1人で仕事を抱え込み泥沼にはまってしまう前に、身近な誰かに電子メールで相談してみよう。書き方のポイントも紹介します。
ビジネスパーソンが常に向き合わなくてはいけない“ストレス”。ピースマインドのカウンセラーが、毎回関連した話題を分かりやすくお届けする。危険信号を見逃さず、常に心の健康を維持していこう。
いろいろと環境変化の多い時期である4月から、4カ月が過ぎようとしています。
異動、上司の異動、仕事を共にするスタッフの変更、客先の担当者の変更、社長の交代など職場環境に変化があった人もいるでしょう。そうでなくても、例えば子どもの入学、進学、就職など、周囲の人に変化はありませんでしたか。
そんな時期から4カ月が経ったこのごろ、心の体力がダウンしてしまい、カウンセリングを利用する方が増えています。変化に自分を適応させようとして、神経も体力もすり減らしてしまったからでしょうか。
「人付き合いが苦手な性格だということはよく分かっているんです。でも仕事は好きだし、実績も挙げてきました。トップクラスの成績を収めた経験からの自負もあります。それなのに、人の輪に入ることが苦手だからといって『契約を打ち切りにするよ』などといわれると、落ち込んで仕事への意欲も低下してしまいます」
自分の好きなところは「コツコツ物事に取り組めるところ」というLさんが、カウンセリングという未知のドアをノックしたのもこの時期でした。「人との何げない会話ができない。人の輪の中に入っていけない自分はダメな人間なんだ」。Lさんはそう思い込んでいました。
保育園や幼稚園、小学校などで集団生活を始めたころ、先生や親など周りの大人たちからこんな言葉を聞いた覚えはありませんか。「お友達はできた?」
学校の黒板に書かれたメッセージは「お友達と仲良く」「お友達をたくさんつくろう」だったのではありませんか。学校では友達が多いほど良いとされ、仲間はずれにされる子どもは価値がないように思われる。そんな評価基準がありませんでしたか。
表面的には「個の尊重」が唱えられながら、仲間はずれにされないように神経を使わなければならない。そんな同調圧力(ピア・プレッシャー)の中で子ども時代を過ごした人たちは、「ひとりはみじめ」という声なき声を知らないうちに感じ取り、心の中に置いています。もし自分が「ひとり」や「仲間はずれ」になるようなことがあれば、「友達のいない自分は価値のない存在」と自己否定感を持ってしまいます。
片や「個性的であれ」というメッセージを受け止めて生きている人の中にも、「もっと自分は変わらなくちゃいけない」「自分らしく生きるためにはこうすべきだ」と、無理に結論を出そうとする人がいます。
現代社会には「個性的であれ」「自己実現を目指そう」とのメッセージがあふれています。そのため個性的な人になろうとして、自分と他者を差別化し、頑張りすぎてしまう人がいるのです。個性的であることが難しいことだからこそ、それを実現している人にあこがれや称賛、またはやっかみの視線が向けられるのではないでしょうか。
先日、サッカーのワールドカップ日本代表選手、中田英寿氏の29歳での現役引退がありました。「個性的に生き、明確に自己主張できる人」と多くの人から認識されている中田氏の引退メッセージを読んで私が感じたことは、「自分を支えるコミュニケーションの方法は、対面の対話だけではないんだな」というものでした。中田氏がほかの日本代表選手に伝えたいと望んできたことは、中田氏のプレーや、練習や試合に向けての姿勢を通して多くの人に伝わっていたのだと感じたからです。
個性とは本来、他者との違いを意識してつくるものではないと思います。むしろ、自分を深めることによっておのずと発現してくるものだと思うのです。個性を生かすとは、人と違う自分になることによって「個性的な自分」を演じることではなく、たとえ見た目は平凡でも、自分らしい生き方を慈しみ、深めていくことで可能になるのだと私は思っているのです。
そのためには、自分の心の中の他者が消えて解放され、心の深いところからの自分の声を聞く時間を持つことが大切になります。
