第2次ブラウザ大戦、始まるWeb2.0時代のブラウザ論(3/3 ページ)

» 2006年11月28日 19時02分 公開
[近藤秀和,ITmedia]
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第2次ブラウザ大戦を生き残る条件

 ここまでが簡単な歴史である。

 これらのインターネットとブラウザの歴史を考察してみると、ブラウザの進化はインターネットの進化と密接に関連していることが分かる。ブラウザの進化がWebサイトの表現力を進化させ、Webサイトの量的爆発がブラウザの情報整理力の向上を促してきたのである。

 そのように考えれば、おのずとブラウザの進化の方向性は見えてくる。現在問題となっているのはWeb2.0的なサービスの普及と、それに伴う情報爆発だ。これを、ブラウザの機能的限界またはサービスの複雑さが原因であると仮定すれば、今後のブラウザは、こうした機能的限界や複雑さを補完する方向に進化してゆくだろう。

 例えばブログの普及により、オンラインでのフォーム入力の機会が多くなったと同時に、入力中に誤って戻るボタンを押して文章を消してしまうといった事故も多くなった。それに呼応するように、Lunascape4やOperaなどでは、書きかけの状態でページを移動してしまっても、文章を適切に復活してくれる機能を搭載した(関連記事1関連記事2)。

 また、例えば、P2PやSNSなど、インターネットにおける情報伝達の方向性が一方向ではなくコミュニティ型に進化するのであれば、ブラウザもコミュニティ形成やそこでの伝達をより助けるためのツールになるはずである。2005年〜2006年にかけて爆発的に流行したmixiに対応したブラウザもすでにいくつか出始めている(関連記事1関連記事2)。

 さらに、インターネット上の情報が整理されれば、ブラウザは次にはその表現力、またユーザビリティを磨いてゆく方向性に向かうはずだ。例えば、フルFlashのコンテンツを前提にしたブラウザも登場するだろう。

 Web2.0時代のブラウザは、今までのように同じコンテンツでも全員に同じ表現で見せる必要もなくなり、コンテンツの表現方法はユーザーが決定するようになるだろう。例えばFirefoxの機能拡張である「Greasemonkey」は、適用するとWebページの見た目や機能をブラウザ側でカスタマイズできるようになるが。「ブラウザ側でカスタマイズできる」という、いわばWeb2.0的なプラットフォーム性をより重視したものと言えそうだ。

 これまでも「2ちゃんねるブラウザ」のようなコミュニティ単位のブラウザは存在していたが、今後はこうしたスクリプト言語による簡単な機能拡張によって、SNSやブログなどのコミュニティに応じた情報収集やデータ入力を可能にする機能が必要とされてくる。一般的なサイトを閲覧するだけでなく、仲間内だけで利用するような“ロングテール”なコミュニティにも簡単に対応できるようになるはずだ。こうしたWeb2.0的な拡張性には、何よりもブラウザ開発へのユーザーの参加、そしてそのブラウザがユーザーによって簡単にカスタマイズできることが重要になってくる。

 現在テレビ業界では、HDDレコーダの普及によるCMスキップが問題になっているという。インターネット業界も、「ブラウザ側でコンテンツをカスタマイズできる」ようになれば、テレビの世界で起きているのと同じように、バナー広告やアドセンスすら無効化されてしまう時代がくる事になるのだろうか。そうなると、インターネットビジネスの世界も、大きな構造変革を迫られるようになるだろう。

 すでにブラウザの進化は始まっている。ブラウザは単なる閲覧ソフトの枠を超えて、すべてのインターネットサービスのクライアントを統合した存在となっていくだろう。それも、Web2.0的な方法で──。

 次回以降は、具体的にWeb2.0時代のブラウザとはどうなっていくのか、また、どのようになっていくべきなのか。それを考察する。

筆者:近藤秀和(こんどう・ひでかず)

 1977年生。2002年、早稲田大学大学院卒。ソニー株式会社勤務を経て、2004年にLunascape株式会社を設立、現在代表を勤める。Webブラウザの開発をはじめとするソフトウェア開発を通じて、未来への可能性に挑戦し続けている。情報処理学会 BestAuthor賞受賞(2002年)、Microsoft Fellowship受賞(2004年)、経済産業賞認定天才プログラマー/スーパークリエータ受賞(2005年)、ソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー受賞(同年)。


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