「ある日、ルー大柴さんのマネージャからメールが来たんです。『ルー大柴ともども助かっております』というメッセージでした」。突然のメールに冨田さんは驚く。指定したURLのサイトや、張りつけたテキストをルー大柴風の言葉に変換してくれる『ルー語変換』を作ってから数カ月たったころだった。「あ、本人もネガティブにとっていないな。よかった」。冨田さんはホッと胸をなでおろした。
「ルー語変換」を作ったきっかけは2006年末に読んだ英語の本。なんとなくページをめくるうち、「ルー大柴っぽいテキストをつくれるサービスを作ったら面白いかも……」と思いついた。冨田さんはさっと頭の中で設計してみた。形態素解析にはMeCabがあるし、辞書はWeb上に無料公開されているオープンソースのものがあるから──あまり難しくなさそうだ。早速PCを引っ張りだしてコードを書き始める。すると5時間後には完成していた。コードの長さはHTMLを含めて、A4の紙1枚に収まる程度のものだった。
「こんなもの作りましたー」とPerlの開発者コミュニティに投げてみた。「おもしろい!」「こういう技術の組み合わせか!」。さまざまな反応が返ってくる。ソーシャルブックマークでも評判を集めた。ただ、そのあとのアクセスはゆるやかに下降線をたどり、盛り上がりは落ち着いたかに見えた。しかしそのころから、今度はテレビでルー大柴さんがブレークしはじめる。
「作って2カ月ぐらいたったころからアクセスが急に伸び始めました。ルー大柴さんの人気を後押しする形で、ほかのサイトやメディアでも取り上げられ始めました。テレビに取材されたり、本にしましょう、という話も出てきました」。「こんなことになるとは正直思わなかった」と冨田さんは当時を振り返る。
多くの人に使われるのがうれしくてどんどん機能も追加した。メールからも変換できるようにしたし、ルー語占いも作ってみた。機能を追加するたびに、みんなが楽しんで取り上げてくれる。ユーザーからの反応が素直にうれしかった。
「ルー語変換」には今後どんな機能を追加していく予定なのだろうか。冨田さんに聞いてみた。
「このサービスを作ってから『この単語はこういう風に変換してほしい』という要望がたくさん来るようになりました。そうした変換パターンを登録できるようにしてもいいかな、と思っております。ルー大柴さん本人がルー語を作らなくても、どんどんネット上で増えていく現象もシュールかな、と(笑)」
この「ルー語変換」については「開発にもそれほど苦労せず、楽しい思い出ばかり」という冨田さんだが、「1つだけ困ったことになっている」と告白する。「このサービスが出る前は『ルー語』はルーマニア語の略称でした。ただ、今は『ルー語』で検索してもなかなかルーマニア語の情報までたどりつけません。それに関しては申し訳ないな、と思っています。『ルー語 -大柴 』と検索してくれれば大丈夫かとは思いますが……」。
実はインタビュー後、それでも“ルーマニア語”が出てこないことが発覚。そこで
「ルー語 ルーマニア語 -変換 -流行 -大柴 -link:http://lou5.jp -link:http://e8y.net」
と、さらに絞り込むとたどりつけたほどだ。
5時間で作ったこのサービスがきっかけとなり、冨田さんはルー大柴さん本人にも会うことができた。「印象ですか? 出版の打ち合わせをしていたのですが、まじめな顔で普通に『ルー語』を使ってくるのでびっくりしました。笑っていいかどうか分からなくて……(笑)」
「PCばかり見ていると行き詰まりますよね……」と漏らす冨田さん。常に持ち歩いているのは、デッサンなどに使う大きな無地のノート。無地にはこだわりがある。「線が引いてあると、発想がそのラインに制約されてしまうから」。設計を一度白い紙の上に描き、それからコードを打ち始めることもあるという。ほかにはあまりモノを持たない。ただ携帯は2台使っている。なかでもソフトバンクモバイルの「X01HT」では、Windows Mobile上で動作するSSH/Telnetクライアントプログラム「Putty」を便利に使っている。「自分のサービスに障害が起きたときに便利ですから」。冨田さんはそう教えてくれた。
愛機はレノボの「ThinkPad X60」。よく使っているのはコマンドランチャーの「Launchy」とメッセンジャーをブラウザで統合できる「Meebo.com」、それからチャットシステムのIRC用には「Limechat」。IRCでよくいるチャネルは「#coderepos」だという。
PC以外ではテレビをよく見るし、ゲームでもよく遊ぶ。「ゲームにはヒントが多い」と冨田さんは語る。「ニンテンドーDS」をしているときに「こういうネットサービスを作ったらいいんじゃないか?」と、アイディアがよく浮かんでくるという。「2007年は『ルー語変換』でしたが、2008年も何かのサービスで話題作りをしていきたいと思います」。冨田さんは笑いながらそう教えてくれた。
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