「自信がなくていえない」「自分のことしかいわない」どちらもやめにしよう。自分も相手も大切にする自己表現をしよう。
ビジネスパーソンが常に向き合わなくてはいけない“ストレス”。ピースマインドのカウンセラーが、毎回関連した話題を分かりやすくお届けする。危険信号を見逃さず、常に心の健康を維持していこう。
物静かで思慮深いEさん。職場でも物事にはじっくり取り組むタイプです。ところが2年先輩のせっかちさんは、何かとEさんの仕事に口を挟んできます。
「昨日上司から話があった件は、Aプランにしておけ」「お前のことを思っていってやっているんだぞ」。そうせっかち先輩にいわれると、EさんはBプランで進める予定だったにもかかわらず「多少の不都合があるだけだ、まあAプランでもいいか。先輩は私のことを思っていってくれているのだから、断るのも悪いしなぁ」と思ってしまいます。結果的に、いつもせっかち先輩の指示に従う形になっていました。
「従うもの」「従わせるもの」の関係が影響して、いつの間にかせっかち先輩の仕事を押し付けられ、仕事量は増えるばかりです。「何でこの業務まで私がやらなくてはならないのか」と思いながらも、つい笑って引き受けてしまう自分がいます。Eさんは自分の感情と言葉が違っていることに嫌悪さえ覚えるのでした。
人と人との関係において1つのパターンが出来上がってしまうと、きっかけがない限り変化させづらいと感じることがあるでしょう。
この状態は自分にとって窮屈で居心地が悪い。仕事がしにくく、残業が続き、心身の不調を感じるまでになっているのに、どうしていいか分からない。そんなあなたに試してみてほしいことがあります。それがアサーティブコミュニケーションです。
「アサーティブ」とは、「いいたいのにいえない」自分から、「いえるけれどもいわない」自分になることです。自分の意思で「いう」「いわない」ことを選択できる自信を持ち、いざというときの選択力をつけることなのです。自分の意思で選択した行動を、他人とのコミュニケーションの場で実行する。それがアサーティブコミュニケーションです。
そのためには、「いう」「いわない」を選択するときの自分の感情に気付き、状況を判断し、「いう」ことを選んだときには、その伝え方を検討する必要が出てきます。
人との心地よい交流に必要なものは、「自分も相手も大切にする自己表現」です。
私がアサーティブコミュニケーションを知ってほしいと思う人は、「自分の立場が弱いから」「自分の方が仕事が遅いから」といった比較の点で自己否定的になり、「自己表現がうまくできない人」。また逆に「私は上司だから、部下が指示に従うのは当たり前」「君はまだ未熟で私に守られる身なのだから、これぐらいの無理は聞きたまえ」といった意識的、無意識的な思いを持ち、「自己主張が強すぎて相手に無理強いするような言動をする人」です。
つまり、Eさんにもせっかち先輩にも知ってほしいのです。
アサーティブになるための「アサーショントレーニング」では、自己表現を以下の3つに分類しています。
1.非主張的な自己表現
自分の意見や考えを表現しなかったり、表現するチャンスを逃してしまうことです。沈黙していたり消極的な態度を取ったり、あいまいないい方、いい訳がましいいい方、自己否定的で依存的(判断を相手に委ねる)ないい方、服従的ないい方をしたりするので、相手に自分の気持ちが伝わりません。
このような自己表現は、自分を抑え、相手を立てているように見えますが、実は自分を否定し、自分に対して不誠実、相手に対しても素直でない態度といえます。この自己表現を行うと、相手の承認を期待し、恩着せがましい気持ちが芽生えやすくなります。その割に相手に気持ちが伝わらず、結果として欲求不満やストレスがたまった状態になります。
2.攻撃的な自己表現
自分の考えや気持ちははっきりいいますが、相手のいい分や気持ちは無視し軽んじる過剰な自己表現です。自分本位で他者否定的、操作的、支配的です。一方的な言動で自分の優位を保とうとすることです。
攻撃的な人は、相手が自分と違うことへの不安、相手に逆らわれることへの恐れ、相手ときちんと話ができない不器用さなどを抱えていることが多いのです。相手との相互尊重ができないため、人との関係が長続きしない傾向があります。
3.アサーティブな自己表現