自分の心の深層から聞こえる内なる声。その声に耳を傾ける時間。そのときあなたは「ひとり」か「心を許せる友人やカウンセラーと2人」なのではないでしょうか。
Lさんがカウンセリングの場で自分の心の中に耳を澄ますと、いろいろな声が聞こえてきました。
私は仕事が好き。私は仕事が平均以上にできる。
私は人付き合いのことでとやかくいわれたくない。私は人付き合いが苦手なのであって、人付き合いが嫌いなわけではない。
私は人事権のないAさんにとやかくいわれたくない。Aさんにとやかくいわれると、私はくやしい気持ちになる。私はくやしい。くやしい気持ちを感じている私は、悲しい。「ああ、私は悲しいんだ」
ひとりでいることを否定的に思うのではなく、「ひとりでいることを選んでいる自分」として受け止めてみましょう。そんなとき、あなたは自由で柔軟でいられるはずです。「悲しいなんて感情は、職場では持ってはいけない」という不自由な縛りから自由でいることです。「くやしい、悲しい」という自分の内なる声を Lさんが受け止めたように。
ひとりでいられる人と、ひとりでしかいられない人には違いがあります。ひとりになって自分と向き合える人は、自分と対話するモードと他者と対話するモードの両方を備えています。そのチャンネルを自分の意思で切り替えることができるようになるのです。自分と深く対話することができ、他者との対話もできるようになります。
「人間関係の基本原則は、自分と深く出会うことができなければ、他者との深い出会いもない、ということです」と『「孤独」のちから』(海竜社刊)で諸富祥彦氏は書いています。
煩わしい人間関係、人事権のない人からの不快な言葉、「仕事で成果を出せ、出さないうちは認めてやらんぞ」という誰かの声。それらの雑音をシャットアウトして自分の時間を持つようになったLさんは、自分の深層からの声を聞くことができるようになりました。繰り返し自分の声を聞いているうちに、「自分はどうすることを望んでいるのか」「どうしているときに幸せと感じるのか」が見えるようになっていったのです。
「私はこの職場で、自分のやりたい仕事をします。Aさんの言葉は気にしません。人の輪の中に入ることができなくても、自分の仕事に支障はないのです。職場のBさんは気持ちのよい人なので、Bさんには話し掛けることもできます。Bさんと話しているときは楽しいです。
話したい人と話し、仕事に必要な会話はほかの人ともして、きちんと仕事をする。それができるうちは、いまの職場にいるつもりです」。それが、Lさんが自分で出した「いまの結論」でした。
ひとりになる時間は、Lさんの内にあった「自分で決める力」をわき出させるための呼び水になったのでした。
自分探しは恋人探しに似ていると思います。失恋を繰り返して、自分と相性の良いパートナーを探す様子が似ています。最初にあなたの目の前にいるのは、親が決めたいいなづけ(親の価値観)です。あなた自身が人生経験を積みながら、自分自身にとって心地よいパートナーを見つけてゆく(自己価値の発見と自律)過程に、実は人生の醍醐(だいご)味があるのです。
人生は長い旅です。人は発見や気付き、出会いの喜びがあるからこそ、歩いてゆくことができるのだと私は思っています。そしてそれは、あなたにも起こることなのです。
シニア産業カウンセラー、 日本産業カウンセラー協会認定キャリア・コンサルタント、日本オンラインカウンセリング協会認定オンラインカウンセラー、 家族カウンセラー協会認定家族相談士。子育て相談、保育士人材育成の仕事在職中にカウンセリングを学び資格を取得。転職支援センターのキャリアコンサルタントを経て、現在ピースマインドでカウンセラーを務める。職場のメンタルヘルス、キャリア、家族関係、夫婦問題とカウンセリング分野は幅広い。「カウンセラーは相談者の伴走者」と考え、「出会い」「気付き」の中に生まれるエネルギーに心動かされる日々だという。なお、ピースマインドが提供する「ストレスCheck」を@IT自分戦略研究所で試してみることもできる。
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