康でバランスの良い状態といえると思います。

 
編集部からのお知らせ
来る9月30日(土)、オフラインイベント「@IT自分戦略研究所 MIX」を開催します。本連載の筆者である田中貴世さんも出演。皆さまのご参加をお待ちしています!

 前回のコラム「『ひとり』でいる自分はダメ人間なの?」で、「ひとりの世界にとどまり、自分と深く出会うこと、内なる声に耳を傾けることも必要」と書きました。今回は「他者との深い出会い」によって自分本来の力を発揮し、ストレスの多い外界に働き掛けていくことを考えてみたいと思います。

他者は私の鏡

 「小さいミスもネチネチと指摘するこの上司と仕事をするようになってから、自分は大ざっぱな性格だったのかなと気付いた」「転職してみて、それまでの会社で常識だったことが通用しないと分かって戸惑った」「結婚して初めて、相手との価値観の違いを知った」。こんな驚きは、あなたの身近にもあるのではないでしょうか。

 人は、それまでの経験や体験を通し、新しい出来事に対応しながら生活をしています。その柔軟さは、人が生きていくために備わった力です。ただ時には、許容範囲を超えた大きな変化や、ストレスに出合うこともあります。それが人の形をしていることもあります。

 「えっ、私ってこの人のようにおっとりした人といるとイライラするんだ」「おれは大きな声で威圧的に物をいう上司の下では委縮してしまうのか」。そんなふうに、相手を「自分を映す鏡」ととらえてみましょう。

 環境もまたしかり。「自分は、1人で仕事をする環境の方がやりやすい」「私はチームで仕事する方が作業がはかどる」「私は、納期に追われ焦りの気持ちがある環境(外界)では良い仕事ができないと感じる。自分の内面に引き込もり、自分の声に耳を傾けるとそれが分かる」

 こういったやりとりが、外界との接触と引き込もりをリズミカルに、自由に繰り返している状態です。このことを理解したら、次のステップ「外界へ働き掛ける」ことを考えてみます。

 その前に、心理行動面の領域に焦点を絞り、あなたのストレスを「新ストレス評価指標」を使ってチェックしてみましょう。

新ストレス評価指標(出典:東京都健康づくり推進センター)
各質問について、当てはまる番号に○を付けてください。 まったく当てはまらない あまり当てはまらない やや当てはまる とても当てはまる
1.特に困ったことはないが、何となく焦燥感がある 0 1 2 3
2.こんなはずではないのにという思いがある 0 1 2 3
3.人と比べてどうもついていないような気がする 0 1 2 3
4.他人のしていることがとても気になる 0 1 2 3
5.何となく不安な気持ちが取れない 0 1 2 3
6.毎日の生活に充実感がない 0 1 2 3
7.いつも何かにせかされているような気がする 0 1 2 3
8.自分にはもっとすべきことがあるような気がする 0 1 2 3
9.周りの状況に流されて行動することが多い 0 1 2 3
10.本当の感情が自分でもはっきりしない 0 1 2 3
11.自分のすることに自信がない 0 1 2 3
12.倦怠(けんたい)感があり、気力がない 0 1 2 3
13.物事を悲観的に考えやすい 0 1 2 3
14.生きがいがない 0 1 2 3
15.ため息をつくことが多い 0 1 2 3

 当てはまる数字を合計してみてください。何点になりましたか。

言葉は私に力を与えてくれる

 さて、このチェック結果を踏まえて「対話式チェック・フローチャート」を試してみましょう。このフローチャートは、あなたと他者との接触を必要とする形になっています。できれば身近な誰かを相手に、言葉のやりとりをしながら進んでください。どうしても相手役が見つからないときは、一人二役で声に出してやってみることをお勧めします。レッツ・チャレンジ!

「対話式チェック・フローチャート」 0〜23点の場合(クリックで拡大します)
「対話式チェック・フローチャート」 24〜45点の場合(クリックで拡大します)

 自分の身近にいる人、信頼する人と、フローチャートに沿って会話してみる。もしくは一人二役で声に出してみる。言葉を媒体に外界接触をしたことによって、自分の内側に起こったことを見つめてみましょう。何か、生活の中で活用できそうな言葉が見つかったのではないでしょうか。

 ストレスを感じたとき、その言葉を活用してみてください。

ITエンジニア、Mさんの場合

 IT エンジニアのMさんは、自分のライフスタイルを大切にする人でした。しかしそんなMさんが転職した先は、スタッフにサービス残業を遠回しに強制する職場だったのです。上司はあからさまには指示しませんが、次々と仕事をいいつけ、スタッフは全員自主的に23時まで会社にいることが普通になっていました。

 仕事を断ることに罪悪感を持ったMさんは、「仕事以外の時間や家庭を大切にしたい自分」と、「上司や周りのスタッフにどう思われるかが気になって23時まで勤務してしまう自分」との間で葛藤(かっとう)を起こすことになりました。

 やがてMさんは抑うつ感を覚え、病気休暇を取ります。本来は休むことで自分を安全な状態にし、立て直しを図るはずでした。しかし、休んでいる自分を「逃避している」と思うと、また許すことができませんでした。

 Mさんはカウンセリングを受け、その中で自分のためにある言葉を見つけます。それは「量より質」でした。「何時間残業したかという『量』じゃない。仕事の『質』を自分で認める」。そう思って仕事に向かい合うようになってから、これまでのように無理に残業することもなくなり、「どんなに小さいことでも、できなかったことができるようになるのが楽しい」と思考するようになりました。

 職場でも居心地が良くなったことはいうまでもありません。

 「お先に帰ります」と周囲に声を掛けて、20時には退社するようになったMさん。「先日勤務体制が変わり、6日出勤、2日休みになりました。休みの日の曜日が少しずつずれてしまうのですが、平日休めるのも映画館が空いていていいですよ」と笑っていました。

内側の力に気付く

 対話式チェック・フローチャートを試してみて、「私」を主語にしていま感じていることを言葉にするのは難しいと思った人はたくさんいると思います。これは日ごろの自分の殻を、破らないまでもちょっと変化させる経験です。

 あなたもMさんのように自分のための言葉を見つけ、実際に使ってみてください。自分の内側の力に気付くことができると思います。

※本記事は「@IT自分戦略研究所」に掲載されたものを再掲載したものです。

筆者プロフィール ピースマインド 田中貴世

シニア産業カウンセラー、 日本産業カウンセラー協会認定キャリア・コンサルタント、日本オンラインカウンセリング協会認定オンラインカウンセラー、 家族カウンセラー協会認定家族相談士。子育て相談、保育士人材育成の仕事在職中にカウンセリングを学び資格を取得。転職支援センターのキャリアコンサルタントを経て、現在ピースマインドでカウンセラーを務める。職場のメンタルヘルス、キャリア、家族関係、夫婦問題とカウンセリング分野は幅広い。「カウンセラーは相談者の伴走者」と考え、「出会い」「気付き」の中に生まれるエネルギーに心動かされる日々だという。なお、ピースマインドが提供する「ストレスCheck」を@IT自分戦略研究所で試してみることもできる。


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