新人たちの「免疫力低下」現象を見過ごしていないか【環境と仲間編】樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

あんなに素晴らしい笑顔だった女性が、数年経つと社内では笑顔を見せなくなってしまうことがある。笑顔は「体力のモニター画面」のようなもの。環境や仲間を上手に使って解決する方法はないものだろうか。

» 2007年12月06日 14時07分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

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 入社した時に、あんなに素晴らしい笑顔だった女性が数年経つと、ほとんど社内で笑顔を見せなくなってしまうことがよくある。笑顔は「体力のモニター画面」のようなもの。笑顔を見せなくなってしまった人は、心や体のどこかに変化、劣化、退化を生じているのだ。入社3年後程度の女性たちがフィットネスに走るのも、本能的に免疫力低下を感じ始めているからではないだろうか。

 男性よりも免疫力においてはタフそうに見える女性の場合も、3年が限度だ。涼しすぎるエアコン、暖かすぎる冬、汚れた社内の空気で体が温度管理できなくなることも理由かもしれない。このあたりは職場環境の“改革”を訴えるしかない。

「人的ネットワーク」が君を支える

 さて、職場というと結局人と人のつながりだ。新人たちが最も陥りやすい現象は、社会に出た後も学生時代までの人間関係を同じレベルで保とうと努力しないことだ。人間関係の広さ、付き合いの幅広さと深さは、免疫力の強さにも関係がある。

 人間関係は相互に努力を継続しないと保つことができない。お互いに忙しさのなかで放置してしまうと、たまたま出会っても何かチグハグな感じを受ける。「あいつ、社会に出て変わってしまった」とお互いに感じるのだ。社会人になってから5年、10年と経過すると、つくづく失われてしまった人間関係を悔やむことになる。

 ただし人間関係に関しては一度失いかけても、一定の頻度で会ったり、電話したり、メールのやりとりをすることで復活も可能だ。そのためには、時間の制約が少ない学生時代とは異なり、時間配分や予定の立て方を工夫しよう。1カ月なら1カ月と期間を区切って、「この間は友人と集中して会う強化期間」と決めるものいいかもしれない。すばらしい人的ネットワークに支えられれば、社会人がこうむりやすい免疫力破壊の影響を最小限に食い止められるはずだ。

 もう1つ、大切なことは多様性の維持である。自分が他人と異なった考えを持っていること。これは自分だけではなく会社にとっても極めて重要な要素であり、それを持っていることは誇るべきことである。会社であるから、自分の意見と異なった結論にも従うのが当然。だが、個人の意見としては元々の意見を保つことだって、免疫力の維持につながるのだ。

否定で削がれる「気力」、研修で伸びない「知力」

 新人たちが持っている真面目で純粋なやる気は、経験豊かではあるが同時に皮肉のこもった先輩たちに否定され、次第に発言する気が削がれていく。

 「どうしてですか」「つべこべ言わずにやれば良いんだよ」――。「つべこべ」とまでは言われなくとも、理路整然と否定されることもあるだろう。いずれにせよ、これが何度も続けば、気力もやる気もなえてしまう。3年後にはほぼ“完成”の域に達して、その時には見事に新人たちをいびる加害者側になるのだ。気力、やる気をなくしてしまうと、質問も出なくなる。同時に好奇心も失う。

 続いて新人の知力を、いくつかの要素で分類してみよう。会社がおおむね評価しているのは大学時代に専攻した知識。専門職であればなおさらだ。しかし、その新人の持つ経験値や考える力、知的好奇心、学生時代の人的ネットワークなどを会社は細かく評価しない。ワンパターンに教えるばかりの研修と実習を進めて行く。

 専攻の知識が活用できる場合はまだ幸運だ。社会人としての経験値は確かに高まるかもしれないが、考える力や知的好奇心は急速に劣化する可能性がある。それは金太郎飴的な研修と現場のワンパターンな知的環境によるものだ。少なくとも筆者はそう感じている。

仕事がトラぶっても「まったく退屈しないなあ」

 苦境に陥ってもユーモアとゆとりを忘れないことは、実は最も重要な要素かもしれない。明けない夜はないし、春の来ない冬はない。苦境の向こうには輝く太陽があることを信じることが大切だ。筆者が尊敬する大先輩は、仕事がトラぶってにっちもさっちもいかない時の最高責任者だった。なかばパニックし、なかば泣き顔だったチ一ムの前で一言、「まったく退屈しないなあ」とポツリ。そのひと言で、全員が笑いだした。チームはそれをきっかけに体制を立て直したのだ。

免疫力低下現象のチェックと対策6カ条【環境と仲間編】

低下現象 対策
第1条 体調が崩れていないか? 寒過ぎる冷房、熱過ぎる暖房、濁った空気に注意
第2条 やる気が落ちていないか? 何かスポーツを始めては? あるいは、対処療法として徹底的に仕事をしてみるのも時には効果がある
第3条 出勤が以前よりツラく感じたり、足が重く感じることはないか? ストレスの解消が必要だ。映画に行っては? 思い切って有給休暇を取ってバカンスに行ってもいい。もし有給が取れないようであれば、この記事を上司に見せてみよう
第4条 昔からの親友たちと疎遠になっていないか? まずは電話やメールでコンタクトをとってみよう。なあに、やってみれば意外と簡単に旧交を温められるはず
第5条 小さいことにキレることはないか? 家族や友人と感情的にこじれることはないか? 特に以前から付き合っていた異性と何か気まずい関係となっていないか? 自分の未来を描き、誰があなたのことを真に心配しているかを考えてみよう
第6条 入社直後は貯め始めていた貯金を、最近は取り崩していないか 最近の消費を考えよう。習慣的な無駄使いになってはいないか

今回の教訓

第6条、ボーナスの時期に考えるのは良くないな――。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

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 1946 年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら


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