マネジャーに不可欠なロジカルシンキングとは?

ロジカルシンキングとコミュニケーションは、全く別のものだと思っていませんか? マネージャーにとって不可欠なスキルであるこの2つの概略を考えてみましょう。

» 2006年09月14日 11時31分 公開
[プライスウォーターハウスクーパースHRS パートナー 山本紳也,ITmedia]

 ロジカルシンキングとコミュニケーションというと全く別の2つのスキルだと思っていませんか? それは大きな間違いです。この2つはセットで初めて威力を発揮するのです。共にマネジャーにとっては不可欠なスキルです。もっというと、優秀なマネジャーとはロジカルシンキングに長け、それを伝えられる人です。

“口がうまい人”になる前に

 コミュニケーションが上手な人は口がうまい人と思われていないでしょうか? 確かに、恥ずかしがりやで人前で話せない、あがり症で人前では頭が真っ白になってしまうという人は、自分の思いをうまく伝えられないかもしれません。それにはそれでトレーニングが必要でしょう。でも、必ずしも、口がうまい人、よくしゃべる人が相手に何かを伝えるのが上手なわけではありません。当り前の話ですが、相手に何かを伝えようと思うと、まず自分がちゃんと伝えることを理解できていなくてはなりません。まずは、伝えるより、ちゃんと整理して理解することが先です。それがまさしくロジカルシンキングです。

 過去を振り返ってみてください。あなたにとって、良い上司、分かりやすい上司とはどのような上司でしたか? 聞き上手で論理思考のできる方ではなかったですか? まさにコミュニケーションとロジカルシンキングでしょう。

 「ロジカルシンキング」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。日本語で言うと「論理思考」ですね。ロジカルシンキングとは決して難しいものではありません。いかに整理して考えるかということです。

上司の仕事の指示の出し方で効率は大きく変わる

 簡単なテストをしてみましょう。あなたは今から買い物に行かねばなりません。たくさん買うものがあるので、忘れないように買い物メモを作ってみます。今晩は鍋です。材料として、ねぎ、白菜、鶏肉、しいたけ、豆腐、ポン酢、ちくわ、そして、忘れてはいけないビール。子供に算数のノートを頼まれました。明日の朝のパン。ゴミ袋もなくなったので必要です。週末用のテニスボールを一缶。牛乳も買ってきて、それから子供のお弁当用に冷凍の肉団子、と奥さんから。頭痛薬も必要です。そして何より重要なのが、お子様の誕生日のケーキ。おっと忘れるところでした。単三電池が8つ必要でした。そうそう、それと風呂場の電球が切れていたので、電球も……。さて、あなたはどのようにメモを作りましたか?

 ただ、出てきた順番にメモした方は、もう少し考えてみてください。どうすればよいのでしょう。食材や文房具、スポーツ用品のように種別に分けた方は、なかなかです。奥さんに頼まれたもの、自分のもの、子供のもの、というわけ方でメモされた方もおられるかもしれませんね。このようにモノを分類整理して考えることがロジカルシンキングのスタートです。

 でも、折角だから便利性や生産性を考えましょう。どうすれば使い勝手が良いでしょう。そう、買い物をする店別にメモを作るのがいいですよね。さらにいうと、スーパーなら入り口から売り場順にメモができていると便利です。このように整理してから買い物をお願いすると、お願いされた方はとても楽だと思いませんか。上司と部下の関係に置き換えて考えてみてください。実は上司の仕事の指示の出し方で効率は大きく変わるものです。これがロジカルシンキングです。

 ロジカルシンキングとは“わかりやすさ”と考えてください。起承転結、5W1Hだってロジカルシンキングです。

ロジックツリーを使って考えを整理する

 では、買い物をした後はどうしましょう? 持ちやすいように整理してバックに入れるのもいいですが、帰ってからのことを考えると、どこに置くか、冷蔵庫のどこに入れるかという片付けることを意識してバックを分けるとよいでしょう。

 なーんだ、そんなことかとお思いでしょう。でも、これは入り口。仕事で発揮しようと思うと、けっこう難しいものです。

 今度は、あなたがレストランの店長だとしましょう。売上を上げるにはどうすればよいかを考えてみてください。メニューに最近人気の料理を加える。子供向けメニューを充実させる。近所にチラシをまく。ビールの割引をする。ポイントカードを作る。デザートメニューを充実させる。などなど、一人で考えても、会議で議論しても色々なアイデアが出てくるでしょう。それをまとめて考えるのも一案です。でも、整理するのも大変ですし、これでは、アイデアに抜け漏れがでてしまいます。

 ロジカルシンキングのツールの1つにロジックツリーという考え方があります。物事を考えるときに、目的や最終ゴールから枝葉を分ける形で整理して考える方法論です。この場合、売上を上げるのが目的ですから、売上を上げるためには、1)顧客の数を増やす、2)顧客の売上単価を上げる、しかありません。では、1)顧客数を増やすためにはどうすればよいか。それは、)顧客のリピート率を上げる、)新規顧客を開拓する、しかありません。では、)顧客のリピート率を上げるにはどうすればよいか。そのためには──というふうに考えていきます。すると、すべての可能性(アイデア)をもれなく考えることができます。

 このように、ロジカルシンキングができて頭の中で課題や方法論が整理できてから部下に指示を出せるマネジャーは、部下から見て分かりやすい、もっというと“できる上司”に見えると思いませんか。ロジカルシンキングは方法論であり、訓練でできるようになるものです。簡単ではありませんが、整理して考える癖をつけましょう。いろいろな既定のロジカルシンキングツールを使ってみましょう。あなたも有能なマネジャーになれるはずです。

筆者:プライスウォーターハウスクーパースHRS パートナー 山本紳也

慶應義塾大学工学部卒業、イリノイ大学MBA修了。メーカー勤務後、外資系人事コンサルティング会社を経て現在に至る。組織人事に関わるコンサルティングに15年以上従事し、近著に『新任マネジャーの行動学』(日本経団連出版)。著書、講演多数。

9月21日に「現場力を引き出すマネジメントの実践」と題したセミナーを実施予定。申し込みはこちら


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