自分も相手も大切にしようとする自己表現で、自分の意見や考えを正直に、率直に、その場にふさわしい方法で表現することです。自分に自己表現の自由があるように、相手にも自己表現の自由を認めます。意見や価値観が違うときは、100%譲るのか、50%で妥協するのか、話し合うのをやめるのかの判断も含めて、自分の責任で行うことができる表現方法です。
アサーティブコミュニケーションの基本は、「自分の気持ちや考えを素直に、正直に表現してみること」です。そのためには以下のことが必要です。
1.自分の気持ち、考えを正確にとらえる
自分がその状況で何を考え、感じているか、何を表現したいのかを正確にとらえることが必要になります。自己表現にうそやごまかしがあると、相手に真意が伝わらないばかりか、自分をも欺くことになります。結果、話し合いは混乱し、あいまいで不本意な結論になりやすいのです。それを避けるために大切なのは、「私は」を主語にして伝えること。「しないでくれ」ではなく、「してほしい」と伝えることです。
<例>
「早くして!」→
「私はあなたに急いでほしい」
「どうしていつも仕事を押し付けるんです!」→
「私は、あなたの仕事は自分で処理してほしい」
「うるさい! そんな大きな声でなくても聞こえるよ」→
「私はあなたの声をうるさく感じている」
「私はあなたにもう少し静かに話してほしい」
「私はあなたの話は聞きたくない」
2.周囲の状況や相手を客観的に観察する
自分にも相手にも分かる事実に目を向け、感情的にならずに冷静に、相手に分かるように状況を伝えましょう。そのためには客観的な事実が説得力を持ちます。状況と相手をよく観察してみましょう。相手も納得できる事実を伝えることで、お互いに共有できる話し合いの基盤ができます。
3.自分の要求や希望を明確に表現する
自分の考えが理解でき、状況の客観的観察ができたら、自分の要求や希望をできるだけ具体的に提案してみましょう。提案には、相手の返事に合わせた選択肢をいくつか用意しておくことも必要です。提案は結論ではなく、新たな話し合いのスタートであると考える柔軟性も必要です。
4.言葉以外のメッセージも活用する
アサーティブな自己表現には、言語表現と非言語表現の両方が必要です。明確な言語表現があっても、「下を向いていて声が小さい」「怒りをぶつけるようないい方をする」「笑いながら話す」のように伝えたい内容とアンバランスな表現方法だったり、相手が受け止められないほど強い表現だったりすると、あなたの思いが伝わりません。
以上のことを踏まえ、Eさんができる行動を考えます。まずはEさんの気持ち、周囲の状況をまとめてみましょう。
Eさんの気持ち、考え:
Eさんの希望:
周囲の客観的な状況:
Eさんの気持ちと周囲の状況が分かったら、提案内容と伝え方を考えてみましょう。
提案:
伝えるときのポイント:
ここまで考えても、最終的な「いう」「いわない」は、Eさんが決められるのです。それがアサーティブな自分でしたね。
ここまで読んできたあなたの心に、Eさんを応援したい気持ちがわいてきませんか。あなたがせっかち先輩の側にいたら、Eさんの言葉を真剣に聞こうと思ってくれるでしょうか。
相手とのコミュニケーションに行き詰まりを感じているあなた。うまくいっていることはそのまま続けましょう。うまくいっていないことがあれば、何でもよいから新しいことを試してみましょう。それでうまくいったら続けてみましょう。
あなたは、アサーティブコミュニケーションを試してみようと思いましたか。
シニア産業カウンセラー、 日本産業カウンセラー協会認定キャリア・コンサルタント、日本オンラインカウンセリング協会認定オンラインカウンセラー、 家族カウンセラー協会認定家族相談士。子育て相談、保育士人材育成の仕事在職中にカウンセリングを学び資格を取得。転職支援センターのキャリアコンサルタントを経て、現在ピースマインドでカウンセラーを務める。職場のメンタルヘルス、キャリア、家族関係、夫婦問題とカウンセリング分野は幅広い。「カウンセラーは相談者の伴走者」と考え、「出会い」「気付き」の中に生まれるエネルギーに心動かされる日々だという。なお、ピースマインドが提供する「ストレスCheck」を@IT自分戦略研究所で試してみることもできる。
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